第二話 烏の霊
「知ってる?烏の霊の話。」
「何それ?烏?」
「そう、最近マンションのごみ捨て場を漁って逮捕された人がいたでしょう?その人は烏の霊に憑りつかれてたからそんなことをしたんだって。」
「何だそれ。そんなの個人の問題だろ。」
「でもその逮捕された人の庭にはビー玉がびっしりと埋まってたんだって。ほら、烏って光り物を集めるっていうじゃない?だから、烏の霊の仕業だって皆は言ってる。」
「くだらないね。大方噂話に尾びれ背びれがついただけの話だろう。」
「そんなことないってばぁ。それに万が一烏の霊に憑りつかれちゃったらどうするのよ!ゴミを漁るようになっちゃうかもしれないのよ?」
「何だか霊の仕業としてはしょうもないというか…、肉体的に殺すんじゃなくて社会的に殺すというのは斬新だが。」
ある日、曇り空の下瑛士(えいじ)と桜(さくら)は最近聞いた怪談話に興じていた。とはいえ瑛士はそんな話、はなから信じていない様子である。
「あ、そうだ!その烏の霊は体は普通の烏と同じように黒いんだけど、何ていうのかな?うっすらと体が透けてて黒いは黒いんだけど、体の先の景色が見えるらしいの。これって凄くない?」
「そんな烏いる訳ないね。」
「またそんなこと言う!じゃあ烏の霊がいないって証明してみせてよ!」
「それは悪魔の証明だ。桜は烏の霊がいることを証明するために烏の霊を一匹でも見つければいいが、俺は烏の霊がいないことを世界中を駆け巡って確かめなければならない。そんなこと端から無理だ。」
「じゃあやっぱり烏の霊はいるってことね!」
「どうしてそうなるんだ…。そんなことをいったら宇宙人でもネッシーでも何でもいることになっちゃうじゃないか…。」
「ネッシーはトリック写真を使ってたって分かってるわよ。」
「はいはい、そうですね。俺は今から床屋へ行ってくるんだ。じゃあこれで。」
「何よその言い方。まあいいけど!」
桜は瑛士の態度に多少苛立ちを覚えたが、瑛士は実際急いでいる様子だったので仕方なく別れた。
瑛士と別れた後、桜は噂の烏の霊がいないものか辺りを見回した。しかし、目に入るものはいたって普通の烏や鳩。やっぱり噂に過ぎなかったかと落胆していたその時、おかしなものに気づいた。
景色の中に黒いものが混ざってるのだ。景色自体は連続しているため一見気づかないが、その中に黒い鳥のシルエットをしたものが紛れ込んでいる。
「あ、あれ!噂の烏の霊!」
桜は思わず叫んだが、件の烏の霊はその声に驚いて飛び去ろうとした。
「ちょと!待って、行っちゃわないで!」
桜は懸命に追いかけたが、なにしろ桜は至って普通の女子高生であり、運動部に入っているわけでもない。すぐに見失ってしまったが何とかどの辺りに行ったかだけは分かった。
「あのあたりって瑛士がいつも行ってる床屋さんがあるところじゃない?瑛士に後で烏の霊を見なかったか聞いてみようっと。」
桜はそう言うと自分の家へ帰っていった。
さて、烏の霊は果たしてどこに行ったのか?事実を言うと瑛士がいる正にその床屋に烏の霊は行っていたのだ。
その頃、瑛士は髪も切り終えて眉毛を整えてもらうのを待つのみだった。座っている椅子も後ろに倒され、リラックスしている様子である。
店主はというと眉を整えるため、カミソリを持ちながら諸々の準備をしていたところだった。その時、烏の霊は店の壁をすり抜けて店内に侵入すると店主に憑りついた。
烏の霊に憑りつかれた店主は真っ先に手に持ったカミソリを見た。カミソリは蛍光灯の光を反射し眩しいぐらいに輝いている。店主は喜んでカミソリに手を伸ばすが誤って手を切ってしまった。
これはいけない。もっと別のものを見つけなければ。店主は別の光り物を探すため店内をうろつき、最終的に瑛士のところで立ち止まった。
店主は瑛士の顔面にある二つの水晶玉に釘付けになりながら言った。
「じゃあ、えぐっていきますねー。」
「え?」
奇譚と呼ぶには邪悪なもの 浪速 千尋 @chihironaniwa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。奇譚と呼ぶには邪悪なものの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます