ブリザード

 猛吹雪のことをアメリカではブリザードという。横殴りの吹雪のことだ。日本ではあまりなじみはない習慣かもしれないが、アメリカでは雪が降ると職場も学校も、商業施設以外がクローズになる。学校系列は、雪でも熱波でも休みになる。国民の祝日や、宗教上の祝日が必ず休みになる学校は、恐らくアメリカの施設の中で最も休日の多い就業場所かもしれない。その代わり、民間企業で働くようになると、祝日は殆どないと言っていい。正月ですら大晦日と元旦しか休みにならない程だ。

 その年のブリザードは、予想を超えるものであった。風と雪は2日間止むことなく吹き荒れ、積雪はなんと60センチメートルにも達した。寮のドアを開けると、まるで壁が立ちはだかっているかのような雪の山が迎えてくれた。外の風景は完全に変わり果て、雪の重みで屋根が軋む音が響いていた。

 吹雪が止んだ後も、雪は解けることなく、むしろ凍りついてアイスに変わった。歩道も車道も、すべてが滑りやすい氷の表面に覆われ、普通の靴では到底歩けない状態だった。街の交通は麻痺し、車が動けなくなったこともあって、多くの人々が家から出ることを避けた。

 飛行機は数日間にわたり欠航となり、空港は人々で溢れかえった。帰省していた学生たちも寮に戻ることができず、空港や友人の家に留まらざるを得なかった。私の住んでいる大学寮も例外ではなく、冬休み明け初日から1週間、休校となった。キャンパスはがらんとしていて、静寂が漂っていた。

 大学のキャンパスも一面の雪と氷に覆われ、普段の賑やかさは消え失せていた。道路は除雪されてもすぐに凍りつき、歩くのも一苦労だった。寮に残った学生たちは、図書館や食堂で暇を持て余しながら、この異常な事態が収まるのを待っていた。彼らと同じように、私も部屋で過ごしながら、ブリザードの恐ろしさと自然の力に改めて驚かされる日々を送っていた。


 ブリザード前にキャンパスに帰ってきた学生はほんの一握りだった。当然、カフェテリアで食事をする必要があるわけだが、問題が発生した。カフェテリアで働くスタッフもブリザードのため休まざるを得なかったのだ。広いカフェテリアには、わずか二人のスタッフしかいなかった。料理が出るはずもなく、提供されるのはサラダバーのサラダのみ。しかし、そのサラダは腐りかけていて、酸っぱい臭いが漂っていた。レタスの葉はしなびて色が変わり、トマトも軟らかく崩れかけている。

 学生たちは、食べるものがシリアルと食パンくらいしかない惨状に直面した。シリアルは無糖のプレーンタイプで、ミルクもあまり冷えておらず、生温い状態だった。食パンも硬くなり始めており、バターやジャムもほとんど残っていなかった。カフェテリアの広い空間に、困惑と失望の表情を浮かべた学生たちがぽつんと座っていた。

 仕方がないので、中華やピザのデリバリーを頼もうと試みたが、雪のためデリバリーもやっていないことがわかった。電話をかけても、どの店も「現在の天候状況により、配達サービスは休止しています」と断られるばかりだった。

 この状況に、学生たちは一層の孤立感と不安を感じた。キャンパス内の食堂が通常のサービスを提供できない中、彼らは限られた食糧でなんとか凌がなければならなかった。みんなで集まって、どうにかして食事を工夫しようと試みたが、すぐに使える材料が乏しく、解決策は見つからなかった。

 このブリザードの試練は、学生たちにとって厳しいものだったが、同時に彼らの忍耐力と創意工夫の力を試される機会でもあった。苦しい状況の中で、少しでも快適に過ごすための工夫が求められた。

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