The 2nd/ナインテール・meet・インディアン(九尾、インディアンに出会うの巻)
第3話 お偉いさんからのお願いは命令と等しい
ジョン達がすむ町、ナスカッツのはずれには広大な牧場がある。
そこを経営するのはウィンチェスターと言う男で、彼は南北戦争で大きな功績を上げたという元軍人であり、町一番の名士でもある。
当然の事ながら、お飾りの保安官でしかないジョンでは、どう頑張っても逆らう事など出来ない雲の上の大物であった。
ジョンがタマモの引受人となり数日後、彼はそんな重要人物から突然の呼び出しを受ける事となる。
心当たりと言えば、タマモの事以外に思いつかないジョンは、全力で言いくるめることを決心しつつも、何故ウィンチェスター程の男が、こんなことに注視しているのか疑問に持っていたのだが……。
「え? へぇ、牧場荒らしですか?」
「なにが『ですか?』だこの若造! テメェ仮にも保安官を名乗ってるくせになんだそのふざけた態度は! 胸のバッジはただの飾りか!」
応接間に通され、秘書と言う名の荒くれ者から説明を受けたジョンは真っ向からの罵倒を受けヘコヘコと全力で頭を下げつつ心の中でグチを漏らす。
(ったく、何が保安官だよ。いつもは治外法権扱いで牧場に寄らせやしねぇじゃねぇか。こんな時だけ都合よく扱いやがって)
「あ~ん? 何か言ったかぁ?」
「いっいえ! 何も言ってません!」
心の中のグチが表情に出ていたジョンが、秘書の言葉にビクリと背筋を震わせ頭を下げると、別の声がかけられる。
「はっはっは。まぁまぁ、そう威嚇するんじゃないアーセナル」
よく言えば貫禄ある、悪く言えば肥満体のウィンチェスターは、ニコニコとした笑みを浮かべてこう言った。
「だが、まぁそう言うことだ、ジョン君。君が父上の後を継ぎそのバッジを胸に抱いた経緯は私も良く知っている」
ウィンチェスターは遠い目をしながらそう言った。
ジョンの父は、およそ20年前この町を切り開いた最初のメンバーである。
人望厚く品行方正・公明正大であった彼は、町民全員の推薦を受け保安官となった。
だが、その息子であるジョンは父親を悪い意味で反面教師にしてしまったかのように、女好き|(幼女限定)かつ金と権力にめっぽう弱い小物に育ってしまった。
このままではろくなことにならず、フラフラと悪の道に吸い寄せられて破滅すると確信した彼の父は、自分の監視の目が届く様にジョンを保安官補と言う首輪をつけ24時間体制で見張ることにしたのだ。
そして始まった保安官生活は、ジョンにとって地獄そのものだった。
休む間もなく仕事を押し付けられ|(その大半は力仕事の雑用)、隙間時間は銃を含めた戦闘訓練などなどなど。
やってられるかと、反旗を翻すことは何度もあったが、そのたびに完膚なきまでに叩きのめされた。
だが、生まれ持った性格と言うのは、その過酷なしごきでも変えることは出来なかった。
いや、むしろ悪化した。
出来上がったのは、とびっきりのポテンシャルを持ちつつも、いかにすれば楽をできるかを常に考える小物の変態であった。
そんな彼の父親だが、ジョンが18歳の時に運悪く列車事故に巻き込まれ大けがを負ってしまう。
幸い一命はとりとめたが、この体で保安官は続けられないと判断。
苦渋の選択でジョンに引継ぎを行ったのだ。
「君の父上には私もよく世話になったものだ。新参者である私がこの町になじめるように方々に手をまわしてくれた」
懐かしそうにそう語るウィンチェスター。
彼はおよそ10年前、この町の形が出来て来たころにやって来た。
他所からやって来たいけ好かない金持ち。
そんな風に取られてしまう可能性もあったが、保安官として軍と付き合いのあるジョンの父はウィンチェスターと町民との間を取り持った。
ウィンチェスターもまた、事あるごとに町に出資を行い、あっという間に町一番の名士としての地位を確立したのだ。
いつも笑みと余裕を絶やさない太っ腹な好々爺。
町の住民たちはウィンチェスターに大しておおむねその様な感想を持っている。
(けど、なーんか、うさんくせぇんだよなーこいつ)
だが、生来の小物であるジョンは、そんなウィンチェスターに大して決して表に出すことは無いが懐疑的な感想を持っている。
