さらば地球よ

雨宮 徹

さらば地球よ

 ジャクソンは宇宙船に乗り、広大な宇宙を彷徨さまよっていた。たった一人で。



 戦争、貧困、環境汚染。それらがあるだけで十分だった。ジャクソンが地球を去る理由には。



 ジャクソンに行くあてがないわけではない。ある惑星を目指していた。通称イロニア。地球に近い環境であることは分かっている。そして、異星人がいることも知っていた。彼らとうまくやれるかは分からない。だが、人類よりはマシだろう。




 いよいよイロニアが見えてくると、ジャクソンは宇宙服を着た。いくら地球に似た環境とはいえ、大気がまったく同じかは分からない。それに――もし、地球と一緒であれば、空気が汚染されていることを意味する。



 ジャクソンが目を凝らすと、都市と思われるものが見えてきた。高層建物にはヘリポートのようなものがある。不法侵入かもしれないが、着陸場所は他に見当たらない。イロニア人も許してくれるだろう。





 宇宙船の外に出た時だった。



「おい、お前は何者だ!」



 振り返ると、槍を持った兵士がいた。



「異星人……か? ここは帝王さまの王宮だ。お前の処分を決めねばならん。異星人であろうと、それ相応の罰を受けねばならない! 私についてくるように。逃げ出したら……分かるな?」



 イロニア人との出会いは最悪だった。






 案内された広間はどうやら玉座の間らしい。帝王とやらが座るイスがある。装飾が派手だから、間違いない。



 しばらくすると、着飾ったイロニア人が姿を見せる。広間にいる者が一斉に跪くのでジャクソンもそれに倣う。第一印象が大事だ。すでに最悪かもしれないが。



「帝王さま、こちらがチキュウという惑星から来た異星人です」



 帝王が「もういい」というように手を振る。



「さて、貴様は私の家にズカズカと侵入したわけだが――」



「陛下、お待ちください。悪意はなかったのです。もし、陛下の住まいであると知っていたら、別の場所に降りました!」



「ほほう。しかし、どちらにせよ不法侵入だ。さて、どうするか。No.96325、お前ならどうする?」



 No.96325と呼ばれた人物が進み出る。



「陛下、貴重な異星人です。他の星との交流のためにも――」



 次の瞬間、No.96325が倒れる。帝王の方を見ると、手元には銃と思われるものを握っていた。ジャクソンはゾッとした。もしかしたら、すぐに殺されなかっただけマシかもしれない。



「No.17524、貴様が牢獄に連れて行け! 処分はおいおい考えよう。最も苦しい殺し方を考えるためにも」帝王の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。





「なあ、えーと……」



「No.17524です」



「君たちは帝王と同じ種族だろ? なんでナンバー呼びなんだい?」



「それは帝王さまがお決めになりましたので、私には分かりません」



「うーん、名前がないと呼びづらいな。そうだな、君は今から『フランク』だ」



 ジャクソンはフランクの肩を叩く。



「名前ですか……。そのようなものは必要なのでしょうか。番号でも構いませんが」



「いや、君はフランクだ。同じ種族で差別があるのは良くない」



 ふと、思った。果たして、イロニア人のことを正せる立場にあるのだろうか。人類にも差別があるのだから。





 数日後だった。フランクが再びやって来たのは。



「それで、どうなるんだい?」



「それが……餓死させよ、とのことです」



「なるほどね」



「ただ、場所はここではなく、地方になります。帝王さまは自分の住む都市で異星人を処刑したくないそうで」



「長旅になるかい?」



「ある程度、距離があります。そして、目的地は寂れたところです」





 移動すること数時間。彼らの乗り物に乗ると、あっという間に都市部から離れていった。



「ありゃあ、なんだい? みんなひもじそうじゃないか」




 そこには、雑草を食べているイロニア人の姿があった。



「あれでございますか。この星は都市部と地方の格差がすごいのです。全ての機能が都市に集約され、地方には食べ物さえ供給されないのです」



 そうか。ジャクソンも同じ目にあわそうという魂胆か。



「もうすぐ目的地です」



 フランクが指差す先には、掘立て小屋がポツンと建っていた。いや、小屋と呼んでいいかも分からない。



 まさにその時だった。空が煌めくと、轟音とともに隕石が降ってきたのは。その隕石は都市部へと落ちた。



「フランク、君の都市が! それに、都市に全ての機能があるんだろう!」



 ジャクソンは自分が処刑を免れたことに気がつきつつも言う。



「これでいいのです。救いようのない、我々は滅びた方がいいのです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さらば地球よ 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