第24話 決着! 怪獣大決戦!
中央のやぐらを粉砕しながら地面をバウンドしながら何かが高速で飛んで吹き飛んで――
「ぶげっらッ⁉」
揺れる大地でまともに立つことも出来ないジョンは、まともに
歯を食いしばりながら立ち上がろうとしたタマモは、何かを下敷きにしていることに気が付いた。
そこには、我が身を犠牲にして自らの主を守らんとした下僕の姿があったのだ。
「かか……か。少し……は、下僕……としての……役割……」
よろよろと立ち上がろうとしたタマモはとあることに気が付いた。
今の自分はこの
しかし、今までの自分は、忌々しい子供形態から成人形態になるためにそれを行ってきた。
だったら、成人形態の今、この
――思ったのでやってみた。
「かか……かかかかかかかかか!」
タマモの全身に全盛期に匹敵する程の力が巡っていた。
その分、
「よかろう。今までのはウオーミングアップと言うやつじゃ」
ぐっと、力を入れなおしたタマモの尾が増える。
「ゆくぞえ? 分からせタイムと言うやつじゃ」
ゴンゴンと先ほどとは比較にならない程の炎がタマモの背後に生み出される。
「消えろ――下郎」
9つの極大の炎は敵陣を壊滅させた。
★
「ふむ、あの力を出せばこの通り、か」
敵陣を壊滅させたタマモの姿は、少女の姿に戻っていた。
タマモは不満げに小さな手を眺めていたが――
「あっ! まっ! まてっ! 今の無し! 消えるな! まだ何も終わっちゃおらん!」
交渉相手を粉砕してしまった事に気が付いたタマモは慌てふためき両手をバタバタとさせ――
「なッ⁉」
ガシリと、何かがタマモの足を握りしめる感触がした。
祈りが天に通じて、田舎の創造神が舞い戻ったのかと視線を向けてみれば、そこには頬をげっそりとこけさせた
「なんじゃ、紛らわしい」
「なんじゃだねーんだよ! なんじゃだッ⁉」
ジョンは不死鳥のごとき勢いで立ち上がり、ゆっさゆっさとタマモを揺さぶる。
「あーはいはい。良かったでちゅねー死ななくて」
「テメェコラなめてんのか?」
「……………………はっ」
「てめっ! 今鼻で笑いやがったな⁉」
「やかましい!
貴様がすべきことは
「徹頭徹尾てめぇのせいじゃねぇかッ⁉」
『……はぁ、なんで私がこんなバカたちに……憂鬱だわ』
「「って何⁉」」
突然真横からかけられた暗く湿った声に、2人は抱き合いながら飛びのいた。
そこには『ぼさぼさの黒髪を伸ばせるだけ伸ばしました』と言った感じの、ジメジメと湿った雰囲気の成人女性が立っていたのだ。
「お……おぉ……まさか、貴方はバコタール様?」
そのジメジメ女に祈りを捧げるような声を上げたハカンに、ジメジメ女は悲しそうな眼をして|(もっとも、長い前髪で両目は隠れていたが)、ささやく様にこう言った。
『貴方……いや、そう、ですね……我が子……と言うべきでしょうか』
「あぁ……あぁぁ」
『悲しい思いを……させてしまいましたね。そう……ですね……私に兄様のような力さえあれば』
「いえ、いえいえ。これも全ては人の業。この悲しみもこの怒りもこの嘆きも、全て人と人の間で生じたものです」
ハカンは歯を食いしばりながらそう言って、握った両こぶしを強く大地に押し付ける。
その様子をバコタールと呼ばれた存在は悲しそうな眼をして|(もっとも、長い前髪で両目は隠れていたが)――
「おい、そこな、ちょっといいか?」
『あ"? んだよテメェ?』
感動のシーンにずけずけと足を踏み込んできたタマモに、バコタールは口をへの字に曲げながら急角度で睨みつける|(もっとも以下略)
その態度の急角度にタマモが足を踏み外すと、バコタールはもう一歩踏み出した。
『ったく。なんなんだよテメェはよ? あたしがメランコリックな気分で自分の無力さにへこんでいたら、なんかしゃかぽかと訳の分からねぇ儀式をはじめやがって?』
「なっ……なっなっ……」
『いいかこのよそ者?