(南北戦争やインディアン討伐で功績を上げたお偉いさんらしいが、んな奴がなんでこんなへんぴな所で牧場なんてやってんだか)
ジョンの感性で言えば、それだけの金と地位があれば、大都会で美少女ロリメイドたちに囲まれた悠々自適な生活を送ってしかるべきだというのが当然だ。
それなのに、ウィンチェスターと言う人物は人の目が届きにくい片田舎の開拓町で牧場経営等をやっている。
(ぜってーなんか後ろめたい事やってるだろ、このジジイ)
自らの小物センサーは町の名士に対して一貫してアラートを鳴らしていた。
しかしまぁ、そんなことを大っぴらに言った所で自分の立場が悪くなるだけという事をよく理解しているジョンは、疑いの心を奥にしまい保安官用の顔をしてこう言った。
「被害の方は分かりました。で、犯人の目星は突いているのでしょうか?」
ウィンチェスターの秘書が言うには、夜闇に紛れて牧柵が破壊されて、ほぼ全頭の牛が盗まれたという事だ。
それだけ大規模な牛を盗んでも、それをさばくのはひと手間である、なにしろ相手は大型の生き物なのだ、盗牛を売りさばくまで世話をしなければならないし、それを輸送するのにも大きなコストがかかる。
そんな風に考えているジョンに、秘書であるアーセナルは吐き捨てるように断言した。
「ああ決まってる、盗っ人はインディアンの野郎だ」
「へ? 何か証拠でもあるのでしょうか?」
「あぁ⁉ 俺の話を疑うってのか⁉」
「ひっ! いっいえ、決してそのようなことは無いのですが~」
ビクビクと背を縮こませるジョンに、ウィンチェスターはやわらかく説明する。
「ジョン君。私も被害があって直ぐに伝手を使って調べてはみたのだよ。だが近場で大量の牛が売りさばかれた形跡は無かったのだ」
「……金目的じゃないってことですか?」
「まぁそうだろうね。盗品目当てで牛を選んだとすれば、それを売るまでに多大なコストがかかる事は子供でも分かる」
「そりゃそうですね、金が欲しいなら換金が容易な貴金属でも狙った方がよっぽど早い」
「その通り。犯人の狙いはただの嫌がらせさ」
「嫌がらせ……ですか」
ウィンチェスターは町の名士として莫大な支持を得ている。
表向かってそれに反抗するような人間はこの町には居ない筈だ。
「あの~たいへん失礼な事ですが、何かどこかで恨みを買った様な事は……おありでしょうか?」
ジョンはウィンチェスターの気分を害さないように、全力で下手に出つつそう質問すると、ウィンチェスターは困ったような笑みを浮かべてこう言った。
「それは難しい質問だね。誰にも迷惑を掛けずに生きることなど人間には不可能だ」
「まぁ、それはそうですよね」
「うむ。私ごとで言えば……私は南北戦争やインディアンの反乱を武力でもって乗り越えて来た」
「ええ、ご活躍は聞き及んでおります」
「ははっ。そう、私はそれらの戦いに勝ってきたから、それらの戦いを活躍としてアルバムに収めることが出来る。
だが、敗北した側にとっては、私は指名手配のポスターとして何時までも掲示板に打ち付けられているだろう」
歴史は勝者が作る。
勝者であるウィンチェスターは日の当たる場所で栄光の美酒を浴びることが出来るが、敗者たちは薄暗い場所で泥水をすすらなければならないという事だ。
「……それで、インディアンですか?」
「ああ、未確定情報だがね6.5フィート|(約200㎝)近くある大男が牧場の周りをうろついていたと言う話がある」
「6.5フィートですか⁉ え? それって黒人じゃなく?」
「ああ、夕焼けに溶けるような赤い色だったそうだ」
遺伝的多様性にすぐれた黒人でも6.5フィートは珍しい、ましてや白人よりも平均身長の低いインディアンでそうとなれば、自分の知る限りかの有名なクアナ・パーカーだが、彼はテキサスの部族の酋長だ、ここカリフォルニアの片田舎で牧場荒らしをやっている訳がない。
「……え? それホントですか?」
「アホかこの間抜け! それを確かめるのがお前の仕事なんだよ!」
「はっ! はい! その通りですー!」
掛けられた罵声に、ジョンは逃げ出すようにしてウィンチェスターの屋敷を後にしたのだった。
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