第5話 悪役魔導士、貫通光線魔法を作る





 森の奥深くに屋敷を買った。


 エリットに押し付けられた少女――ナナは家事全般をこなしている。


 ナナというのは少女の本名ではない。


 彼女はエリットからかなりの尊厳破壊を受けたようで、名前を問うと『肉便器七号』と名乗った。


 本名を口にすると暴行を加えられたようで、本能的にその名前が染み着いてしまい、元の名前を言えなくなったらしい。


 と、そこでリオロが『七号』から取ってナナという名前を付けたのである。


 名前の由来が由来なので、正直反応に困った。


 さて、そのリオロは日がな一日をゴロゴロしている。

 ナナの作った料理を食べては寝たり、たまに俺を挑発して返り討ちに遭ったり。


 じゃあ俺はというと……。

 


「生活魔法、か。流石は基礎と言ったところか。少し侮っていたな」



 森の奥地で魔法の鍛練をしていた。


 鍛練と言っても、昔のようにド派手な魔法をドンパチ撃ちまくるわけではない。


 生活魔法は個人差こそあれど、子供でも扱える魔法だ。

 分かりやすく説明するなら足し算くらいの難易度だろう。


 しかし、足し算は算数、数学の基礎。


 足し算ができない奴は掛け算もできない。すべての応用の基礎。


 それが生活魔法だ。



「ふむ、やっぱり思うように出力を上げられないな」



 生活魔法の魔法陣をそのままに、注ぎ込む魔力量を増やして出す水の量を増やしたり、吹かせる風の威力を上げようと試みたが、失敗。


 やはり俺の身体は一度に大量の魔力を放出することができなくなっている。


 高威力の魔法を軒並み使えなくなったのだ。



「魔導士としては死んだも同然、か」



 魔導士の良し悪しは魔力量、魔力出力、魔力操作で決まる。


 魔神復活の儀式が主人公ら勇者によって妨害された結果、俺はこのうちの魔力量と魔力出力を失った。


 しかし、リオロという魔神との契約によって魔力量の問題は解決済み。


 魔力出力に関しては……どうしようも無い。


 そもそも魔導士とは才能に依るところが遥かに大きいのだ。


 なんせ魔導士に重要な三つの要素のうち、魔力量と魔力出力は完全に生まれながらに決まってしまう。


 中には魔力操作だけで大魔導士に比肩する実力を有する者はいるが……。


 そういう奴は大半が魔剣士のような、魔力によって肉体を強化するといった独特な戦い方をするようになる。


 魔導士にはなれないし、ならない。


 俺は魔神の魔法陣を書き換えるくらいには魔力操作には自信がある。


 今からでも魔剣士に転身した方が良いだろう。



「でも、剣は興味ないんだよなあ」



 俺は魔法が好きだ。


 魔法を封印して剣を振り回すくらいなら、死んだ方がマシ。

 だから俺は生活魔法だけでも魔法を極めてみせたい。



「そのためには……」



 俺は生活魔法の一つ、コップ一杯程度の水を出す魔法を使い、宙に水を浮遊させる。


 それが揺れ動かないよう魔力で操作し、半円形の皿のような形を作った。


 果たして上手く行くだろうか。



「……熱っ!!」



 成功した。


 魔力操作で水を操り、擬似的なレンズを作って太陽光を収束させる。


 その収束点は者を焼き焦がす程の熱が生じた。


 試しに人差し指を突き出したら火傷してしまった程である。



「これの威力を上げたら、人間くらい貫通する光線魔法とか使えそうだな」



 そのためには水レンズの巨大化……。


 いや、それよりもレンズの数を増やす方が効果的だろうか。



「複数のレンズを使って収束させた光を、更に一つのレンズに収束させる。その光を更に一つのレンズに集めて……」



 完成した。


 人体を軽く焼き貫く威力の光線魔法……。いや、貫通光線魔法か。

 金属の鎧をまとっていても防ぐのは難しいだろう。


 ついでに言うなら貫通光線魔法は光を収束させている、いわば物理攻撃。


 魔法的な防御は完全に無視して攻撃できるため、相手が腕に覚えのある魔導士なら初見殺しの魔法になる。


 加えて言うなら高威力のくせに使っている魔法は所詮は生活魔法。


 人を一人殺せる威力ながら、消費する魔力は子供でも賄えてしまう。