あたしはな、あたしの役割はもう終わってんだよ。
とっくの昔に舞台の幕は下りちまって、あたしは控室どころか家に帰ってめそめそ涙で枕を濡らしてるっつーのによぉ?
なんだあの奇妙奇天烈不愉快極まりない踊りはよぉ?
どこのどいつか知ったこっちゃねぇが、お前はわざわざあたしに喧嘩売りにやって来たのか?』
わなわなとうつむきながら震えるタマモを、ヤンキー座りで下からえぐり上げるように見上げるバコタール|(もっとも以下略)に――
「あっはっはっは。いやーどうもウチのバカ狐がお騒がせしてしまいすみません。所でこの後暇ですか? ちょっとお茶でもいたしません?」
輪をかけて空気を読まないバカがキメッキメのポーズで割り込んできた。
『おいお前? なんだあの人間? お前のツレだよな?』
「……不本意ながらな」
『そっかー。良く分からんが、お前はお前で苦労してるんだなー』
「……不本意ながら………………な」
色々な感情があふれ出さないように、歯を食いしばりながらプルプルと震えるタマモに対し、すくっと立ち上がったバコタールは苦笑いを浮かべつつも優しい目をしながら|(もっとも以下略)こう言った。
『まぁいいや。あたしも久しぶりに暴れて少しは気分が晴れたってもんだ。いいぜ? なんかあたしに用があるんだろ?』
★
遥か昔、世界がまだ水だけだった頃、その世界には2つの何かが存在していた。
それは肉体もなく・名前もなく・呼吸もしない・動きもしない、ただあるだけの何かだった。
水から霧が立ち込め、それが空となった頃に、水の揺らぎとともに、善なる存在が生まれ、自らを
一方、後からは生まれるものが悪である事を知っていたココマートは、後から生まれるものに「水中で目を開いておくといい」と嘘のアドバイスをした。原初の水に視界を持ってしまったその存在は、水の外での視界を失い、結果、悪は
『と、我が子たちに伝わっているようですが、その真相は異なっています』
ユマ族に伝わる創造神話をしっとりとした口調で語ったバコタールは、そう言ってゆっくりと顔を横に振った。
『兄様は何もわが身可愛さに私に虚言を弄したのではありません。
先に生まれてしまった兄様は、善なる神がたどる定めをも知ってしまったのです』
バコタールの言葉を聞いて、彼女以外では唯一それを知るハカンは、苦渋に満ちた顔をする。
『ええ、我が子ならば知っているでしょう。
善なる神はその末路にて、自ら創りし者たちに死を教えるために自ら死を選ぶことが定められていたのです』
善神ココマートはその末路にて、あえて彼に嫉妬していたカエルの策略に自ら嵌り、命を絶ったと語られている。
『兄様は、私にその運命を背負わせる事を良しとせず、あえて善なる神の役割を背負ったのです』
悲しそうに、切なそうに、愛おしそうに、しっとりとそう語るバコタールに、タマモは馬鹿馬鹿しいと言いたげな口調でこう言った。
「はっ。何のかんの言っても貴様は目を失い、暗い地下に押し込められたんじゃろが。なーにをおめでたいことを言っておる」
『あ"? 創造神なめてんのか? 高々目ん玉の一つや二つ無かろーが視力に問題なんかありゃしねぇんだよ?』
そう言って長く垂れ下がった前髪をがばりとかき上げたバコタールの眼窩は確かに空洞ではあった。
『大体なぁ、あたしのこれは生まれつきなんだよ。原初の塊から生まれ落ちるときに欠落したんだ。
だが、完璧なる存在であるはずの創造神がそう言う訳にはいかねーってんで、兄様がそう言う話を作ったんだよ』
バコタールはそう言って空虚な眼窩でタマモを睨みつける。
「おっおい。いいのかお前の所の神様、大分ファンキーな感じだが?」
「う……うむ。少し時間をくれ友よ」
自分のイメージとは太平洋を挟んだほどの距離があった創造神の在り方に頭を抱えるハカンの肩を、ジョンはポンポンと優しくタッチした。
その様子を見てか、バコタールは小さく咳ばらいをして話を続ける。
『私が兄様の真意を知ったのは、兄様が天に帰った後でした。
悲観に暮れた私は、暗い地の底へ落ち、喪に服すことにしたのです』
