揺らぎ
ブリザード前に戻ってきたのは、真紀だけということが電話をしてみて分かった。キャンパス内のカフェテリアや店が機能していない現実があったが、真紀は車を持っていることで、1週間の休校の間、キャンパス外に食事や食料補給に行こうという提案をしてくれた。
「ありがとう。キャンパス内はもう限界だったから、本当に助かる。」
「気にしないで。こんな状況だから、助け合わなきゃね。それに、一人で買い出し行くよりずっといいし。」
真紀の声には、少し緊張感と興奮が混ざっていた。彼女はこの機会に、少しでも私と一緒に過ごす時間を増やしたいと思っていたのだ。真紀は、いつの間にか私に対して特別な感情を抱き始めていたが、私自身はそのことに全く気付いていなかった。
「そうだね。こんな時こそ、誰かと一緒にいたほうが心強い。正直、地元では、こんなに雪が降ったことは今までなかったから積雪量に驚いてる。」
「私も雪の少ないところ出身だから初めて。去年も雪降ったけど、今回は何倍も多い雪かも。気にしないで、いつでも手伝えるから声かけて」
真紀の優しさに触れ、私は心から感謝の気持ちを抱いたが、彼女の隠れた心情には気づかず、ただ頼りになる友人として受け止めていた。
「ありがとう。本当に助かる。じゃあ、必要なものリストを作っておく。明日、行けるように準備しておくよ。」
「明日の10時でいい?」
「うん、それでいいよ。」
電話を切った後、真紀は少し胸が高鳴っていた。彼女は自分の気持ちに気付きながらも、それをどう伝えるか迷っていた。私と過ごす時間が増えることで、その感情がさらに強くなることを感じていたが、一方でそれを表に出すことができずにいた。
私は、真紀の思いには気付かず、ただ友人としての彼女の存在に感謝していた。ブリザードの中で孤立感を感じていた私にとって、真紀の提案は大きな救いだった。彼女の車に乗って、キャンパス外の世界へと出かける準備を進めながら、私は真紀との友情を大切に思い続けていた。
翌日、真紀が寮の下のインターフォンから到着の連絡をくれた。寮のドアを開けると、彼女の笑顔がいつもより輝いて見えた。私たちは凍てつく道を慎重に進みながら、必要な食料や物資を確保するために近くのスーパーへと向かった。車内での会話は弾み、真紀の気持ちに気付かないまま、私は彼女との時間を楽しんでいた。
寮には各階にコンロがあるので軽い料理ならできるが、食材を保存しておく大きな冷蔵庫はない。真紀が教えてくれたように、炊飯器でパスタや即席ラーメンが作れることを知り、最低限の飲料とカップ麺や乾麺、小さめの短粒米を購入した。幸いにも、私は3合炊きの炊飯器を持っていたので、これで何とか食事を賄うことができる。
真紀は、妙に親切にしてくれた。バンドが形になったのも彼女の行動力のお陰だし、ライブが出来たのも真紀のお陰だ。彼女の行動力には感服するばかりだった。
真紀は、私に対する特別な感情を自覚していた。彼女の親切や行動力の裏には、私への想いが込められていた。ブリザード前に戻ってきたのが私だけだと知った時、真紀は少しほっとした気持ちを抱いた。これで、少しでも私と二人きりで過ごす時間が増えるのではないかと期待していたのだ。
彼女は私が困っているとき、いつも助けたいと思っていた。炊飯器でパスタや即席ラーメンを作る方法を教えたり、必要な食材を一緒に買いに行ったりすることで、私が快適に過ごせるようにと心を砕いていた。その親切心は、ただの友人以上のものであり、私に気づいてもらいたいという願いが込められていた。
真紀は、自分の気持ちをどうやって伝えればいいのか悩んでいた。私が彼女の行動力を評価していることを知っているが、その背後にある彼女の感情に気づいていないことがもどかしかった。バンドの成功やライブの実現も、私との距離を縮めたいという強い思いからの行動だったのだ。
車で町に出かける道中、真紀は私との会話を楽しみながらも、心の中では私への想いが膨らんでいた。彼女は、私が気づかないままに、私への恋心を募らせていた。そんな彼女の姿に、私はまだ気づいていない。私にとって真紀は、頼りになる友人であり、助け合う仲間だった。
真紀はそのままの状況を受け入れつつも、いつか自分の気持ちを伝えることができる日が来ることを願っていた。今はただ、私との時間を大切にし、私が困っているときに力になれることを喜びとしていた。真紀の心は、優しさと愛情で満ちていたが、それが私に伝わるにはもう少し時間がかかりそうだった。
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