由加さんが淹れてくれた紅茶は、飲めば飲むほど味が分からなくなった。それで、眠くなってきて、私は目の前の木製の机に突っ伏して、自分の腕枕に顔を置いて寝てしまった。


🕦


なんとなく、膝をベッド脚にぶつけたような痛みが走って、私は目が醒めた。


「吉岡。」

「はい!」

「うお、元気の良い声だな。」


教室には活力ある笑い声が響いた。私は頬杖をついて顔の皮膚を弛ませながら、すぐ右手の壁を見つめて、先生の話なんて聞き流しつつ、どうでもいいことを考えてた。


私が住んでいる埼玉県庭内市は、東京が近いからちょっと賑やかで、でもちょっと落ち着いた小さな街。そして、私が通ってる私立花実高校は、一応この辺りで1番有名な進学校なんだって。場所が少し田舎っぽいからか、みんな上京するために必死で、どんな子も目の色を変えて勉強する。そのおかげで毎年、そこそこの進学実績を勝ち取ってるみたい。


「えーみっ♪」


HRが終わるなり真未が、最前列の左端から、私が座る右端最後列の席まで飛んできた。私の机の左端に両手を重ね置いて、撫でられ待ちのゴールデン・レトリバーみたいにしゃがんで、煌びやかなブロンドを私の手の位置まで降ろしてた。琥珀色の瞳で、じっと私を見つめてた。


「今年もクラス一緒だね!」

「うん、またよろしくね。」

「よっろしく~。ねえ、この後カラオケ行かない?」

「もちろん。」


燦々とした太陽で気が引き締まりそうな校庭では、これから練習試合らしい野球部の面々が、バットやボールの入ったカゴをこちらのハイエースに積んでは、校庭を挟んで100メートル向こうの倉庫にダッシュして戻り、また別の道具を持ってこちらに全力ダッシュして戻ってくる。汗水垂らして青春真っ只中!という雰囲気の彼等に視線を向けつつ、真未は足音なく立ち止まった。


「どうしたの?誰か気になる人でもいるの?」


私がそう聞くと、彼女はううんと応えた。


「青春してますなあ、って思ったの。」

「それは、そうですなぁ。」


あっという間に野球部が消えたグラウンドでは、サッカー部が走り込みを始めていた。


「ほら、恵美!早く行くよ!」

「うん!」


私は、さっきの膝の痛みが気のせいだったことを確認して、真未を追いかけて走り出した。肩に担いだ鞄のせいで重心がグラグラ、ひょこひょこ、って感じの走り方になってた。それでカラオケボックスに着く頃にはすっかり目も顔も、身体中が汗だくになってたけど、それもまあ青春かなって、また笑い合った。


https://kakuyomu.jp/works/16818093077253453127/episodes/16818093077494447480

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