6話 事件解決

「遅い!」

王城前〜朝8時〜

タッタッタ

向こうから颯爽と走ってくる男

「ごっめぇん!待ったぁ??」

ガッ!

「き…騎士が国民に暴力振っていいのか?」

頬を鷲掴みされるエルド

「黙れ非国民」

「ひどい!」

ドサ!

「そりゃひどいぜゴルド」

「いくらなんでも非国民はないだろ」

ギロ

ゴルドの目が光る

「じゃあお前は胸を張って国家役員と言えるか?」

「食い逃げ、かさ増し請求、国章不携帯」

!!

「ここ数日でお前の罪は重くなってんだよエルド」

ドッ

タタタタ

立ち上がりそそくさと歩く非国民

「あぁ!さて、事件の真相を暴こうじゃないか友よ」

「誰が友だ」

あはは

「行くぞ助手アルル!」

「あいさ」


「で」

「なんで騎士団本部なんだよ…またアルノ君の遺体を見るってのか?」

騎士本部前に立つ3人

「そもそもお前(ゴルド)を呼ぶ時点でお前の肩書きを使う事はわかるだろ」

ちっ

「普通の顔で最低な発言をしたらお前に敵う奴はいないだろうな」

普通の顔のエルド

「んなわけねぇだろ、他の奴の方がよっぽど最低な事言うぞ?」

「騎士に同意」

「アルル…お前ここで裏切るのか!」

ギィィ

門が開く

「いいから行くぞ」


「おい…ここって」

騎士団本部 5階【臨時宿泊室】

「母親のアリエラさんが泊まってる所じゃねぇか」

ふっ

笑うエルド

「だから言ってるだろ」

「事件の真相を暴こうぜってな」

ガチャ

「どうもアリエラさん、先日ぶりで」

頭を下げるアリエラ

「今日はどういった要件でしょうか?」

「話すことは昨日全て話しましたよ」

ガタ

エルドは席へ座る

「今日は質問ではなく回答をと思いきました」

「回…答?」

「はい」

「今回の事件、アルノ君を刺した人物に間違いが無いかをあなたに確認して欲しいのです」

・・・

「わかりました」

「聞きましょう」

ぺら

「こういった回答は順序を省きたくないので少し長く喋っても大丈夫ですか?」

頷くアリエラ

「では」

「まず初めに、今回の被害者「アルノ・シェルパード君」15歳」

「彼は背中から刃物で心臓部までひとつきされ亡くなっていた」

「彼に衣服には殺害時に生じる魔力残滓は検出されずその場にも2人以外の残滓は無かった」

「まぁこれが今回の1番の謎…で合っていますか?」

遠くを見つめるアリエラ

「私は騎士様の話を聞いただけで…なんの事だか」

・・・

「まぁ今はそういうのがあるくらいで大丈夫です」

「次に犯人の動機はなんなのか」

「アルノ君は魔導学院の生徒、先生や生徒曰く努力家で放課後も魔法を練習するくらいだった」

「それも幼少期から毎日続けるほどに」

ポタ

アリエラの目には涙

「であれば外部のいざこざに巻き込まれたという可能性は低い」

「ここ数日「書館」に行っていたという情報はありますがそこで殺される程の反感を持たれるのはないでしょう」

「今朝、司書の方に話を聞いたのですが彼を覚えていないくらいでした」

・・・

「次にルクセンダ魔法学院の関係者を当たってみました」

「どの生徒も明言はしていませんがアルノ君の死因は「自殺」だと思っていました」

グッ

アリエラは拳を強く握る

「その誰もがアルノ君に対する「謝罪」を口にしていました」

「どれも試験結果で落ち込むアルノ君にもう少し言葉をかければ良かったというものでした」

「非常な事を言いますが、謝罪のどれも今件とは関係ありません」

「学院関係者にはアルノ君を刺した人物は…いないでしょう」

「次に」

ぺら

「アルノ君の致命傷となった刺し傷ですが、私はこの刺し傷で事件の真相に近づきました」

「刺し傷?」

「はい、彼の背中に残った血痕が一筋に流れているものだけだったんですよ」

がさ

アリエラは足をベッドの外にだし空いた窓から外を眺める

「それが…なんですか?」

「元来、防魔膜を破り勢いよく人体を殺傷する場合傷口の周りに血が飛び散るんです」

……

「なのにアルノ君の背中には下に一筋垂れているだけ、少し横に流れているのは倒れた時のものでしょう」

「ですがそれも一筋垂れている」

「という事はアルノ君はゆっくりと刃物を背中に刺されながらに死んだ…ということです」

!!?

