隣の席の小鈴さんはいつも隠れて俺のノートに好意を書いてくる

A̸r̷e҉z҉i̶o҉

隣の席の小鈴さんはいつも隠れて俺のノートに好意を書いてくる

朝早くで人が少ない教室の中、俺は自分の机の中に入っているノートをいつも通り取り出して中を見た。ノートに書いてあったのは、


『好き』


という直球かつ端的な文字を見てまたか…とため息を吐いた。


「あ、おはよう夜野君。もしかして今日も書いてあったのかな?」


俺の隣の席で彼女はニヤつきながら尋ねてきた。隠していないのかと思うほど白々しい。


「そうなんだよね。また今日も書いてあったんだけど、小鈴さんは知らない?」


「知らなーい。」


そう言って小鈴さんは笑いながら俺を見つめていた。


だが俺は知っている。この隣の席の女の子、小鈴環が、前からこっそり俺のノートにこれを書いていることを。



始まりは三ヶ月程前だった。朝登校した後、俺のノートに書いてあった、『愛してる』との文字、正直寒気がした。どこの誰とも分からない奴からのメッセージが私物に書いてあったのだ。


当然、俺は身の回りの人達にそれとなく尋ねてみたが誰も何も知らない。


そして唯一知っているような素振りを見せたのは小鈴さんだけだった。


小鈴さんに聞くと、小鈴さんはニヤついたまま「知らなーい」と言った。


絶対何か知っているのを察した俺はその日から小鈴さんを警戒するようになった。


そしてある日の放課後、俺は忘れ物を取りに行った時に見てしまった。小鈴さんが俺の机からノートを取り出して何かを楽しそうに書いていた。


そして図らずとも見てしまった俺はその日から小鈴さんの言動に頭を抱えたのだった。小鈴さんの


『優しいところが好き』と書いてあった日には、隣に座っている小鈴さんが、


「多分その人は夜野君と関わったことがあってその時に夜野君が好きになっちゃったんじゃないかな?」


と言ってきた時には思わず小鈴さんから目を逸らす他無かった。本人はバレていないと思って言っているのだろうけど、俺は知っているから、もしかしたら小鈴さんがそう思っているのかと誤解してしまいそうになる。


だが、小鈴さんはそんなことを知るよしもなく、『昨日のサッカーしてるとこ、たまたま見えたけどかっこよかった!』だの『今日机の中にプリント入ってたよ。』とか正直怖くなってくる。だが、小鈴さんはいつも楽しそうにしてるからそれもそれで良いのかな?とも思っていたが……


最近になって、最初の『愛してる』や、今ここに書いてある『好き』のように直接的な文字が増えてきた。そしてその度に俺はギョッとした様子で彼女は見ていた。


彼女はいつも通り気づいた様子もなくただニヤニヤして俺の事を見ていた。


彼女はその直接的な文字を見ても、


「良かったね、夜野君。モテモテじゃん。絶対に夜野君のこと好きだよ。」


と自分で自分に墓穴を掘るばかり。


え、それって小鈴さんが……暑くなってきた顔を思わず覆うと小鈴さんは笑いながら言った。


「おー!凄い照れてるね!でも安心して、その子も恥ずかしかったと思うよ。……でも、夜野君にどうしても想いを伝えたかったんだと思うよ。私は。」


お願いだから少し黙ってくれ小鈴さん。


こんな状況で「実は俺、小鈴さんがこの文字書いてるの、知ってるんだ。」とか言えるわけがない。


「でも、本当はただの冗談とか遊びでしょ。こんなの本気な訳無いよ。」


俺は小鈴さんを否定するように言った。どうせ小鈴さんもこうして本当に俺のことを好きな人がいると思わせて遊びたいのだろう。


小鈴さんは俺の言葉を聞いて急に無表情になった。何だろう、何か琴線に触れるようなことでもあったのだろうか?


「そんなことない!」


小鈴さんは椅子から立ち上がって俺に向かってはっきりと力強く言った。


「この子は、絶対に夜野君のことが好きなんだよ!だって遊びだったらこんな長続きしないもん!どうにかして夜野君に自分の本心を伝えたいんだよ!」


彼女は少し頬を赤に染めながら言った。それは嘘をついているようには見えなかった。自分の思いをさらけ出すかのように勢いのある告白だった。


もしかして、本当に?


「小鈴さん?」


「あ、ごめん!驚いちゃったよね。あくまで私の意見だから気にしないで!」


小鈴さんは顔を真っ赤にしたまま机に突っ伏した。


……小鈴さんは勇気を振り絞って言ったのだろう。俺もその想いに応えるべきなのか。


「ねえ小鈴さん。」


「ふぇ?は、はい!」


もういつもとは見る陰もなく、慌てている小鈴さん。でも俺はさっきの発言に後悔はして欲しく無かった。


「今日の昼、少し二人で話さない?誰にも見えないところで。」


今日で、決着をつけよう。


「え。…え!それって!」


小鈴さんは脳の許容量を超えてしまったのか、「え、あ、うーー。」と唸るばかりで何も喋らなくなってしまった。誰にも見えないところで喋ろうというのは察するところがあったのだろう。


そのまま俺達二人は冷静になることもできずにそのまま午前中の授業は終わった。


そして俺達は誰かに気づかれないように時間をづらして学校にある空き教室へと向かった。先に俺から来たので今は小鈴さんを待っている。


ここで決着をつけようとは思ったものの俺が緊張して心臓の鼓動が早くなっているような気がする。


「あのー、来ましたよ……」

「……小鈴さん。」


「それで話というのは?」


「小鈴さん、俺、小鈴さんがいつもノートに書いてるの、知ってるんだ。」


「………え、え!?本当に!?」


「うん。前に小鈴さんが放課後に俺のノートに書いてるの知ってるんだ。」


そう言ったら小鈴さんは固まってしまった。そしてどんどんと顔が赤くなっていき、最終的には耳まで赤くなって顔を手で隠してしまった。


「ねえ、小鈴さん。別に恥ずかしくならなくて良いんだよ。俺も小鈴さんと同じだから。」


「え、それって!」


小鈴さんは俺の方を見て驚いていた。


「だから……俺も小鈴さんが好きだよ。」


その言葉に小鈴さんは涙を流してしまった。


「えっ!小鈴さん?」


「ごめん、嬉しくて……。私がずっと思ってた想いを夜野くんも持っていてくれたのが嬉しくて。」


そのまま俺は小鈴さんにハンカチを渡して泣き止むまで一緒にいたのであった。






◇◆◇


「おはよう小鈴さん。」

「あ、おはよう夜野君。」


そしてその翌日、俺はいつもと同じように小鈴さんと挨拶を交わした。


背負っていた鞄をおろし、席に座る。そしていつもの癖でノートを取り出してしまった。


でも、もう小鈴さんに言っちゃったもんな。


ふと思い出に浸るようにノートを開けるとそこには新しく『大好き』と文字が書いてあった。


「なっっ!?」


ふと小鈴さんの方を見ると彼女はいつものようにニヤニヤしてこちらを見ていた。


「大好きだよ、夜野君。」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣の席の小鈴さんはいつも隠れて俺のノートに好意を書いてくる A̸r̷e҉z҉i̶o҉ @aka186

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