「おい吉岡、起きろ。」


担任の先生が私の名字を呼んで起こしてきた。


「進級初日から居眠りとは良い度胸だな。えー、諸君。高校の2年生は学校にも慣れてきて、かといって受験というストレッサーもなく、1番気が弛む時期であるとよく言われています。ゆめゆめ吉岡みたいにならんようにな。」


はーい。という緩い返事が20数人分重なった。引っ張る必要のないセーラーの裾を整えて、しゃんとします、の姿勢を取った。どこからかクスクスと笑う声が聞こえてくるのは、寝てた姿勢のせいで髪の毛がぐしゃぐしゃだからかもしれない。


「えーみっ♪」


放課後になるなり真未が、最前列の左端から、私が座る右端最後列の席まで飛んできた。出席番号1番五十嵐いがらし真未。それが私の友達の名前。


「昨日は夜更かししてたの?」


机に置いた両腕を組み、その上に斜めな顎を載せながら私に訊ねてきた。


「ううん、その―」


私は4列並んだ机の向こうの窓外を見た。桜が花びらを散らしている。


「春が暖かくて。」

「あっ!分かる~!ポカポカしてると眠くなるよね~。」


腕から顔を上げて、身を乗り出すように共感してくれる。真未と話していると、ドラマの中のJK過ぎる女子高生を目の前にしている気分になる。要は芸能人みたいってこと。雰囲気とか仕草とか、ルックスとか、色々と。1つ1つが少しずつ浮世離れしてる感じがする。


机の上に置いてたスマホが震える。バイト先の店長からメールが届いていた。


エミちゃんごめん!

 藤井有加 fujiiyukadayo@gmail.com

 確か、今日って始業式の日だったよね?お願いしたいことは、今日の午後にシフトに入る子が来れない感じで、代わりに来てほしいなって思います。時間は少し早めがいいけど、無理をする必要はございません。


なんとなくグチャッとした文章から忙しさが伝わってくる。ちょうどこの後は何も予定がないし、「12時頃に行きます。」とだけ返信。真未がスマホを覗き込んできてた。


「だれだれ、彼氏くんとか?」

「ううん、バイト先の店長。昼からシフト入れないかって。」

「え、この後カラオケどう?とか思ってたんだけど。」

「あぇ。」


曖昧な赤ちゃん語で返事を返す、緩いコミニケーションをしながら教室を出て、階段を降りていく。燦々とした太陽で気が引き締まりそうな校庭では、サッカー部が半袖半ズボンで走り込みをしていた。汗水垂らして青春真っ只中!という雰囲気の彼等に視線を向けつつ、真未は足音なく立ち止まった。


「どうしたの?誰か気になる人でもいるの?」


私がそう聞くと、彼女はううんと応えた。


「青春してますなあ、って思ったの。」

「なあにそれ、おばあちゃんみたい。」


🕛

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