 ……思ったより性能の良い魔法ができたな。



「応用も効きそうだ。これを元に改良を加えていくのも面白いな」


「旦那様よ、先程から一人でブツブツとどうしたのじゃ?」


「っ、な、なんだ、リオロか」



 一人で色々と考えていたら、いつの間にか背後にリオロが立っていた。


 いつもの幼女姿である。



「音もなく背後に立つな。びっくりする」


「むふふ~」


「で、何かあったのか?」


「食事ができたのじゃ!! 今回は妾も手伝ったのじゃぞ!!」


「む」



 リオロが食事作りの手伝いだって?



「何をしたんだ?」


「火加減を見ておったのじゃ」


「……他には?」


「だけなのじゃ」



 果たしてそれを手伝ったと言って良いのか。


 いやまあ、食事を作る上で火の管理は重要かも知れないが……。



「まあいい。すぐに行く」


「うむ!! 冷めぬうちに来るのじゃぞ!! ナナの作るものは美味いからの!!」


「……」



 実に良い笑顔で屋敷に戻るリオロ。


 あいつは自分が魔神であるという自覚が本当にあるのだろうか。


 ……無いだろうなあ。


 リオロは色事を司る魔神だからか、俺にはませた子供に見える。


 俺の想像していた魔神ってこう、人の物差しでは計れないようなヤバイ存在ってイメージがあったのだが。


 俺の中の魔神のイメージを返して欲しい。



「……腹が減ったな。続きは午後にしよう」



 リオロを追って俺が屋敷に戻ろうと身を翻した、その瞬間だった。


 俺の脳天を目掛けて矢が飛来した。


 俺は咄嗟に宙に水を出し、矢にまとわせるように水を操作して威力を殺す。



「――誰だ?」



 水の中で停止している矢を手に取り、俺は襲撃者に声をかける。


 しかし、襲撃者は答えない。



「……なるほど」



 まあ、問答は不要だ。


 今の問いに答えるようなら殺しはせず、見逃してやったが……。


 手加減は要らない。ちょうど良いし、貫通光線魔法の実験に使わせてもらおう。



「貫通光線魔法……名前はそうだな、太陽光を使ってるわけだし……サンライトピアスとか?」



 いや、ちょっとダサイかな。


 そこら辺は昔からネーミングセンスがないし、後でじっくり考えよう。



「どこに隠れているか分からんし、適当に乱射するか」



 俺は貫通光線魔法を森に向かって乱射した。


 木々に隠れていようが、貫通光線魔法なら容易く貫いてしまう。


 茂みの向こう側で襲撃者が悲鳴を上げる。



「うぐっ」


「かはっ」


「ぎあっ」


「ひぎっ」


「ぐえっ」



 ふむ、森に隠れていたのは五人か。


 幸いにも当たりどころが悪かったようで、全員が生きている。


 おっと、生きているなら当たりどころが良かったんじゃないかって?


 違う違う、そういう意味ではないよ。



「さて、今から俺の質問に答えてもらおうか」



 今ので死んでいたら、彼らは死にたくなるような拷問を受けなくて済んだのだ。


 俺は彼らに同情する。



「安心しろ。ついでに貫通光線魔法の威力を確かめたら楽にしてやる」



 どんな魔法でも、威力や効果を確かめるのは重要なことだ。


 ものによっては自分で試すが、貫通光線魔法は殺傷力が高い。

 俺は治癒魔法が苦手なため、自分で試したら死んでしまう。


 ……街を出る前にポーションでも買っておけば良かったな。


 他人の痛みは自分には分からない。


 一番良いのは自分で試すことだし、いつかは自分に撃ってみたいところだ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「圧倒的な力を持ってるのにポンコツな娘って興奮するよね。騙して色々な悪戯がしたい」


テ「可愛いとは思うが……」



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最強だった悪役魔導士が生活魔法を極めたら規格外のぶっ壊れ性能で最凶に返り咲くっ! ナガワ ヒイロ @igana0510

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