第13話 お友達とランチルーム

もう何度目かわからない深呼吸をしてもう一度目をつぶる。

なんとなく何かがあるというのはわかるのだが、そこから先が進まない。

額は汗がにじんで前髪が張り付いて不快だけど、そんなことを気にしている余裕はなかった。

集中しすぎて自分の鼓動の音しか聞こえなくなったとき、初めて魔力というものをはっきりと感じることができた。

とくんとくん、と自分の鼓動の音と共に何か温かいものを感じる。それは体の中心位にあり、その塊の形を変え腕から手に、手から杖に動かしてみる。

するすると杖に魔力が流れていくのが分かる。

ある程度魔力を流し込んだら満タンになったのかこれ以上入っていかなくなった。

恐る恐る目を開けてみると、白かった魔石はぼんやりと七色に変化していた。

ほっとして杖から手を離しそっと箱に戻す。

隣の子を見てみると徐々に緑色に染まっていき、同じようにぼんやりと緑色にひかるとその子も目をあけほっとした表情になり、目があう。

ふふっと微笑みあい始めて言葉を交わした。


「お隣なのに挨拶もまだだったね。私はマリナ、よろしくね。」

「はじめまして、私はサリーシャです。よろしくお願いします。」


自己紹介をして、お互いにうれしくなってもう一度笑いあう。

そういえば、汗をかいていたと思い出しハンカチで汗をぬぐう。

彼女も同じように汗をぬぐい、ふぅと一息つく。

お互いに集中しすぎたのか、他愛もない会話を二三交わすと二人とも椅子にもたれかかり黙ってしまう。

思った以上に疲れていて、このまま目を閉じたら眠ってしましそうなくらいの疲労感があった。

しばらくたつと壇上に先生が戻ってくる。


「皆さんおつかれさまです、全員できたようなので次の説明をいたします。次は杖の収納と取り出しを習得してもらいます。魔力を感じることができたなら難しいことはありません。魔石に魔力を通し、ポケットへしまうイメージをしてみてください。それができたら手に杖を持つイメージをしてください。それでは、始めてください。」


箱から杖を取り出し、魔力を流す。先ほどとは違い感覚で魔力がつかめているのがわかる。


ポケットにしまうイメージ……


ふっと手から杖が消える。

そのことに驚いて隣を見たらマリナもこちらを見てびっくりしたような顔をしており、その手には杖はなかった。

再び目が合ったことにフフッと笑いあい、手に目を落とし今度は手に持つイメージをうかべる。

杖は最初から手に合ったようにふっと現れる。

杖がちゃんと出てきたことに三度目を見合わせるとお互いに満面の笑みになる。

ちゃんとできているか何度か出し入れをしてみたが、意識するだけで手の中から消えたり現れたりするようになった。


「今年の生徒は優秀ですね。皆さんできたようなので、本日はここまでとします。この後ランチルームに案内いたしますので、はぐれないようついてきてください。」


わぁ!っと教室が沸き立つと先生が人差し指をくちに当て、シーっとする。

落ち着いたところで教室から先生の引率で出ていくと、長い廊下を歩きランチルームに到着する。


ランチルームにはすでに何人もの生徒がおり、各々好きな席で食事をとっていた。

「ここがランチルームです、昼食は基本こちらでとっていただきます。あちらのカウンターで食事をうけとり、好きな席で食べてください。」

そう先生が説明すると、ぞろぞろとクラスメートがならびはじめる、私もその列に並ぶ。

食事をうけとり、きょろきょろと見渡し空いている席に進む。

途中マリナが声をかけてくれたので、隣の席で昼食をとる。


「杖、うまくできてよかったね。」

にこにこと話してくれ、私も顔がほころぶ。

「うん、最初全然できなくてどうしようってすごく焦っちゃった。」

「ね、周りの子がどんどんできてるのに魔力が全然わかんなくてすっごく困ったよね。」

「杖が消えちゃうのもびっくりしちゃった。」

「うんうん!思わずサリーシャの方見ちゃったもん。」

終始にこにこしながら食事を終える。

誰かと話しながらの食事は久しぶりでとてもたのしかった。


食事を終え、上級生を観察していると返却口があることに気が付きそこに運ぶ。

マリナとおしゃべりをしながら教室へと来た道を戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖女は聖人じゃなきゃいけませんか!? たいやきさん @taiyaki-san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画