劇場版仮面バトラーフォワード『ハイスクールオブムジカ』ダイジェスト版
星雲学園大学。
世界的に有名な音楽家を多数輩出する有名大学だ。
この物語は、星雲学園大学の“高等部”に通っている“お嬢様”イーグレットの視点から始まる。
「私が、……高校生?」
イーグレットは校門の前で腕を組んで考えていた。星雲学園大学高等部という立派な表札をにらみつける。それから、この校門を通過して高校の敷地内に入っていく女子生徒たちの制服と、イーグレット自身の服装が同じであることに気がついた。着替えた記憶はない。
(そうだわ。周りの子たちのシンボリックエナジーから、情報を読み取ろう)
仮面バトラーが仕えしお嬢様には、それぞれに固有の能力を持つ。イーグレットは人間の生命エネルギーの一種にあたる『シンボリックエナジー』を操作し、
イーグレットは制服の袖をまくりあげる。
「おはよう! イーグレット!」
不意に左肩を叩かれた。左を見れば、制服姿の
「どうしたのよその格好」
「?」
「そんな、きょとんとした顔をされましても」
「今日も音楽に満ちた一日が始まるぅ~♪」
勝利は『星雲学園大学高等部』の『一日の始まり』を歌い始める。勝利の歌に合わせて、他の生徒たちも歌い出した。男子生徒が女子生徒の手を取って、踊る。勝利は戸惑っているイーグレットの手を掴もうとして、振りほどかれた。
「フォワード」
「はぁい」
フォワードベルトは勝利の腰に巻かれている。おかしな世界ではあるが、勝利が仮面バトラーフォワードに変身するのはイーグレットの知る世界と同じらしい。
「私、ちょっと記憶喪失みたい」
「そうなの!? ……道理で、いつもと違うわけだ」
「あなたもね」
「いいや。ボクは普段通りだよ?」
どうやら勝利はこのキャラクターで押し通すようだ。
イーグレットは咳払いして「忘れちゃったから、この学校について教えてくれない?」と頼んだ。
「ここは星雲学園大学高等部。音楽の
勝利が前を歩き、イーグレットはついていく。中庭の『シエロの像』で立ち止まった。
「シエロ……」
「そうよ! タクトは!?」
「タクトって、鷲崎先生のこと?」
「せんせい!?」
「うん。音楽科の鷲崎先生のことだよね?」
「あのタクトが……先生……ふふっ」
日頃のタクトと“教職”とが結びつかず、イーグレットは笑い出してしまった。勝利は腕時計を見る。
「まだホームルームが始まる前だから、音楽室、行ってみる?」
「ふふ、いいの?」
「まあ、大丈夫じゃないかな?」
音楽室。他の普通教室との違いは、入り口が音漏れを防ぐような重たい扉になっていること。室内も壁の素材が異なる。
「しつれいしまーす」
勝利が体重をかけて扉を開けた。イーグレットが続く。タクトはグランドピアノの前に座っていて、扉が開いたことに気がつき、振り向いた。
「タクトまで、どうしたのよその格好!」
「鷲崎先生はいつもこうじゃない?」
「違うわよ!」
真っ赤な執事服である。髪型はいつもと変わらず、長めの髪をちょこんと一つ結びにしている。フチの細いメガネ越しに、ふたりのやりとりを見つめていた。
「先生すいません。今日のイーグレットちゃん、記憶喪失らしくて」
「なんでフォワードが謝るのよ」
「音楽室より保健室に行ったほうがよかったかも?」
「望月」
「え、はい」
タクトが勝利の名字を呼ぶ。いつもならばタクトから勝利は「ショーリ」と呼びかけているので、ここにも違和感があった。
「先に教室に行っててくれへん?」
「ああ、はい。でも」
「イーグレットさんはウチと話してから、朝のホームルームが始まるまでに教室連れて行くか保健室で休ませるかを決めるわ」
「わっかりました」
勝利は素直に応じる。また重たい扉を開けて、音楽室を出て行った。
「……タクト」
完全に扉が閉まったのを目で確認してから、イーグレットは口を開いた。見慣れない服装に、口の端が歪んでいる。
「お嬢様から『先生』と言われたいなあ?」
「言わないわよ」
「試しに一度」
「言わないわよ」
「おもんないなあ」
「そう。おもんなくて結構。タクトはタクトでよかったわ。私、このままだと頭がおかしくなりそうだった」
「お似合いですよお嬢様」
「タクトは似合っていないわね?」
「せやろか」
タクトが立ち上がり、その場でぐるっと一回転する。腰にはフォワードベルトとはまた違うデザインのベルト、ムジカドライバーが巻かれていた。
「どうしてそれを?」
「この校舎内に、もう一人“お嬢様”がおる」
「仮面バトラーメロディの?」
「あのコはこんなことせんと思うよ。ウチの知らない別の“お嬢様”やない?」
「この場所で?」
「まー、模倣犯っていうのかな。そちらのお嬢様をどうにかせんと『音楽に満ちた一日』は繰り返される」
「どうにかして抜け出さないと……」
*
「連絡が取れなくなって、今日で一ヶ月」
仮面バトラーフォワードが不在だからといって、秘密結社『
『ああ、お嬢様……お嬢様……』
ゴートはおろおろとテーブルの上を行ったり来たりしている。クオートで三人の行方を追っているものの、手がかりは掴めていない。
「勝利のやつ、オレにいなくなられてかあさんが心配してた、と言っといて、自分がいなくなってどうすんだよ!」
