第11話 朝とまたサバイバル *(英)

「おはよう、英」

上昇する意識と共に、眩しい光が目に入ってきた。

そして、なめらかな黒髪と女の子の顔。

「えええっと!?!」

思わず勢いよく体を起こす。

「おっとっ!」

女の子が巧みに俺を避けて仰け反る。

「あ…和香…」

そうだった、俺、超奇妙な場所で和香と寝ることになったんだった…。

そして…もう朝…?

向こうのほうで見える光からするに、夜は明けた様だ。

「お、おはよ…」

何故か気まずくなり、顔を背けて返事をする。

すると和香がふふ、と笑うような声が聞こえる。

それにしても。

起きてもこの状況ってことは、昨日のあれは全部夢じゃない…?

いや、え、本当に?

「待って待って待って、和香、本物?」

昨日の時点で言えよって自分でも思うセリフが口から飛び出して。

ふと我に返る。寝惚けてた。

「ゴメン、やっぱ意識まだ山の中だった…」

「えっと…何言ってるの?」

和香に心底不思議そうに、首を傾げられてしまう。

う…。

「えと!兎に角?!おはよう?!!」

勢いの強行突破。

「う、うん…」

気押されたように言う和香に、普通に申し訳なくなってくる。

「それで、英。思ったんだけど此処、流石に食べられそうなものないからさ。本当に早く出ないといけないと思うんだよね…」

不味そうに言う和香の言葉を、まだ半分寝ぼけている脳で繰り返す。

うん、ここ…食べ物…朝?朝ごはん?!

「そうじゃんご飯!!でも、俺全然腹減ってないんだけど、なんでだろ?」

「それは私もなんだよね。」

二人して考え込む。勿論俺は、考え込む、フリ。

「英、立てる?昨日も夜にならなければ行けそうだったしさ。チャチャっと出ちゃおうよ。」

先に和香が立ち、手を差し伸べてくれる。

何故かまるで、それが今までの自分の全てを救ってくれるような手に思えた。

「嗚呼、うんっ」

気合い入れにその手を、とって勢いよく立ち上がる。

さて。と言っても昨日の進展といえば、木登りの途中まで。

そしてそれは俺の醜態により失敗。

どうすれば…?

「昨日と同じように木に登って、これで窪みを作って休憩すれば行けそう?」

「成程!それならいけると思う。」

本来なら昨日のこと謝るべきなのかとも掠めたけど…、なんか、昨日あんな風に言ってくれた和香ならもう伝わったかななんて思ってしまう。

「あ、今昨日の誤った方が、とか思ったでしょ?もう忘れようね、ほんと怪我なくてよかったしかないから。」

「ええぇぇっ?!なんっ、なんでわかったの?!!!」

すっとこどっこいな声を上げてしまって、慌てて口を塞ぐが手遅れ。

「ふはははっ、英ってほんとわかりやすいね」

コロコロ笑いこける和香に、ムゥと拗ねたような真似をする。

それにしてもこんな笑ってる和香、結構本当に初めて見たかも。

まぁいいや、なんか仲良くなれてきたんだろうか。

「ふふっ、よし、行くよ?」

和香のその声を最後に、まぁまぁ過酷なものが始まった。



木々のゴツゴツした感触。足がとんでもない重力に引っ張られる感覚。

いや、足じゃない、全身だ。

「ちょ、ゴメンちょっときゅうけい…」

ものの数十分で息が上がった。なんで、どうして和香は、そうもスラスラいけるんですか?!!

「わかったー」

上の方から和香の声がして、次には真横に彼女がいる。

「よし、ほら。」

俺がしがみついてる幹の下らへんに、例の棒を当てて、座れるくらいの出っ張りを作ってくれる。

「あざす…あちぃ…はぁ」

もう、情けない。穴があったら入りたい。うん、今入っているんだけども。

「やっぱり昨日より暑いよね?でも上の方は涼しくなってたよ」

「う、上の方って…?」

まさか和香一人なら既に脱出してるのでは。

「いや、ここから5メートルくらいのところ。」

聞いて少しだけ安心する。見上げるに、ぶっとい幹から片側に多い茂る樹頭があるのは、あと15メートルほど。

この穴、よく考えると深すぎるだろ。

下を見て、10メートル位行ってるところを見ると、この穴の深さは約30メートルなのではと思う。

まだまだ後が長いぞ…。


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