第一話:死神憑きの目覚め
私、
いつも通りの私の部屋。教科書だけの本棚、趣味も何一つもない殺風景な机、ただ寝るだけの布団、シミまみれの畳。
そこで目覚めた私は頭痛が治った余韻に浸り、また眠ろうとした。
しかし、眠れなかった。それどころか、自分の意志とは関係なく、身体は起き上がり、一人でに歩いた。
まるで身体が何者かに操られた感覚のまま、洗面所に直行し、鏡を見た。
茶色い長髪が黒く帯びてボサつき、翡翠の瞳は赤く帯びて吊り上げられ、目の下に隈があり、まるで何者かに取り憑かれたみたいに不気味だった。
何なのこれ!? 私、あの悪霊に取り憑かれたの!?
(悪霊じゃねえ、お前を襲ったのは死霊で、お前に取り憑いてるのは俺だ。)
心の中に別の声が聞こえた次の瞬間、鏡がぼやけ初め、私の本来の姿と黒髪と赤い吊り目の青年が映し出された。
その青年は黒い着物の上に赤い羽織を被っているが、いずれも着崩れて、白い肌がはだけていた。
しかし、それよりも気になったのは彼が持つ大きな首刈り鎌で、まるで死神を見ているようだった。
(まるで、じゃなくて、本物の死神だ。今、お前の身体はあの死霊のせいで衰弱に蝕まれてるからな、俺が取り憑いて、命を保っているんだ。)
そんなさらっと、命の危機を言われても、困る。私は惨めだけど、死ぬのは怖いから嫌だ。
(安心しろ、最強の死神である俺が守ってやるよ。なに、大船に乗ったつもりで任せろよ。)
安心できる訳ないだろう、馬鹿野郎。本物の死神憑きになるなんて、夢にも思わなかった。
そうこうするうちに死神である彼は勝手に歯を磨かされ、髪をとかされ、着替えさせられた。
だが、慣れてないのか、口元には歯磨き粉が付いて、寝癖が全然取れてないし、制服は皺だらけだった。
そんなことお構いなしに食卓に着いた。
「あら、起きてたのね。さっさと行きなさいよ。虫唾が走るわね。」
白髪混じりの黒い短髪と黒い瞳を持つ親戚の叔母さんの前だけサラダやらトーストやら用意されていた。
いつも、私を忌み嫌う叔母さんならしょうがないと普段なら諦めていた。
彼が私を操って、叔母さんの顔に
「なっ…何を…するんだい!?」
「おい、ババァ。お…私の朝飯がないってどういう了見だ。保護者としてあるまじき失態だろうが。」
「なっ…何で…あなたなんかに…ぎゃあああああ!?」
口ごたえをした叔母さんは更に締め付けられ、近くにあったソファーに放り投げた。
そして、叔母さんのトーストを奪い、むしゃぶり食い、サラダをかっ込んで食べた。
「次の夕飯でもわざと出さなかったら、今度はバックドロップか、ラリアットを喰らわして、地獄を見せてやるぞ、いいな。」
「ひぃ!?」
取り憑かれた私の眼光が叔母さんを震え上がらせ、操られた私は鞄を持って、登校を始めた。
これの何処が守るってのよ!?
「守ってるだろ。お前の威厳と人並みの日常を。」
私のこの時の一抹の不安は始まったばかりに過ぎなかった。
死神零/シニガミゼロ @kandoukei
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