「エルド!…それって」

思わず声を上げるゴルド

「あぁ…この事件「他殺」ではなくアルノ君の「自殺」だと俺は思う」

……

「自殺って…どういう……」

言葉を失うゴルド

「私は最初背後から存在がバレないように背中から刺したと思っていました」

「だけどゆっくり刺しているなら話は変わってきますそのまま心臓部まで動かないなんてありえない、普通の人間なら痛みで動きますから」

「じゃあなんで背後から刺したか…アリエラさんは「人体解書」を読んだことありますか」

!!

目を見開くアリエラ

「いえ……ない…わ」

「その本は我々人体の詳細が記載されています」

「人類の背骨と心臓の中間地点には「核」という臓器がありそこから魔力神経が全身を巡っています」

「そこを一突きされると人間はすぐに絶命する」

「おそらく刺した人物はアルノ君が少しでも苦しまず【死ぬ】ことができる刺し方で刃物を振るった」

「アルノ君ができるだけ苦しまないように自分の心を殺して刺した」

・・・

「私は親が体を張る時は子を守る時だと思っているんです」

「アルノ君の遺体調査が進めばわかることですが、計算でも背中から血が滴る程にゆっくりと刺したら10分強かかるんです」

「刺した人物からしたら耐え難い時間、10分もの間アルノ君の声と肉を破る感触で気が狂いそうだったけどその人はやり遂げた」

「なぜなら子供の願いを叶えるのが親だから…そうですよね」

「アリエラさん」

・・・

ふっ

微笑むアリエラ

「じゃあ探偵さん、防魔膜はどうやって破ったの?」

「それを証明しないとあなたの妄想で終わってしまうけど」

……

「アリエラさん…わかりました」

「防魔膜は生活基準値を超えない魔力で破った…ですよね」

!!

