赤キ煙突

あるまん

散策

 とある場所を目指し隣町をぶらぶら歩く。事前に地図で面白い場所を見つけたのだ。

 五月とはいえ気温は二十度近く、風強しとはいえ半袖シャツに薄い長袖白パ-カーでも薄ら汗を搔く。散策が趣味なのに大台から落ちぬ体重と、数百メヱトル毎に休息が必要な、齢五十、既に限界近い身体を呪う。其れでも休みつつ駅から二十分程、目的地に辿り着いた。


 赤煉瓦で出来た、高さ五メヱトル程の煙突である。


 手前を走る市道から十メヱトル程、既に十センチ程に伸びた叢に鎮座する其れ。下に不自然な盛土と四角いコンクリの箱らしき物が見える。多分に此処に焼却炉の様な物が在ったのだろうか。直ぐ近くにコンクリ製の物置がある。これ等の周りは防風林というには心許ない細木が壁の様に生えている。隣との境界だったのだろうか。

 煙突は頂上部が少し欠けているものの、存外しっかりとした造りだ。鉄製の枠で四隅を保護され、いやこの枠に沿って煉瓦を積み上げたのであろう。思ったよりは古くないのかもだが、其れでも県内随一の豪雪地帯であるこの町の冬に、少なくとも数十年は耐えてきたのであろう。


 手前の土地にあっただろう家は兎も角、焼却炉の方は取り壊されているのに何故煙突だけが残ったのか、想像の絵を描く。

 近所には農家と思しき古民家も幾つかある。此処も其の一軒だったが、高齢化で廃業したのだろう。老夫婦は子供達の元に行き、住まなくなる家を放置せば雪害で潰れるのは明白、解体をした。

 夫婦が使っていた焼却炉、このご時世これを使う訳にいかないし廃業前十年単位で未使用だっただろう。


 子供は家と共に取り壊そうと思ったが……幼少時の記憶、制作している親を手伝おうと赤煉瓦を一個づつ手渡しをし、もくもくと上がる黒煙を見上げ、其れにより洗濯をしてもすぐ黒くなる衣服を疎ましいと思いつつ、また其れも忘れ難き思い出……。

 土地の売却が思う様に進まぬ事もあり、せめて売れる迄は、煙突だけでも、黒き煙が立ち上る姿を一時でも長く思い出せる様……。


 必ずしも其の様な物語が有るという訳じゃない。制作も当時の業者に頼んだのかもしれない。だが其の様な想像の飛躍が出来る程、現代に於いては煙突というもの其の物が貴重になってきた。

 この建物の裏手に見える市民会館の数十メヱトルあるコンクリ製の煙突すら数十年使われてないだろう時代、せめてこの価値が解る好事家に知られ、保護運動等されればいいな、と思いながら散策を再開した。


 

 

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