第2話 立夏

立夏リカ、こっちにいらっしゃい。」

「なぁ~にぃ~、おばあちゃ~ん!」

言葉を覚えたての可愛い孫娘リカが走って来る。

リカの目線へ腰をかがめて見上げるのは、夏の日差しに照らされて黄金色に輝くヒマワリの花。

「きれぇ~。」

「そうね、綺麗ね。」

リカは感嘆の言葉を発し、私も彼女に従う。

夏の暑さを取り去るように風が吹けば、ヒマワリ達も首をなびかせる。

黄色い絨毯が波打つ様が、見上げた空を撫でている。

「本当に綺麗なカナリーイエローだねぇ。」

「へっ?」

私の言葉を聞いて、怪訝そうな顔で振り返るリッカ。

「おばあちゃん、カナリアイエローって、あののこと?」

リカは不思議そうに首を左に傾ける。

そのキョトンとした表情が、ヒマワリの傘影に重なり、そのあまりの可愛さに、思わず抱きしめてしまいそうになる。

「ええ、そうよ。

カナリーイエローは、自分だけではくすんだ黄色だけど、光を反射したり、光を透過すると、黄金色に化けるのよ。」

「ほへぇ~。」

驚きとも感動とも取れる声を発するリカ。

リカの肩に手を置き諭すように言葉を続ける。

「だから、くすんでいる事が悪いことじゃない。

くすんでいても、光を浴びて輝ける、それが大事なことなの。」

リカはウンウンと首を縦に振っている。

「秋になると、黄色く色づく銀杏いちょうの葉、あれもカナリーイエローよ。」

何かを思い出すように、オメメがグルリと回るリカ。

やがて、思い出したのか、ウンウンと首を縦に振る。

「手に取った銀杏いちょうの葉は、確かにくすんでいるわ。」

一つ呼吸を置くと、リカは話しの先を聞こうと前のめりになる。

「でも、その葉を空にかざしてご覧なさい。

秋の光を背負って黄金色に輝くわ。」

リカの目が見開かれキラキラしだす。

「そして、まだ枝に残っている葉を見てご覧なさい。

秋の光に照らされて黄金色に輝いている。」

もう、興奮状態のリカ、全身を揺すりながら大きく大きく頷いている。

「だから、私はカナリーイエローなのね!」

「ええそうよ。」

私の肯定の言葉を聞くと、私の手から離れてハシャギ始めるリカ。

しばらく彼女の思うままに遊ばせる。


◇ ◇ ◇


陽光も傾き始め、リカと二人家路につく。

「ねぇ、おばあちゃん。」

「何だい?」

「今度は、一緒に銀杏いちょうを見に行こうね。」

「ええそうね。」

私の答えにすっかりご満悦のリカ。

前後に振る手もやや大振り。

「行けるといいわね、銀杏いちょう狩り。」


しかし、私は孫娘との約束を果たす事無く、長い闘病の日々を迎えます。


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ある老婆と、彼女の孫娘のお話 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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