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「もうすぐ私たちも3年生になるんだねぇ」
「そうだな。来年はいよいよ受験生だな」
「修学旅行楽しみだよね~!」
「受験勉強も頑張らないとな」
「う~、そうだけどさ~!なんでそういうこというの~!?」
教室の真ん中で2人の女子が騒がしく話す声が、目を閉じてじっと座っている私の耳に、勝手に入ってきた。終業式が終わり、体育館から教室に移動してきた後のちょっとした休み時間。あの子たちの軽くて清々しく澄んだ声を聞いていると、いよいよ私たちの3年生が、つまり受験生としての1年がやってくるんだなって、気が引き締まってしまう。
今日の午前中には卒業式があった都合で、私たちの2年生は午後に終わりを迎える。紫がかったオレンジ色に染まる薄い緑色のぶ厚いカーテンが力強く揺れている。開けっ放しの窓から入り込んで、そのカーテンを吹き上げる風が涼しかった。その春風が教室に運び込む今朝の雨の匂いがした。そして人差し指のお腹をススス~っと走らせた机は、表面がざらざらしてた。
「や~、恵美~、2年生お疲れ様~。」
「うん、お疲れ様~。」
相変わらず対角線の端っこ同士に座っている私たちは、こうやって真未が飛んできてトークを始めるのがいつもの流れ。音の鳴らない、やわやわとしたハイタッチを2,3回繰り返して互いの1年間を労った。
「恵美も私も、もうすぐ3年生になっちゃうんだね。」
「そうだね。」
「私、修学旅行とか楽しみだな~!」
「5月にあるんだっけ。」
「うん、受験対策に本腰が入る前に行くんだよね。」
「楽しみ。行き先どこだっけ。」
すると真未は目と口をかっ開いて私を叱る。
「うそ、楽しみにしてない人の質問じゃん!しゃきっとしなよ!長崎でしょ?」
「そっかそっか、ごめん。でも楽しみなのは本当だよ。」
でも、楽しみなだけじゃないよね。と、私は小声で付け足した。
「恵美は、受験生になることがそんなに不安?」
「不安じゃ無い方が不思議じゃない?」
「それは、そう。」
真未が私の口癖を真似したので、私は吹き出した。吹き出して笑っているけれど、私はそれが現実逃避であることを気づいてた。楽しみ半分、不安も半分だったのが、考えれば考えるほどに、ぜーんぶ不安に包まれちゃって。
いっそのこと、この2年生の時間をもう1回送れたらいいのにって。そう、思ってしまってたんだ。他でもない自分が、そうなることを願っちゃってた。
そんな下らない思い付きが、現実のことになるなんて、普通は思わないじゃん。
https://kakuyomu.jp/works/16818093077253453127/episodes/16818093077363610469
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