第6話 なのは亭に向かいます。

 ブラバルースさんとの話し合いが終わったらしいツロさんが私たちがいる部屋に入ってきました。


「クリスの奴が手伝いとしてこき使えることになった。ニーナ、登録は終わったか?」

「終わったわ。ツロ。あんたんチ、予備の寝床なんてあった? あと、ノックはしろって言ってるでしょ」

「あー、おまえら相手だろ? めんどい」


 ニーナさんはツロさんと仲が良いんですね。ブラバルースさんとも砕けている対応でしたからギルドの所属同士仲は円満なんでしょうか?


「寝床を確保できてないならなのは亭かギルド内宿泊所斡旋するからね。あんた、くっそ片付け下手なんだから」

 ツロさんを見上げながら見下すように言い切るニーナさんは強いなと思います。

「ちゃんと片付けてある」

 憮然とツロさんも言い返しますよ。どこか居心地悪そうに。

 整理整頓されている部屋だったかと言われたら疑問しかないですからね。


「あんただけが使いやすい環境でしょ。カシオンくんの寝床や専用の場所とかいるでしょ」

「シオン用の場所は明日にでもつくるさ」


 つくる……。


「つくるの。じゃあ今日はないのね?」

「今日はクリスの奢りでなのは亭だ。ニーナも来ればいいさ」

「あら。素敵。終業後になのは亭に行くわね。ちゃんと教えてあげるのよ」

「クリスが説明するさ。もとはクリスが受けた依頼だ」

 展開が読めませんが今日は『なのは亭』という場所に泊まるんですね?

 話しの流れからして宿のような気がします。


「じゃあ、私はこれからもツロさんのところでお世話になる予定、なんですよね?」


 ブラバルースさんが現れてちょっとわからなくなってきてましたから確認はしておきたいところです。


「お、おう。そう約束したろ。クリスの奴は、まぁ、初心者の手助けは得意な方だが、おまえは存在値が特異すぎて見失われるんだよ。ある一定の職業には最適なんだがおまえに最適とは限らねぇし、ギフトや適性はある程度様子見するが、生活できる程度に稼げるなら好きなことやってたって文句はでねぇ。まずは俺んトコでテキトーに過ごしてみな」

「はい!」

「クリスにギルド登録料は貰ってるし、紛失したという財布に関しては……。クリスを雇ったという御老体が『正当な持ち主でない者が使用すると呪われる財布』と言ってたらしいから帰ってくると思うわよ」


 ニーナさんが片目をパチンと閉じて手をひらりとしてくれました。

 捨てられて気がついたら行き倒れて優しいツロさんに拾われて。

 本当に、私、恵まれてますよね。


「呪われる財布」


 ツロさんがぼそっと復唱しています。

 兄の細工でしょうか?

 それとも姉の?

 確か、持ち主として登録されている私には何の危害もないのですが、それでも『半獣化』するとか『わたくしは泥棒です』と手の甲から肘にかけて入れ墨が浮いて、『靴底が剥げる』だったり『渡り鳥に糞を落とされる』感じの不幸が訪れると聞いていますね。

 いつだって私の持つ小物に悪戯避けだと言って悪戯するような兄と姉でした。

 私以外の家族はみんな才能あふれるレベルアップジャンキーでしたからね。ほんとうに羨ましいです。

 私を連れてツロさんは「なのは亭に向かうぞ」と冒険者ギルドを出ました。

 昼下がり。夕刻にはもう一歩という時間帯の通りには屋台をかたす人やしたくをはじめる人がちらほらいるくらいでちょっともの寂しく感じます。


「この辺りは昼までと夕方からじゃ出店も切り替わんだよ」

 まだ腹は減ってねぇだろう? と聞かれて私はツロさんを見上げます。

「おなかはまだすいていません」

 お昼はちょっと多めに頂きましたから。

「ん」


 街を取囲む外壁から大きな道一本で冒険者ギルドはありました。

 この大通りにはいろんな屋台が目を惑わすくらいに並んでいます。ただ、今は休憩や交代中らしいです。


「困った時は大通りを目指せ。中央に役所があるし、警邏の連中も中央には多いから」

「はい」


 きた時と逆に同じ道を歩いているというのに見知らぬ道を辿っている気分です。


「ここで横道に入るがちゃんと着いてこいよ?」

「はい!」


 心配そうに見下ろされたのでちゃんと着いていく気概をこめて返事をしました。力み過ぎてもダメですけどね。

 路地に入るとどこかほっとして空を仰ぎみます。

 大通りより狭い道。かろうじて荷車が通れるかどうかの路地です。


「あ、日陰なんですね」


 日陰であることにほっとしたということは少し日差しに疲れていたんだと思います。


「ん? ああ、日差しは眩しいし、暑いからな。たまに上から変なモン降ってくるから気をつけとけよ」

「え!?」


 なにか降ってくる!?

 慌てて見上げ、見回す私をツロさんが見ています。


「まあ、洗濯物とか渡し板とか、たまに追いかけっこ中の人間だな」


 驚かすことに成功したのが楽しかったらしいツロさんは楽しそうに笑いを噛み殺しています。

 いいんですよ。しっかり笑ってくださっても!


「そこの看板の店はヨムロックの雑貨屋、そっちはクーシーの魔具屋。武器防具関係は安全確保のために別の場所で固まってる。少し行ったら共用の井戸で、ベルムットのパン屋がそこ。あの緑のひさしが酒場兼食堂宿を兼ねる『なのは亭』だ。酒場ではギルドの下請けもしているから依頼もできなくはない」

 へぇ。便利なんですねぇ。

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森の魔法使い珍獣(ダメな子)を拾う 金谷さとる @Tomcat

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