第4話 世界へ

 バーに入る。

 半地下の建物で、古びた雰囲気の。


 薄暗い店内、天井から吊るされた証明がカウンターの木目を照らす。

 外観よりは広く感じてしまう。


「ハッ、また来たのか」

 カウンターの奥、バーテンダーの男が不遜に声をかけてくる。

 金髪をキレイに撫で付け、金眼が薄くこちらを見つめている。

 酒の匂いが品よく香るこの店で、王のようにそこに立つ。

「暇だったんでな」

 私はそいつに答える、礼儀などいらんだろう。

 

 男は長い睫毛を伏せ、手元を見つめる。

 色の白い肌、薄い唇、細い指。

 硝子とガラスのぶつかる音。

 男はカウンターに一杯のカクテルを置く。

 

「ビノ・ドゥルセ・ナトゥラル」


 シェリー酒の一つ、甘みの強い種類。

 私の好きな酒だ。

「小憎たらしいな」

 私の一言に一瞥をくれただけでまた手元に目線を下ろす。


 この男はカクテルを作るときにシェイカーを使わないのだ。

 ステアという技法らしい。


男曰く、『あんなものは、見栄を張りたいだけの無駄手間だ』とのこと。

 他のバーテンダーが聞けば憤慨するだろう。


 青みがかった黒髪をかき上げながら、私は男に問う。

「吸血姫はいるか?」


男は答える

「さあな」

方をすくめながら。

 


 

 

 

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君ヲ描ク ポピーの騎士 @beb

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