第2話 最後の1回

 次の日。

 

 学校から帰ってくると、寝転がりながらスナック菓子を食べている幽霊少女、瑠香がいた。

 

 パリパリと小気味よい音を鳴らしているが、それ私のお菓子のはず……。

 

「勝手に人のお菓子食べないでもらえる?」

 

 強い口調で言うと肩をビクッとさせ、恐る恐るこちらを向く瑠香。

 

「ご、ごめん。美味しそうでつい……」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべて謝ってくる。思えば過去にも何度かお菓子が消えていたような気がする。食べたことを忘れているだけだと思っていたが、犯人はお前か。

 

 私はため息を一つ吐いた。今更過去を振り返ったってお菓子は返ってこない。

 

 そもそも幽霊なのになぜお菓子に触れるのだろうかと疑問に思い尋ねる。

 

「なんで、お菓子食べたり漫画読んだりできるの?身体透けてるのに変じゃない?」

 

「その辺はあたしにもわかんない」

 

 幽霊本人も知らないとなるとこの話題は迷宮入りだ。


 漫画やアニメで見るのとは違って、実際は幽霊とはお菓子食べたり漫画読んだりできる存在だったりするのかもしれない。

 

「そんなことより早くゲームしようよ。ゲーム!」

 

 やたらハイテンションだ。今日のゲームを心待ちにしていたのだろう。

 

 私は呆れ顔で、はいはいと返事をした。

 

 瑠香がこれやりたいとカーレースのゲームソフトを指差した。私はそのソフトを手に取り、ゲーム本体に差し込む。そして部屋に設置されたモニターの画面をつけた。

 

 二つあるコントローラーのうち、片方を瑠香へ手渡し、接続を確認する。

 

 操作手順は見ていたのでわかるそうで、説明は不要だった。

 

 コースやカーなどを選択し、ゲームがいよいよ始まろうとしていた。

 

「あたし、絶対勝つから」

 

 謎に自信満々に言い放つ瑠香。プレイしたこともないのにその自信はどこから湧いてくるのだろうか。

 

 負けたら騒ぎそうだし、少し手加減しようと心の内でで決める。

 

「手加減したら許さないから」

 

 ジト目で瑠香がこちらを見てきた。考えてることがバレている。幽霊ってテレパシー使えるのだろうか。

 

 気付けばカウントダウンがスタートしていた。カウントが0になり多くのカーが一斉に走り出す。

 

 すぐ最初のカーブに差しかかった。

 

「あ、あれ……?」

 

 困惑したような声が隣から聞こえる。

 どれほど傾ければいいのかわからなくて上手く曲がれないようだ。

 

 私はカーブを難なく曲がり、瑠香を引き離していく。

 

 一位に躍り出た。このペースを維持できれば勝てる。

 

 だが、後続が近くにいたため抜かされてしまう。そして障害物に当たり、一気に失速してしまう。

 

 その傍ら、瑠香は巻き返していたようで、私と瑠香の順位は横並びになっていた。

 

「お姉ちゃん、まてまてー!」

 

 追い越されないよう集中してプレイを進める。終盤に入り、ゴール付近で瑠香は障害物に当たってしまった。


 私はそれを横目にゴールへと辿り着く。

 

 遅れてゴールする瑠香。

 その心情は歪んだ表情を見れば一瞬で理解できた。

 

「くやしいぃぃぃ」

 

「でも、はじめてプレイしたのになかなか上手だったと思うよ」

 

「慰めとかいらないから」

 

 扱いが難しい……。どう接するのが正解なんだ。

 

「もう一回やろっ! 次こそ勝つから」

 

 フラグに聞こえたのは気の所為。

 自分にそう言い聞かせ、再プレイボタンを押す。


 ――――――――――

 

「また負けたぁぁぁ」

 

 崩れ落ちる瑠香。慰めようとして先程注意されたことを思い出し行動を止める。

 

 一体私はなんて声かければいいのやら。


 軽くため息を吐くと、瑠香はまたしても私に突っかかってきた。

 

「なんで勝ったのに嬉しそうじゃないの? 勝ち慣れてるから? ぐぬぬぬぬ、ムカつくー!」

 

 どうしよ、超めんどくさい。早く成仏してくれ。

 

「もう1回だ! もう1回!」

 

 そして再びプレイをし……。

 

 気が付けば瑠香が10敗以上していた。

 

「どうして勝てないの……?」

 

 ゾンビのように訪ねてくる瑠香。

 よく考えたら既に幽霊だし似たようなものか。

 

「私は長年プレイしてきてるんだから、今日始めたてで勝てるわけないでしょ」

 

「うぅ……でも、1回くらい奇跡が起こってくれたり」

 

「しないから」

 

「ああぁぁぁ……」

 

 項垂れる瑠香。

 しかしすぐ顔を上げ、目線を合わせてくる。

 

「最後の1回……」

 

 ボソッと呟かれたのは禁断の言葉だった。


 負けたら絶対さっきのは嘘で今度のがホントの最後の1回とか言うやつだ。

 

 今後の展開が容易に想像でき、肩を竦める。

 

 なので、言質を取ることにした。

 

「わかった。最後の1回ね。もし負けても次はやらないからね?もしホントの最後の1回とか言い出したら、除霊してくれるよう親に頼むから」

 

「うん!」

 

 そして始まった最終ゲーム。

 

 もちろん私が勝ちだった。

 

「ああぁぁお願いします、最後の最後の……」

 

「成仏したいんだ?」

 

「ひいいぃ!?なんでもないです!」

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