タマモと直接交渉させるとまた喧嘩を始めかねないという事で、ジョンが代理人となりとりあえずバコタールが話した内容を要約した。
伝承においては:①ココマートがバコタールを騙して盲目にする②バコタールがショックで地下に③ココマートの死となっているが。
実際は:①元々バコタールは盲目➁ココマートの死③ココマートの真意を知り喪に服すため地下に。
と言う流れらしい。
『まぁ、おおむねそんな感じで』
「あっはい。そっすか」
なんかこの神様、自分の信者? とそれ以外の対応が極端だなとジョンは思いつつ、ここに来た目的を話す。
★
『んーーーーー』
タマモの願いである『龍脈の力を彼女向けにチューニングする』と言う依頼を受けたバコタールは、眉根を寄せながら|(もっとも以下略)低くじっとりとした呻きを漏らした。
その、あからさまに不穏な空気を感じ取ったハカンが思わず口を挟む。
「……どうなのですか? バコタール様?」
『そうですね我が子よ』
バコタールは腕組みをぬるりとほどき、じっとりと柔らかく姿勢をなおしてこう言った。
『誠に申し訳ございませんが。その願いはわたしの力を超えています』
「なんじゃと⁉ 善だか悪だかは知らぬが、貴様は創造神なのであろう⁉ 創造神ならば龍脈なぞ己の腹の中じゃろうが⁉」
そう怒鳴るタマモに、バコタールは悲しそうな眼|(たぶん)をしてこう言った。
『まぁ。それはそうなんだけどよ……。お前も古い
あたしたち神はそれを崇め奉る人間あっての事だ。
確かにこの子たちはあたしたちが創ったよ?
ああ、この子たちの世界の中でそうなってるからそうなんだ』
「だけど、その子たちはもう居ない……と」
悔しそうな顔をするハカンの隣で、ジョンはポツリとそう呟いた。
鶏が先か卵が先かではないが、神とは人間があっての存在なのだ。
『この子の前で言うのは憚られるが……。
言っちまえば、あたしは『先が見えてる小さな世界の終わりかけの神だ』
天に昇った兄様なら話は別だろうが、兄様は当の昔にグレート・スピリッツと一体化しちまってる』
「なっ! ならばその兄様とやらをここに呼んで来い!」
『……そんなもんが出来るんなら当の昔にあたしがやってるよ、兄様にこの世で一番会いたいのはあたしなんだ』
口惜しそうにそう呟くバコタールを前に、3人は言葉を発することが出来なかった。
★
『まぁ。せっかく訪ねてくれた客人に、土産の一つも持たせないのはこの地に生まれた創造神の恥だ』
と言ってバコタールはすっと手を伸ばす、すると空間に切れ目が出来てそこからターコイズで出来たコヨーテが生まれ落ちた。
『あたしが喪に服してる間に練り上がった龍脈の力だ、そいつがあれがお前さんが最後に見せた力を5分だけ使えるだろう』
「「……あれが……5分?」」
5分もあれば、小さな州ぐらい壊滅状態に出来るんじゃないだろうかと、ジョンとハカンはあの地獄のような光景を思い出し体を震わせる。
それを受け取ったタマモは、フンと鼻を鳴らしつつ、小首をかしげてこう言った。
「まぁ、貰えるものは貰っとくがの。なんでこの意匠なんじゃ?」
『はっ決まってーだろ。ウチじゃ狐の天敵がそいつだからだ』
そう言ってニヤリと頬をゆがめるバコタールに、タマモは額に青筋を浮かべつつも満面の笑みでこう言った。
「なんじゃ貴様? まだ分かり足りんのか?」
『はっ、てめーこそ。はるか遠くからここまで逃げて来た負け狐じゃねーか。創造神なめてんじゃねーぞ?』
「あっ? あっあっ?」
『んだごら? なんか文句あんか?』
このままほっておけば、また昨夜の地獄絵図が再会されると、ジョンとハカンは全力で2人の間を引き離す。
『はっ! あばよクソ狐。それ1個しかねーんだから無くすんじゃねーぞ!』
「やかましい! 貴様はこの世の終わりまで地の底でひきこもっておれ!」
そこから少し離れた丘の上で、どこにでも居そうな騎兵隊員は静かにその様子を見守っていたのだった。
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