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Outside Garden. 日本語にすると庭の外。そんな名前のカフェが私のバイト先。重厚な赤レンガに囲まれた扉を開ける前から、内側の忙しい賑やかさが聞こえてくる気がした。
「いらっしゃいませ。」
店内にお客さんはいなかった。由加さんの、お腹から出てない頼りない声でも私に届くほど静かな店内。私は由加さんのそういう声しか聞いたことがなくて、接客に不向きな人種だなって思ってるけど、それが却って採光窓が無く暗い、重く沈んだ雰囲気に溶け込んでた。
「忙しいっていうのは・・・?」
「ごめんね、あれは嘘・・・。」
由加さんの瞳は琥珀色。触ったら溶けちゃいそうな茶髪のショートボブも、軽やかに震えた。
「今日来てもらったのはね、えっと、聞いても信じてもらえないかもだけど、エミちゃんはタイムリープをしてるらしいの。」
私がソファに座った途端に、由加さんはホットコーヒーをテーブルに置いてきた。両手で包み切れないサイズのマグカップに並々。
湯けむりの底に震えてたのは翡翠色の瞳、私の目。冷めるまで飲めないコーヒーの匂い。湯気に乗って頬に伝わる熱さ。「ささ。」と唆す由加さんの声。息を飲む私の舌に遡ってきた酸苦。
由加さんが持ってた紙袋をブン取る。
🕧️
「落ち着いた?」
「うん。」
我慢すれば、泣き叫ばなくても、いろいろ、抑えられるようになって。でも見上げる由加さんらしき顔は滲んで、陰って、声を聞くまで誰か分かんない。
「エミちゃん、途方に暮れた顔してる。」
「それは、そうです。」
由加さんが私の頭を撫でるので、急に恥ずかしくなって起き上がって飛び移る話題を探してすっかり冷めたコーヒーを指さす。
「これは、何のブレンドなんですか?」
「ロングブラック。エスプレッソをお湯で割ったドリンクなの。コーヒーが苦手だったら紅茶でも、ちょうど良い茶葉が入ったんだよね。アッサムのハティクリ農園。」
「ハティクリ農園の紅茶ってどんな風なんですか?」
「ちょうど今は新芽の季節だからね~。苦味が少なくて香りが華やか。エミちゃんみたいな若い子でも美味しくって飲みやすいと思うよ。」
「私、別に子どもじゃ無いです。」
「でもお婆さんっでもないでしょ。」
「それは、そうですけど。」
「あと、紅茶にはリラックス効果もあってね。これからの2年生、穏やかに過ごせますようにっていう願掛けになるかも。」
「そういうものですか?」
「よかったら淹れるよ、飲む?」
「はい。」→https://kakuyomu.jp/works/16818093077253453127/episodes/16818093077490765609
「いえ。」→https://kakuyomu.jp/works/16818093077253453127/episodes/16818093077494265910
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