第18話

 フォワードの絶体絶命のピンチに現れた二人目の仮面バトラー、。彼は圧倒的な攻撃力で敵の怪人を粉砕した。その変身者は、望月勝利の兄である勝風しょうぶ

「兄貴!」

 勝利が仮面バトラーフォワードに選ばれたその日に、書き置きを残して行方をくらました兄。再会を喜ぶ勝利に、勝風はリベロヴァルカンを突きつける。

「その強さで、お嬢様をお守りできるのか?」

「え……」

 強さ。その言葉に、勝利の笑みが消える。リベロが現れなければ、勝利はあの怪人に倒されていたことだろう。

「お嬢様はオレが預かる。一ヶ月後、この場所でまた会おう」

「勝利っ!」

「強くなって取り返してみろ!」

 勝風は勝利の護衛対象であるお嬢様を抱えると、リベロヴァルカンで煙幕を張って消えてしまった。――と、ここまでが仮面バトラーフォワード第五話の放送分である。


「とんでもないやつだったぜ」

「そうかな……」

 ところ変わって、ここは天助小学校の六年一組の教室。文月と貴虎の話題は朝から第五話の内容でもちきりだ。休み時間に入るたびに第五話の話をしていて、もう放課後となってしまった。

「わたし、リベロが悪い人には見えなくて」

「というと?」

「お嬢様をフォワードから奪い取りたいだけなら、フォワードが怪人に倒されてからでもよかったじゃない。あのタイミングで出てきたのは、お兄さんとして、弟を助けたかったからじゃない?」

 半分はもふもふさんからの受け売りである。第五話を見た後に、録画してある第二話から第四話を見た。

「はー、なるほどだぜ。それで、次回は強化フォーム登場か」

 次回予告にちらりと映っていたのは、色違いのフォワード。持っている武器はフォワードストライカーを変形させたものだった。

「フォワードディフェンダーモード、かな?」

 文月はペンケースの中に入れていたカードを取り出す。土曜日にもふもふさんが購入した仮面バトラーフォワードソーセージに同梱されていたカードだ。文月としては、自分の少ないおこづかいを勝手に使われた上でまだ本編に登場していない仮面バトラーフォワードの姿を当てられてしまい、開けた瞬間はなんとも言えない表情になった。

 レシートを母親に渡せば、材料費を家計費として負担してくれるものの、このソーセージについてとやかく言われないわけがない。なので、そのときのレシートは隠し持っている。

「盾って、どう戦うんだろう?」

「うーん、まあ、来週のお楽しみだぜ!」

 とまあ、このような調子で、仲良くフォワードについて語り合っているものだから、環菜が教室の入り口からこっそりと入ってきた。今日の文月は、環菜との約束がある。

「おねえー……」

「あれ?」

「お、鏡の妹。どうしたんだぜ?」

「あれ? じゃないよう。プールに行くんでしょう、プール!」

「あっ!」

 貴虎とプールへ行くかは運動会の徒競走の結果次第ではあるが、行くにしても行かないにしても、泳げるに越したことはない。もふもふさんをプールに連れて行くのは学校以上に問題となってしまうので、泳ぎ方の指導は環菜に一任された。走りの担当がもふもふさんなら、泳ぎの担当は妹である。

「桐生さんと仲良く話しているのを、邪魔したくはないけどねっ!」

「つい楽しくなっちゃって……」

 文月はカードをペンケースにしまって、帰りの支度を始める。他の児童はとっくにいなくなっていて、文月と貴虎だけが教室に残っていた。

「三年生は五時間目までじゃ?」

「そうです。だから、あたしは図書室で待っていて、六時間目が終わったらおねえが図書室に来てくれる予定でした」

「ごめんって」

「待てど暮らせど来ないので、教室まで見に来ちゃいました」

「そりゃあ、おれも悪いことしたぜ」

「いーや、桐生さんは悪くないです! 気にしないでください! おねえが忘れっぽいのは今に始まったことじゃないので!」

 貴虎が申し訳なさそうにすると、環菜は全力でかばい始める。とはいえ、待たされたのは腹立たしいので一言付け加えた。

「あとでポカリおごるね……」

 忘れっぽいという自覚はある。ほんとうにすっかり忘れていた。学校帰りにプールへ行くために水着を用意して持ってきているというのにだ。環菜が教室まで来なければ、先生が教室に見回りに来るまで話し続けていただろう。

「また明日、話そうぜ!」

「うん! また明日!」

 というわけで、まだ話し足りないが貴虎とは別れ、姉妹揃って小学校を出る。かつて文月も通っていたプール教室が開講されている屋内プールまで移動した。今は姉妹ともにプール教室にはお世話になっていないため、利用券を購入してから更衣室へと入っていく。

「うーん」

「おねえ、さすがにそれは無理!」

 文月は競泳水着とスクール水着の二種類を持ってきていた。昨年まで通っていた環菜はまだ着られるのだが、文月がこの競泳水着を着ていたのは小学一年生の頃。小学六年生になった現在では着られない。それでも着ようとするので、環菜からのストップがかかった。

「スク水、持ってきておいてよかった」

 環菜とプールに行く話が出てからもふもふさんに相談し、こちらのスクール水着の持ち込みを勧められた。もし相談していなければ、文月は競泳水着しか用意しなかっただろう。

「ほんとだよ……というか、おねえ、水着ってこの二つだけ?」

「そうだけど?」

「買お? いろんな女の子がいるプールに行くのに、これじゃあ、桐生くんを別の女の子に盗られちゃうかもよ?」

「盗られるも何も、桐生くんはわたしのものではないけど……」

「またまたあ」

 ワッペンに大きく『5-1かがみ』と書かれたスクール水着だと、ウォータースライダーのある大きなプールではしそうではある。元来、文月は目立ちたがりではない。

「あんなに楽しそうに話しているおねえ、初めて見た」

「そうかな?」

「何の話してたの?」

 文月は素直に答えるべきかを逡巡した。毎週日曜日にわざわざ祖父母の家まで出かけているのは、環菜の言葉が原因ともいえる。

「……仮面バトラーフォワードの話」

 しかし、上手いごまかしがパッと思い浮かばない。正直に言ってしまった。

「フォワードって、あの、おねえが見てた?」

「うん」

「おねえ、最近日曜日はおばあちゃん家に行っているじゃない?」

「おばあちゃん家で見ている」

「え、でも、ママも見ているよ?」

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