勝風が憤る。勝風はかつてコンマの
「その、基地には“お嬢様”の場所を特定できる地図があるんじゃありませんでしたっけ?」
夜長は基地に出入りしたことがない。勝風の話を思い出して、確認するように聞いてくる。
「あの地図では“お嬢様”が『星雲学園大学高等部』という場所にいることになっている。だが、その『星雲学園大学』に高等部はない」
卒業生の夜長がうなずいた。大学に問い合わせたが、高等部は存在していない。地図に示された場所には、小さな
『ああ、お嬢様……お嬢様にいなくなられたら、わしは……』
「しっかりしなさいよ」
リベロ部隊のメンバーはシフト制で怪人退治に向かっている。蓄積した疲労やストレスから、メンバーから不満の声も上がっているところだ。仮面バトラーフォワードに変身できる唯一の人間である望月勝利を、早く探し出さねばならない。
「場所さえわかれば、オレが乗り込むってのに……!」
*
朝のホームルーム。イーグレットはタクトに案内されて、星雲学園大学高等部における自分の所属、一年二組の教室までたどり着けた。教室についてからは、勝利が「ここがイーグレットの席ね」と誘導している。
「また、放課後やな」
去り際にタクトが教室に掲示された時間割を見て、イーグレットへ伝えた。音楽の授業はない。
「鷲崎先生と何の話をしたの?」
勝利はイーグレットの隣の席だ。音楽室に残したイーグレットと、タクトとの会話が気になるらしい。
「ここを抜け出すための話」
「抜け出すって?」
「私とタクト、そして
「この学校にも怪人は出てくるよ?」
校庭からは歓声が沸き起こっていた。クラスメイトたちが窓に群がり、外に向かって声援を送っている。勝利とイーグレットも、他のクラスメイトたちにならって、校庭を見下ろした。
「仮面バトラー、コンダクター!」
イーグレットが赤い仮面バトラーの名前を叫ぶ。ムジカドライバーを用いて変身する仮面バトラーシステムバージョン3の仮面バトラーである。
「あ、そういう名前なんだ」
「フォワードも早く戦いなさいよ」
「そうだね。加勢しよう」
勝利はフォワードベルトにフォワードボールをセットして、サムライブルーの
「よろしくお願いします!」
「……」
「えっ、スルー?」
コンダクターは指揮棒を振るって楽器を召喚する。さまざまな楽器が奏でる音符が怪人たちにぶつかって、その身体を爆散させていった。
「ボクも戦いますけど?」
シンボリックエナジーにより生み出されたフォワードボールを蹴り飛ばして、怪人のゴールにシュートする。というのが、フォワードの戦い方だ。
「って、あれ、怪人のゴール……ゴールがない……?」
見当たらない。シンボリックエナジーによる球体はシュートしなくとも怪人に当たればダメージは入るが、フォワードとしては一発でゴールを決めきりたい。きょろきょろとしているあいだに、コンダクターが倒しきってしまった。
「ボクが変身した意味」
「アポストロフィーの怪人とちゃうからな」
コンダクターは関西弁らしきイントネーションで話しかけてくる。フォワードの右肩を叩いて、ねぎらうように「ヒーローはたくさんいたほうがええから、次は遅刻せんようにな」と言い残し、校舎に入っていった。
「なんやねん」
勝利は関西弁っぽくつっこんで、変身を解除する。校舎に入っていったということは学校の関係者だと思われるが、変身前の姿は見られなかった。
*
怪人騒ぎの影響で、遅れて朝のホームルームが始まる。教卓の前に現れたのはイーグレットの知らぬポニーテールの女性だった。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
「今日はこのクラスに、転校生が来ました! みんな拍手ー!」
ざわめきと拍手。タクトは『繰り返される』と言っていた。この転校生がやってくるくだりも『繰り返され』ているのだろうか。イーグレットは首を傾げる。
「どうもー! 転校生の、
知川朱未。コンマの求人情報に応募してきた、勝利からみて一つ年上の青年。今は男子制服を着ている。元々が中学生と見間違えられるような容姿のため、勝利より現役の高校生に近い見た目になっていた。
「この
イーグレットと目を合わせてきた。背筋がぞわりとする。
「フォワード」
「?」
「私、保健室に行きたいかも」
「やっぱり体調よくないんだ。せんせー!」
勝利が手を挙げる。その手にクモの糸が絡まって、学習机に固定された。
「なにこれ」
剥がそうと試みる。机ごと持ち上がってしまった。
「フォワードを隔離してくれるのは大変ありがたいのだけど、俺としては、邪魔な幹部をもっと倒してからがいいんだよねえ……?」
身の危険を察した先生が教室から廊下へと逃げ出す。逃げ出した先で、タクトは待ち構えていた。
「シエロ」
「……ぴえ」
「二回も人を巻き込むの、やめてもらえます?」
「キミが仮面バトラーシステムにまた関わっているから、お話ししたくてえ。あと、
「そかそか」
「えーん。シエロ悪くないもーん。女神の気まぐれアンティパストだもーん」
「はいはい」
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