毒にも薬にもならないものは要らない

榊琉那@屋根の上の猫部

二人の狂気が合わさった時に

 曲にとってのアレンジというのは、実は大切なものである。時には別物にもなる。

自分にとって、それを強く感じさせたのが、

ちあきなおみさんの『夜へ急ぐ人』という曲である。


 この曲は『あまぐも』という、1978年発売のアルバムに収められている。

前作『ルージュ』は全編中島みゆきさんの作品という意欲作だったが、

今作では、A面を河島英五さん、B面を友川かずきさんの作品を取り上げている。

 そして演奏は、タケカワユキヒデさん以外のゴダイゴのメンバーが参加している。

メンバー的には文句はない。これなら素晴らしい演奏が聴けるのではと思っていた。

 しかしながら、お洒落になり過ぎていて、ちあきさん、友川さんが持っている

狂気な部分が感じられない。こんなものじゃないんだよ。


 では、先行して発売されたシングルバージョンはどうなのか?

編曲は宮川泰さんである。でもやはり何かが足りない。物足りないのだ。

 出来は悪くないはずなのに、後、何が必要なのか?


 何が足りなくて何が必要だったのか?

それは、ちあきさんが当時熱唱していた歌を収録した映像から見てとれる。

 嘗て『喝采』という曲でレコード大賞を受賞したほどの実力を持っている

ちあきさんであるが、『夜へ急ぐ人』を歌う姿は何か他とは違っている。

そう、歌う時の表情が違うのだ。


 当時の映像も残っているが、残念ながら画質が悪いものばかりである。

その影響もあるのだろう。ちあきさんの表情がより怖く思えてしまう。

 更にレコーディングでは抑えられたものを吐き出すかのような、

そんな鬼気迫る歌声が残されている。

 そして1977年の紅白にて『夜へ急ぐ人』が歌われた。

その歌声や表情に、会場やお茶の間が氷結地獄コキュートスと化したというのは大袈裟か。

 何しろ司会の山川アナが「なんとも気持ちの悪い歌ですねぇ」と

思わず本音を漏らしたくらいである。


 ちあきと友川、二つの狂気が昇華して生まれたような演奏だったのだが、

そんなもの出しても商売にならないと判断されたのだろう、

翌年発売された『あまぐも』に収録されたバージョンからは毒素は排除されていた。

 もちろん楽曲は悪くないので駄作ではないが、

やはり自分が聴くのなら、喰らったら腹を壊すような、唯一無二のものを聴きたい。

毒にも薬にもならないようなものには興味が無いのだ。


 YouTube等を探せば、ちあきさんや友川さんの歌う姿を見る事が出来る。

そこにある剝き出しの感情を感じてもらえればと思っている。








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