冬休み
期末試験が終わると、途端にキャンパスに静寂が訪れる。それは、学期の最終日に、キャンパスの95%の学生が長期休みのため帰省するからだ。留学生やほんの一握りの現地学生は、夏休みであれば夏学期を受講するが、冬学期というのは用意されていないため、大学の寮を一時期出なくてはならなくなる。
留学生は、本国へ帰省せずとも、現地の友人宅に呼ばれることもあれば、休み中に安い長距離列車の長期乗車券を購入して旅行する人もいる。自由な選択肢があるが、私はオーソドックスに帰省をする。留学先で知り合う同期は日本中から集まっているため、帰省した際に近くに住んでいる同期は少ない。大抵、中学や高校時代の同期とたまに会うか、同じ留学先の同期が近場に住んでいたらどこかで会うかなどで暇をつぶすことが多い。
帰省すると、家族との再会や日本の食文化を楽しむ時間が訪れる。特に、母親が作る家庭料理は、留学先では味わえない特別なものだ。家族との団欒は心のリフレッシュとなり、新たな学期へのエネルギーを充電する大切な時間だった。
また、地元の友人たちとの再会も楽しみの一つだ。彼らと過ごす時間は、留学先での忙しさやプレッシャーから解放され、リラックスできる貴重なひとときだ。友人たちと昔話に花を咲かせたり、新しい経験を共有したりすることで、改めて自分の成長を感じることができた。
しかし、留学先の同期との絆も大切にしていた。近場に住んでいる同期がいれば、一緒に食事をしたり、観光地を訪れたりして交流を深めた。彼らとの会話は、異文化での生活のヒントや励ましをもらえる貴重な機会だった。
こうして、帰省期間中は日本での生活を満喫しながらも、留学先での新しいチャレンジに向けて心身を整えることができた。次の学期が始まる頃には、再びアメリカへ戻り、新たな目標に向かって歩み出す準備が整っていた。
一年目の冬休みの帰省の時、私は他の生徒よりも数日早くアメリカへ戻った。別に特別な理由はなく、前日に帰ってきたら体力的に疲れているだろうと考えたからだった。しかし、この判断が賢明だった。その年の冬は数十年ぶりの猛吹雪に見舞われたのである。
私が帰ったその日の夜、窓の外にちらほらと雪が舞い始めた。最初は小さな雪片が静かに舞い降りるだけだったが、その美しい光景はやがて一変する。時間が経つにつれ、雪は次第にその勢いを増し、風に乗って激しく降り始めた。
夜が更けるにつれ、風の音が家の中にも響き渡り、窓ガラスに雪が叩きつけられる音が耳に残った。外を覗くと、街灯の光が吹雪の中でかすかに見えるだけで、視界はほとんど白一色に包まれていた。
数時間が経過するごとに、雪の量は驚くほど増えていった。玄関の前に積もる雪は膝まで達し、歩道はすでに見えなくなっていた。風は一層激しく吹きつけ、まるで雪の壁が押し寄せるかのようだった。木々は雪の重みに耐えきれずに枝を揺らし、時折その枝が折れる音が遠くから聞こえてきた。
朝になっても吹雪は収まらず、外界との接触は完全に途絶えてしまった。道路は雪で埋もれ、車のタイヤが見えなくなるほど積もっていた。街全体が一夜にして静寂と白の世界に変わってしまったのだ。
私が数日前に戻っていなければ、この猛吹雪の中で移動するのは不可能だっただろう。寒さと雪の重みに耐えながら、何とかして家に辿り着こうとしていたであろう友人たちのことを思うと、自分の判断がいかに賢明だったかを痛感した。その日は、一歩も外に出ることなく、暖かい部屋の中で吹雪の音を聞きながら過ごした。
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