成長マインドセット

 才能とは「習慣化した行動パターン」である。私がバンドをやっていたのは、まさにこの「行動パターン」が当てはまったからだ。ここでいう「才能」とは、音楽のセンスのことではない。私の行動パターンは「オーナーシップ」を持って「リーダーシップ」を発揮することにある。どんなにその状況が厳しかろうとも、何度も「バンド」という形でリーダーシップに戻ることで、それを自分の才能だと思うようになった。

 中3でドラムを始め、高校でバンド結成する。受験のために活動を止めた。受験に失敗し浪人をしている時は、一切ドラムに触っていない。浪人でも失敗し、渡米。英語も話せなければ、練習スタジオもないことでドラムの練習環境を無くしたものの、バンドを結成し、リハーサルスペースを見つけバンド活動を始める。最初のバンドを解散したものの、現地の外国人とバンドを結成し再びバンド活動。仕事で転勤になりバンド活動を停止。転勤先では、家で電子ドラムを使って練習。仕事上で、現地の音楽活動を支援。など、どんな環境に変わっても音楽という枠に戻っていった。恐らく、そこが私の居場所なのかもしれない。

 私はドラムを担当していたが、世の中のドラマーとして見れば、圧倒的に平均的なドラマーだ。手数が多いわけでもなく、最速なわけでもない。ただ、ドラムとして大事な「安定したビート」で他のメンバーを導くに過ぎない。それでも、バンド活動を通じて、自分のリーダーシップの在り方を実感することができた。

 この「安定したビート」で他のメンバーを支えること、それが私にとってのリーダーシップであり、才能だと感じている。たとえ技術的に突出した能力がなくても、バンドのリズムを支え続けることで、仲間たちに信頼を築き、音楽を形にしていく過程を体験した。バンド活動を通じて得たこの気づきは、私にとって何にも代えがたい財産となった。

 考えてみると、バンド活動は「起業」に似ている。1~2名でバンド結成(起業)。メンバーを探す(雇用)。曲を書き上げる(商品開発)。レコーディングを行う(製品化)。手売り(流通)。ライブ活動(広報販促活動)といった具合だ。資金調達となると、株式会社のように株を売ることが出来ないので、資金繰りが大変なところがバンドと企業では異なるところかもしれない。レバレッジを使えない。また法人には税制の優遇措置があるが、バンドでは社会的信頼もないため、レバレッジを利かせることが難しい。ただ、やっていることは非常に似ている。これが私のグロースマインドセットの始まりだった。

 またバンド活動で得た知見の中で重要なのは「権利の委譲」だ。自分がやりきれないことを他の人に権利を譲し行使してもらう。あくまでも責任は私がもつ。例えば、真紀にバンドに加わってもらうことで、車での移動やコンサートヴェニューの発掘をお願いした。これは、企業が外部から人を雇って、自分たちが出来ていなかった範疇の仕事ができるようになったことと同じである。

 ライブをすると、同じくバンドで活動をしている人が見に来ていて、そこから別のライブに出てみないかという誘いを受け、新たな場所でライブをするようなる。これは、ジョイントベンチャーに似ている。メタル調のバンドであることが高校の軽音楽部の顧問に疎まれた原因ではあったものの、このようなビジネスマインドの考えをもって活動していたならば、印象も変わりそうだと今は思うが後の祭りだ。

 

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