第2話

久が亡くなって3年。

輝は8歳、勝千代は4歳に。

輝は可憐で、美しい姫と育っていた。

和歌の才能もあるし、よく学ぶ姫だった。

しかし母が殺された事を今でも引きずっていた。

そんな事を知らない民は輝を「撫子様」と呼んでいた。

一方勝千代は継室となった相勢局を実母と聞かされていて、実の母は伯父に殺されただなんて夢にも思っていなかった。

勝千代は武芸の腕を磨く毎日だった。


「勝千代、おはよう。武芸の練習?」

「はい」

「そう。上達したら、私にも教えて貰える?」

「いえ…私はまだまだですし、父上や春秀はるひで殿に習った方が早いですよ」

春秀とは時忠の妹、莉愛りあ姫とその夫、白銀しらがね春利はるとしの間に生まれた子で、輝と同い年。二人の従兄だ。

教えるのが嫌だった勝千代は、適当な事を言って誤魔化したつもりだった。

しかし。

「そうね…じゃあそうするわ」

そう言うと、輝は時忠に駆けつけて行った。

「え…!?姉上!?」


「父上ー!」

「輝か。どうした」

「父上、私も勝千代の様に武芸を習いとうございます」

「武芸か…しかし、女の身では役に立たぬと思うが」

「それでも良いです。私は少しでもお家の為に役立ちたいのです」

「…分かった。ただ、実戦は行かせぬぞ。それでも良いか?」

「はい!ありがとうございます!」


時忠は相勢局と勝千代、一部の側近を除き、全ての人に秘密として輝に武芸を練習させた。


輝は武芸の才能があった。


ほんの数ヶ月で、年の差はあるとはいえ2年程やっている勝千代を倒してしまった。圧勝だった。

「姉上…どこでそんな強く…!?」

「さて?」

輝は楽しそうに笑う。

「でも、勝千代。貴方の方が素早かったわ。とても追いつきそうに無いわ」

「姉上の方が素早かったですよ」

「そんな事ないって」

仲が良い勝千代と輝は、気付いたら一緒に練習するようになっていた。


しかし一応輝も姫。

婚約が決まってしまった。

「父上、出来る事なら春秀殿と結婚したいです」

「私も姉上と結婚するなら春秀殿がふさわしいと思います」

「ちょうど良かった。輝、そなたは春秀と結婚してくれぬか?莉愛も同意してくれた」

「喜んで!」


輝は嫁稽古に励んだ。和歌の練習もあったので武芸を練習する時間が全く無い。

そこで輝は就寝時間にこっそり抜け出し、庭で練習をした。

偶然にも、そこは誰も見回っていないので、連れ戻されたりしない。

眠いと思いつつ、しばらく練習していると-

怪しい男がやって来た。

輝は咄嗟に近くの背が高い芝生に身を隠した。

男は4年前、城に攻め込んで来た兵と同じ鎧を着ていた。

(敵兵か…!?)

輝が驚いていると、男はぼそりと呟いた。

「宇治田が鶴柴を滅ぼすこの戦の先陣を俺が切ってやる。まずは継室-久姫様の座を乗っ取った奴でも殺るか」

と。

(やはり、宇治田の者か…!)

しかも当時は幼くあまり覚えていないが、久を連れて行ったあの男と瓜二つなのだ。

男は躊躇なく城内へ上がり、そうっと相勢を長い眠りに陥れる為歩き出した。

行った事を確認すると輝は勝千代と春秀、自分の三人でこっそり作ったを使い、先回りした。

あの部屋の出入り口はたった一つ。

秘密の抜け穴を除いて。

輝はすぐに抜け穴を通り、相勢の眠る部屋へと入った。

しばらくすると、

(来た!)

男が入ってきた。

「誰だ、貴様は!」

「私は宇治田家重臣、むら久彦ひさひこと申す」

輝が木刀を構える。

物音で相勢が起きた。

「何事じゃ!?」

輝は木刀。対して久彦は真剣※。誰がどう見ても不利だ。

「義母上!逃げてください!」

そう叫んでいるうちに男の刀は輝の頬を擦り、傷を付けてしまった。

(痛い…!稽古の時より痛い!)

しかしここでくじける輝ではない。

輝は全力で男の腹を突き、男は倒れ刀を手放した。

真剣の方が威力が高い。

輝は咄嗟に刀を奪い、男の首めがけて刀を振った。

次の瞬間。

刀は紅く染まり、男は胴と首が切断され、無惨な姿に変わり果てていた。

輝が討ち取ったのだ。

「輝!無事?」

「はい。すこし、頬の部分を斬られましたが」

輝が斬られた頬の部分を指差しながら言う。

「まあ…」

「後、彼は『宇治田が鶴柴を滅ぼす戦』と言っていました。また宇治田が攻め込むかもしれませぬ」

「そう。教えてくれてありがとう。時忠様に報告しないとね」

「はい」


翌朝。

「父上!」

輝は箱を持って時忠に駆けつけた。

「輝!?その傷はどうした!?」

「昨日の夜、宇治田の不届き者が我が城へ侵入し、義母上を討ちにきたが為、輝が討ち取って参りました。その際に斬られたのです。それと、その不届き者の首を」

輝は箱を開け、中に入っていた首を見せた。

「よく頑張ってくれた。そなたは私よりも実力や才能があるかも知れぬな」

「ありがとうございます。そして、不届き者は『宇治田が鶴柴を滅ぼす戦』と言っていました」

「何だと!?万が一の為、兵糧を蓄えるぞ!4年前と一緒にはしたくない!」

しかし、いくら待っても敵は来なかった。
















※真剣とは真面目とかの真剣ではなく、真(本物)の剣という事。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼の撫子 額田兼続 @Nekofuwa-jarashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説