蒼穹の春

ナナシリア

蒼穹の春

 空が青かった。


 清々しいほどの青空の下、鬱陶しい世界を受容していた。


 春の心地よい陽気でじんわりと汗ばむ。


 君は、そこにいた。


 最初、見間違いかと思って目を疑った。


 そこにいるはずない。


 彼女は何年も前に東京に行ってしまったはずだ。


みどりくん、久しぶり」


 今日の蒼穹のように透き通った笑顔。


 その透明さは、あのころからなにも変わっていなかった。


蒼空そら


 最初、俺はここにいる理由を尋ねることもできず、ただ名前を呼ぶだけだった。


 あまりにも懐かしいその響きに、彼女の姿が滲んで見える。


「碧くん、大きくなったね。前はわたしと大して変わらなかったのに、今じゃもうこんなに身長差ができちゃった」


 昔と変わらず喋る蒼空の姿に感動を抑えきれない。


「蒼空は、変わってないな」


 彼女の姿は俺の記憶そのままだった。


「蒼空、なんでここに?」


 夢のような感覚だが、ずっと夢の中にいるわけにはいかない。


「わたしたち、もう大学生だよ。あのころとは違ってどこへでも行ける」


 そうだ。


 俺の時間はずっと止まっていたが、その間にも俺と蒼空は成長したんだ。


「俺、今度は蒼空の隣に立つ資格がないと思う」


「そんなわけないよ」


「蒼空がいなくなってから、一歩も進めなかった」


「気にしなくていい、そんなこと」


「俺が頼りないと、蒼空まで」


「これまで進めなかったなら、これから進めばいい」


「時間があったのに進もうとしてなかったんだぞ」


「その時とは状況が違うじゃん」


 彼女はあくまでも俺を受け入れてくれるらしかった。


「ていうか、わたしが隣にいてほしいの」


 彼女のしおらしい言葉に、俺は青空を仰ぎ見た。


 清々しい蒼穹が、俺を歓迎しているみたいだった。


 鬱陶しい世界に風が吹いて、春の匂いを運んだ。


「蒼空ともう一度会えて、よかった」


 俺の言葉に、蒼空は笑った。

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蒼穹の春 ナナシリア @nanasi20090127

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