第3話 いつかと今と

 昼下がり、イギリスの端角。

 ブリストルの路地裏。

 時計塔が見えるそこで、一人の男が筆を持っていた。向かう先は、羊皮紙と木の匂う真新しいキャンパス。等ではなく、ただの煉瓦の壁だ。


 金髪金眼の端正な顔をした妙齢の男。

 白皙の様からは箱入りの令息を思わせるがその瞳からは底しれぬ深みを感じる。


 それは、今や物語の中で語られる。古狼の様な、妖精の系譜に連なるエルフのような、刻の圧。


 彼は腕を上げる、絵の具を塗る、壁を染める。

 身の丈より高い壁を自らの幻想で作り変える、その行いを、人は芸術と呼んだ。


 そして、男がこの世界に現したのは、一人の女だった。

 白い肌、温かな頬、亜麻色の髪は肩の長さに届き、長い睫毛。

 その瞳は、優しく此方を見つめる、その瞳は、

 うつくしい翠緑の色をしている。


 

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