口を覆うゴルド

「そんな…事って…ありえるのか」

「防魔膜を生活基準値で破るって……何時間かかると思ってんだよ」

……

「相当な時間はかかった…としか言えないな」

「証拠にアルノ君の遺体は膝が不自然に折れていて遺体の膝も少し痛んでいたしな」

「おそらく座っていた、もしくわたち膝でアルノ君は亡くなった」

「という事は長時間あそこに滞在していた、膨大な時間をかければ防魔膜は破れる」

「少しづつ防魔膜を貫通していき皮膚に到達させた……魔力残滓を残さずに」

「どうですか?アリエラさん」

・・・

「さすがですね探偵さん」

「全部あなたの推察通りですよ、こんなに早く解かれるとは思ってもいませんでしたけど」

「私があの子を刺しました」

ゴルドは前のめりにベッドへ駆け寄る

「なんで…なんでそんなことしたんですか!!」

「よせゴルド!」

ぽろ


ぽろ

「騎士様…なんでだと思いますか?」

「……」

泣きながら笑うアリエラを前に立ち尽くすゴルド

「さすがに探偵さんでもわからないですかね」

「アルノ君の願い…だと私は思ってます」

目を見開くアリエラ

「どんな願いか…聞いてもいいですか?」

「はい、僕の持論でよければ」

「もちろん構いません」

「では」

……

「アルノ君は「騎士」になりたかった、それは彼の生涯を捧げてもなりたい職業だった」

「学院の放課後、友達と遊ぶわけでもなく、みんなが楽しく会話してる時も魔法の事で頭がいっぱいになるほどに」

「魔導学院で友達を作り談笑もせずに修行に打ち込む毎日、想像するだけで辛い毎日でも彼はやり遂げた」

「なぜなら彼はどんな試練も乗り越え、先生からは熱心すぎて注意されるほどにまっすぐな子だったから」

「でも現実は非常で勉強してやっと入ったルクセンダ魔導学院では、才能のある奴らが成績を伸ばす、自分より練習量が少なくても生まれ持った才能が差を広げる」

「そこで告げられる「騎士には向かない」という現実」

「アルノ君は騎士になれない人生ならと…今回の計画を思いついた」

「なんでこれを思いついたかは知るよしもないけど」

・・・

ふっ

「あははは」

静かに笑うアリエラ

「そこまで当てられると笑っちゃうのね…はぁ」

「今探偵さんが言ったことが全てです」

「あの子は人生を終わらせたかった…それを私が手伝っただけ」

・・・

「わからないですね」

エルドは真剣な表情でアリエラを見つめる

「確かにこの世界はアルノ君が夢見た世界じゃなかったかもしれないけど」

「そこであなたが…なんで止めてあげないんですか」

「思い通りいかない世界も進んでみようって…手を引いてあげなかったんだ」

「それも親の役目で…」

「それじゃダメなの!!!」

エルドの声を遮るアリエラ

「それじゃダメなの…私があの子に夢を見せて進むようにしたの…」

「それなのに、私がそれを否定しちゃダメでしょ…」

泣きじゃくるアリエラ

「子供の時から騎士になれと言い続けた私が「騎士はダメなら兵士でもいい」なんて…そんなこと言うくらいなら死んだほうがマシよ」

「そんな…騎士でなくとも兵士も立派な仕事だと思います」

ゴルドは近寄る

ふふ

「騎士様にあの子の気持ちはわからないでしょうね」

「あの子が最期になんて言ったか教えてあげましょうか?」

【今までの事が無駄になった事はどうでもいい、でもこれから騎士じゃない人生を歩くのは耐えられない】

【それなら騎士になれる可能性が少しでもある今人生を終わらせたい】

「って言ったのよ…いや、言わせてしまったの」

「私が騎士に固執するあまりあの子はその道以外は死ぬ方がマシなんて泣きながら言ったの」

「なら最期まで私はあの子の願いを叶える必要があるの!」

……

「それがあなた達が事件を起こした理由…」

「騎士になれる可能性がある時に死にたい…ですか?」

「どういうことだエルド…」

ふっ

「さすが探偵さんね…」

「その通りよ」

バッ

アリエラは窓に身を任せて落ちる

!!!!

「アルル!!」

ビュン!!

凄まじい勢いで窓から落ちるアルル


ヒュー

バシ!!

空中でアリエラを掴むアルル

「ここで死んじゃダメ」


ドン!!!!!

メキメキ

アルルを中心にひび割れる大地

「あなた…何者」

膝を折るアルル

「私は先生の助手」

「それ以外はない」

ビュン!

「キャァぁ!!」

ドン

「ただいま」

ドアに立つアルル

「おう、おかえり」

・・・

その場で立ち尽くすゴルド

「おい王国騎士」

「仕事だぞ」

「あぁ…言われなくともわかってる」

ガシャン

「悪いな、規則なんで」

アリエラの腕に錠をはめる

「よし、下の階で全部話してもらうぞ」

ゴルドの後を歩くアリエラ

「ねぇ探偵さん」

「最後に一ついいかしら?」

「あぁ」

「なんであの子の気持ちがわかったの?」

……

「それは俺もアルノ君と同じだからだ」

「夢をあきらめてなりたい者じゃない人生を歩んでる途中だ」

「でも」

「俺が絶望してた時にこう言ってくれた人がいたんだ」

【死ぬのはいつでもできる、でも生きる事に2度目はない】

「それを聞いて歩いてきたけど、まぁ今の人生でも悪くないかなって思えてるよ」

「だからあんたも生きる事を諦めるなよ」

・・・

アリエラはきびすを返す

「ありがとう…生きて自分の罪を償うわ」

「さよなら探偵さん」

バタン

グイ

「先生…大丈夫?」

わしゃわしゃ

「おう!平気だ」

「それに俺たちにはまだ見ぬ謎がある!」

コンコン

「元気があって何よりだよエルド」

ドアに立つのは金髪の司令

「何しにきたエイレイン」

「まずは事件解決ありがとう、君に頼ってよかったよ」

「あぁ…」

無表情のエルド

「なんだいその態度は、せっかく【教団】の情報を持ってきてあげたのに」

!!

「本当か!次はどこに現れた」

ふふ

ぺら

地図を取り出すエイレイン

「次の街はここから南西約10キロの「帝都アルバール」」

「そこには夜な夜な不規則に殺される未解決事件があるそうだ」

「その殺人鬼は殺した所から転移魔法を使っているんだが…なんでも転移先に現れる魔力形跡が残ってないらしいんだ」

「それに殺人現場には「教団」のマークが刻まれていた」

「君の力が必要だエルド」

「知恵を貸してくれ」

バサ

探偵はコートを靡かせ次の事件へと進む

「行くぞ!アルル」

「うん!」



ーendー

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名探偵は魔法を使わないー王都怪奇殺人事件ー 無一文 @akaaokiiron

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