第28話 Home

「この戯けた電報の狙いは、十中八九、わらわであろう。どこぞの小物保安官を狙うのならばとっとと賞金首にでもしてやればいい話じゃからな」


 今の自分の外見年齢は腹立たしい事に10代前半である、そんな年頃の少女に懸賞金を掛ける訳にはいかなかったのだろうと、タマモは判断する。


「誰の目にも留まる新聞と言う媒体を使った以上、町ぐるみの作戦であることは確かじゃ。

 じゃが、それだけの事を行うためには核となる人物が必要となる。

 そこでじゃ……おい、そこの戯けいつまでも奇妙な踊りをするのは止めて会話に加わらんかい」


 マーガレットが拉致監禁されている可能性が高いと聞かされ、文字通りの右往左往していたジョンにタマモは呆れた顔をして話しかける。


「下僕1号。あの町でこれを実行できる力を持つ奴となれば誰じゃ?」

「んー……。まぁ皆をまとめられる人望があると言えば、苛立たしい事にウチのクソ親父ではあるのだが……。親父はカッチカチの石頭だぜ? とてもじゃねぇがマーガレットを人質エサになんて頭にもよぎらねぇよ」

「他には?」

「そうだな、町長のワトソンさんは調停型の大人しい人だからな、こんな派手な仕事をする人じゃない。一番可能性が高いとすればあのクソジジイだが……」


 と、ジョンは屋敷もろとも粉微塵になった、自分をはめようとした男を思い出し――


「それじゃな。恐らくはお貴様をはめようとした、あの何とか言う男じゃろうな」

「え? マジ? アレを生き残ったの?」

「阿呆が、わらわが殺す気ならばきっちりと頭から喰ろうておるわ。アレはあくまでも、避けようのなかった不運な事故でしかない」


 己がなした大破壊を、唯の不運な事故と胸を張って言い張るタマモに、ジョンは呆れを通り越して感動すら覚えた。


「あの男の仕事と言うのならば納得も行く、なにせ奴にはわらわを逆恨みする動機もあるでな」


 ふーやれやれ、これだから小物はとタマモは肩をすくめる。


「だが、タマモ様。あの男はタマモ様の力を良く知っている筈だ」


 一族の仇が生きていた事に、複雑な感情を抱きつつもハカンはそう言った。


「じゃな。どこの誰に何を吹き込まれたのかは知らぬが――

 哀れな事よ、奴はこの金毛白面たるわらわを退治できると舞い上がっておるらしい」


 そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべるタマモに、ジョンはあっさりとこう言った。


「でも今のお前は見た目だけは完璧な単なる超絶ウルトラ美少女でしかねーじゃん」

「………………かっかっか!

 良かろう! わらわに弓引くことの恐ろしさ! 此度こそは骨の髄まで教えてやるとしよう! 楽に死ねると思うてないぞ!」

「え? いっいや? ちょっと待ってタマモ? タマモさん⁉ もしかしてノープラン⁉ ノープランなんですか⁉」

「やかましい! わらわは売られた喧嘩は100倍返しと決めておるのじゃ!」


 こうして、ジョンたち一行は始まりの町、ナスカッツに戻ることになったのだ。






 もう少しで町の影が見えてくると言った所で、ジョンは馬を止めハカンにごく自然な口調でこう言った。


「おう! じゃっお前はここで待っててくれ」

「は? 何を言うのだ突然?」


 当然の如く一緒に攻め込もうと思っていたハカンは、突然の話にあっけにとられながらそう言ったが、ジョンは困ったような笑みを浮かべてこう返した。


「何をも何もねーだろ?

 ナスカッツはニューデンプションとは違うごく普通の田舎町だ。

 そんなところでインディアンが暴れでもしたら、お前は間違いなく賞金首だぜ」


 下手をすれば、ナスカッツの町そのものが敵なのだ。

 白人に暴行を働いたインディアンがどういった末路を迎えるのか、西部の人間ならば誰でも知っていることだ。


「それがどうだというのだ友よ! オレはオマエの為にこの命を使うと誓った!」


 激昂してジョンの胸倉を掴むハカンに、そのジョンの胸の下から声がかかる。


「やめよ。下僕1号2号。わらわの頭上で喚き合うでない」

「……申し訳ございませんタマモ様」


 そう言って手を離したハカンに、タマモはからからと笑いながらこう言った。


「なーに。先ほどはああいったが、此度は何も町と争いに来たのではない。あっさりとあの小娘をすくい出し、サラリと引き上げる心づもりよ。

 かかか。わらわは権謀術数の限りを修めし九尾の狐ぞ? 大船に乗ったつもりで待つがよい」


 自信満々にそう言うタマモの命令に、ハカンは不承不承ながらも頷いた。


「ってこった!  超絶美少女SSRロリが待ってるお前に無茶させられねぇ!

