第7話 裏で手を引くモノ
────ある場所にて
ギィィィ…パタン
人が動かした気配もなく勝手に開いた扉を通ると、それはやはり独りでに閉まった。誰もいない場所にテーブルと椅子があり、淹れたての香り高い紅茶が置かれている。
アディラ・ローゼンは慣れたように椅子に腰掛け、ある人物を待っていた。
「ローゼン騎士団長殿、大変お待たせ致しました。相変わらずお美しい。」
「魔王補佐官殿、ご多忙の中お時間を頂き感謝する。」
アディラは立ち上がり、優雅に挨拶をするその#モノ__・__#に軍隊式の礼で返した。
「して、本日のご用向きは何でしょう。」
(実に良く似てるが全く違うな…。)
魔王補佐官と呼ばれたモノは名を
「うむ、そなたにしか分からない話になると思ってな。もし心当たりがあるなら助言頂きたい。」
アディラは
「あぁ、その事ですか…。私事ですのであまり詳しくは申し上げられませんが、私としても彼らが夢で繋がってしまったのは想定外だったのです。」
「やはりそなたが噛んでいたか。して、解決する方法はあるのか?」
補佐官は少し考え、答えるのを躊躇っているようだ。アディラは揺さぶりをかけることにした。
「あちらの蘭霞の住む島は我が国の重要な取引相手。そこで珍重されている彼に何かあらば、あの島の財政に関わるであろう。そなた達との盟約も重要ではあるが、向こうも同等の取引相手であると認識して頂きたい。」
補佐官はほう、と底冷えするような冷酷な目でアディラを見据えてきた。
「人間にそこまで挑発されては……ふふ、面白いですね。お答えできる範囲でお教えしましょう。」
アディラは気圧されることもなく涼しい顔で話の続きを待った。
「まず……ひとつ。彼らは私が作った食料です。それについての説明は割愛させて頂きます。食料と言っても彼を直接食べる訳では無いので、なんの影響もありませんから。ふたつめ、彼らの見た目が私と似ているのは私の一部から作った分身だからです。ただし、彼らは人間ですのでご安心を。」
魔族の考えることは理解を超える。ただ、向こうには向こうの事情があることはアディラも理解しているつもりだ。分身が人間になっているのは不思議であるが。
「みっつめ。これはローゼン騎士団長殿が一番お知りになりたいことでしょう。なぜ彼らが夢で繋がっているのか。これには恥ずかしながら原因は不明なのです。時代も場所も変えて作ったはずなのに。私と彼らの夢が繋がることはないのに、分身同士は繋がってしまっている。大変興味深い……おっと、ご友人でしたね。これは失礼しました。」
「構わぬ。つまり分身同士が何らかの理由で繋がってしまったが、結局そなたは原因が分からず何も出来ない。そういうことでよろしいか?」
アディラは補佐官の話を簡潔にまとめた。
「まあ、簡単に言うとそうなりますね。ただ…あくまで憶測ですが、もしかしたら互いが助け合って生きているという可能性はあります。私の分身ではありますが、彼らは私とは全く別の個々の存在です。それでも繋がってしまったということは、そう考えるのが妥当かと。実際に彼らは互いの夢を見ることで励まし合ってることが多いように見受けられますし、刺激にもなっているようなので、私はあまり問題視しておりません。」
互いに影響し合うことで成長…。アディラは納得するところがあった。蘭霞は他と比べて秀でているところがあまりに多いため、模範となるような同業者がいない状態だ。恐らく夢の中の蘭霞も同じようなものだろう。で、あれば今の状況で蘭霞が一喜一憂する機会があるということは、本人の成長に良いのかもしれない。この件に関しては気にしなくて良いだろう。
問題は…。
「睡眠状態に問題は?夢がハッキリし過ぎているので、休めていないのではないかと危惧している。」
ふふっとよく分からない笑みを漏らしながら補佐官は軽い調子で話す
「問題ありません。私の分身ですから私が一番気を揉んでいるのをご理解いただければ幸いです。」
確か食料と言っていたことをアディラは思い出した。二人の蘭霞に何か起きれば補佐官自身も困るということだろう。
「理解した。お忙しい中の御足労、誠に助かった。」
蘭霞に朗報が伝えれそうだと安堵し、用意された椅子からアディラが立ち上がろうとすると、補佐官が話題を変えたがった。不思議に思い座り直す。
「ところでローゼン騎士団長殿、あなたに何度も登録を勧められて最近始めたアプリについてなのですが……」
先程まで不気味であった補佐官が明らかに困惑している。
アディラは何を言われたのか理解出来なかったが、一時置いた後……。
「またかーーーーーーー!」
テーブルを叩き割らんばかりの剣幕に魔族ですら酷く驚きドン引きした。
この後、家に帰ったアディラはローゼン侯爵の私室のドアを蹴り破る。
ローゼン侯爵は再び病院送りとなった。
娼の双蘭 ネコート @mopepesan
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