4 江蓮 【一日目 5:50】

 眠たい目をこすりながら、犬彦さんに手を引かれた俺はのろのろと、うちの玄関を出る。

 眠気がぜんぜん消えなくて、頭の芯がふわふわしたままだ。


 外はまだ暗くて、夜が続いているように感じられた。

 実際は早朝なんだけど。


 半分寝ているような状態の俺に代わって、犬彦さんは俺にコートを着せてくれたし、ふかふかのマフラーも首に巻いてくれたから、全身がお布団の中にまだいるみたいにポカポカしていて、冷たい外気に触れた頬だけが、俺に空気の寒さを伝えてくる。

 でも、そんなもんじゃ俺の眠気はやっぱり覚めなかった。


 本日は、犬彦さんとふたりで過ごす楽しいキャンプ生活の一日目。

 …の、出発なうである。


 山梨県にあるという貸し切りのロッジへは、犬彦さんの運転する車でむかう予定になっている。


 だからこんなにも早朝に出発するのだ。

 途中のサービスエリアで朝食をとるから、そこにたどり着くまではずっと助手席で眠っていていい、だから今ちょっとだけ起きて移動するんだ江蓮、…と犬彦さんから言われた俺は、こうして半寝の状態でふらふらと外を歩いている。

 うう…眠い、だけど車に乗り込むまでの辛抱だぞ、江蓮…。


 しかし、犬彦さんの運転する車で山梨まで行くとは言っても、この、犬彦さん所有のいつものセダンで目的地まで行くわけじゃなかった。


 なんでも、目的のロッジに着くまでの道のりは、舗装もされていない山道があるというのと、キャンプするための持ち物が多いということで、栄治郎さんのおうちまで犬彦さんの車で行って、そこで、栄治郎さんが用意してくれている栄治郎さんの大きい車に乗り換えて出発するという算段であるらしかった。

 だからこれから一旦、栄治郎さんのおうちを目指すこととなる。


 また栄治郎さんの車を借りるのか、犬彦さん…。

 前回みたいに、また車を破壊しないといいんだけど…。

 (言っとくけど、これフラグとかじゃないからね! マジでやめてくださいよ!)


 …と、いうお約束の一抹の不安はごくんと飲み込んで、さっそく俺たちは出発する。

 

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江蓮のふしぎな考察録5 -黄金の骸殺人事件ー 桜咲吹雪 @fubuki-sakurazaki

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