 マーガレットあいつ成人女性駄肉の塊でしかねーけど、腐っても幼馴染って奴らしいからよ! ちょっと話付けてくるわ!」


 そう言い残し、ジョンとタマモが歩いて町へと向かっていくのをハカンは黙って見守るしか――


「つッ」


 と軽い頭痛が走り。ハカンは片眉をしかめた後、小さくなった2人の陰に向かってこうつぶやいた。


「……いもう……と? 友は……いったい、誰の事を言ったのだ? オレの部族は、オレ以外は……」





【ウィンチェスター懲らしめ大作戦│(作戦立案:偉大なる傾国の大妖金毛白面九尾の狐様)】


 ①隠形で忍び込みマーガレットを救出。

 ➁マーガレットお荷物を安全な所に逃がす。

 ③ウィンチェスターをしばきたおす。


「…………え? これだけ?」

「ん? 他に何がいるのじゃ?」


 町が視界に入るか入らないかの所で、さーてこれからとジョンがタマモから聞かされた作戦は以上の事だった。

 何を不思議がっておるのじゃこ奴は、と小首をかしげるタマモに、ジョンは小さな声で怒鳴り上げる。


「なんだよこのシフォンケーキ見たいなふわっふわの作戦は⁉ お前それでもホントに幾つもの王朝を滅ぼせたの⁉」

「なーにを当然の事を言っておる、そんなものは前提条件じゃぞ? わらわはそう言う存在じゃ」


 そう言ってカラカラと笑うタマモを見て、その滅ぼされた王朝ってのはタマモの無茶振りのおかげで滅びちゃったんだろうなと、ジョンはタマモの犠牲となった人達に黙とうした。


「ほれ、さっさと行くぞ下僕1号準備せい」

「えっ……あーうー」


 不安山盛りと言うか不安以外存在しないが、さりとて駄肉おとな形体のタマモに任せたら町そのものが壊滅してしまう可能性が高い。

 クールで素敵な作戦を思いつけるでもないジョンは、胃に痛みを抱えつつもタマモから隠形の呪符を受け取ったのだった。





(哨戒は……居ねぇか)


 ナスカッツの町は2m程度の木の塀に囲われた構造をしており、町の出入り口は東西南北に1つずつ存在する。

 東からやって来たジョンたちだが、どちらかと言えば人通りの少ない北側から侵入することにした。


『グズグズしとらんで早うせんか、下僕1号』


 一歩前を進むタマモから声がかけられる。

 タマモが掛けた隠形の術は対象から人の意識が向かなくなると言う事でしかない。

 派手に動いたり大声を出すなど、注目を浴びるような行為をすればその術は簡単に解けてしまうし、30分と言う制限時間も存在していた。

 

 勝手知ったる生まれ故郷ナスカッツだ、小さな田舎町という事もあり30分あればギリギリ、マーガレットを見つけ出すことは出来るだろう。

 タマモが暇を見つけてはセコセコと作ってきた呪符も多少はストックがあり、万事が滞りなく上手くいけば、タマモの立てた作戦の様なものでも目的は果たせるはずだ。ジョンはそう祈りつつ、ソロソロと町へと向かう。


(ったく、なんでこの俺があんな駄肉相手に)


 マーガレットとの関係は幼馴染の一言に過ぎる。昔はソコソコ可愛かったと思うが、10代を超えたあたりからグングンと背が伸び、胸や尻あちこちが無意味かつ無遠慮に膨らんでいった。


 女の価値と言うものが全く分かっちゃいない愚民共には多少モテるようだが、あの女の何が良いのか自分には全く持って理解できない。


 だが、今の自分はその理解できないもののために、危険に飛び込もうとしている。

 その事実に自然と口の端が緩んでくるのをジョンはどこか楽し気に感じていた。


(まぁ、幼馴染って奴らしいからな、しゃーない)


 言ってしまえばただそれだけの事。

 それだけの事で十分だった。


 超絶美少女SSRロリの次の次の次の次の次の次の次ぐらいには大事な存在のためにと、ジョンは気合を入れなおし、改めて目の間を歩く超絶美少女SSRロリを眺め見る。


(まぁ、このバカ狐の作戦が穴だらけなのはある意味では当然の事だ)


 ジョンは先日目のあたりにしたタマモとバコタールの戦い怪獣大決戦を思い出す。

 タマモの全盛期がアレだとすれば、作戦がどのように転ぼうとも、いざとなれば力づくで何とでも出来てしまうのだ。


(だが、今のタマモは見た目通りの超絶美少女SSRロリでしかない)


 多少のマジックを使えるとしても、それは人間に出来るレベルまで低下してしまっている。だが、タマモのイメージの根底には、常に己の全盛期の力が映っており、どうしても大雑把になってしまっているのだ。


(俺がしっかりしてやらないとな)


 と、ジョンは年に一度あるか否か程度に顔を引き締めタマモの先へ視線を向ける、そこには見慣れた町の入り口が映っていた。


(ん?)


 だが、見慣れた筈の風景に違和感が存在したていた。

 町の入り口のど真ん中に、見知らぬ奇妙な人物が、身の丈程の棒を両手で持ちピンと背筋を伸ばして立って居たのだ。

 その人物が身にまとっている衣服も見たことの無いものだった、太いプリーツが入った赤いスカートにタマモの服と似通ったデザインの白いシャツ。

 その人物はキリリと引き締まった瞳で、艶やかな長い黒髪をピッチリと後ろに回して、細く可憐なうなじのあたりでひと房に結び留めていた。

 それは良くとがれたピカピカのナイフのように尖ったオリエンタルな超絶美少女SSRロリであ――


「やぁ素敵なお嬢さん? ちょっと俺とお茶でもしませんか?」


 ――隠形の術はあっさりと砕け散った。

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