第12話 晒し行為

「娘さん、しっかりしてない、って言うけれど。可愛いこと言うじゃない、もぐもぐ」


同僚がメロンパンを休憩中食べながら言ってくる。


「え、うちの娘なんか言ったっけ? むぐっ、ん?! 何言う?! なに、話してるの?! どうやっ、ごふ」


食べていたお弁当のおかずのスパゲッティがつっかえる。お茶を飲む。


「あ、ネットでの話」


同僚が大丈夫だろう、と心配もしてくれずに話を進める。


「ネットで話したの?! え? ネットって……、LINE? いつのまにLINEなんて交換したの?!」


私は娘が同僚と話したことに驚いた。


「?」


「?」


二人して首をかしげる。そして、


「どうして、あ、LINE、あ、あー……」


と同僚がメロンパンのど真ん中に齧り付くのをやめてから。


「今時はお話するとかメッセージのやり取りはインスタだけど、LINEも使えるし、フツーそっち考えるよね、ゴメンゴメン」


悪いと思ってないのと、不思議なこの空気にまだ疑問が尽きない私。


「ネットで話すって、何」


「あなたチャットとかやらなそうだもんねえ。私オタクだからバリバリ2ちゃんねるとか見てたわよ。ひろゆき知らないよね?」


「チャットって、ネットでお話しすることでしょう? でも、学校裏サイトとか、ネットって昔からよくないイメージなのよ。その点、LINEのクーポンはいいわ。スマホで有名な企業なら友達登録してる」


「ネットリテラシー? は持ってるのにそのネットがどこまでどんなことできちゃうかは想像が及ばない、みたいな。あ、ごめん、別にあなたの想像力が足りないって言ってる訳じゃないのよ? 私が娘さんと直接話した訳じゃ……、まあ、ほぼ、話したかな」


同僚が話の合間にもうまいことメロンパンをぱくぱくする。

私は事の真相を知るために箸を止めている。


「書き込みよ、書き込み。あなたが読んでるLINEマンガとかにもコメント欄っていうのない? 感想が言い合えるやつ? ない? マジか。私も後で見てみよ。娘さんらしき著者のエッセイにさ、書き込みっていうか、メッセージ書いてみたの」


正しくは打つだけど、と同僚。メロンパンが終わる

……。


「コメントっていうんだけどね。まあ、ちょっと自分のことぼかしながら感想送ってみたのよ。安心して。娘ちゃん、ひどいことは書いたけど、ちゃんとあなたが好きだし、他の人のことも応援できる子よ……」


「みたわよ……」


エッセイは……。


「え?! じゃあ、『ゆたんぽ』って私! 実は!」


「ゆたんぽ……?」


「あ、コメント欄は見てないんだ。まあ、他にも娘ちゃんのエッセイ読んでる人いるみたいだからコメントニ、三件あったよ」


私は不安になる。


「コメント欄は何が書かれてるの?」


ネットのかきこみだの、なんだの、怖くて底が知れない。とにかく疑わしくて迷惑メールとか個人情報漏洩とか、自分でも読んでみた娘のエッセイ(確かめてないけど内容が100パーうちの事)なんて気が狂いそうになる。


「お話の下に、青い枠のハートとコメントってのがあるのよ。いいお話があったらハート押してあげて。私、あれ好きだな。自宅の駐車場に子猫が二匹いたから急いで近所のお店にちゅーる買いに走った話!」


複雑で、心臓を鷲掴みにされたようだ。


「本当に誰でも読めるのね……」


怖い。娘の書いたものが世間に晒されて怖い。

すると、同僚がパンのゴミを片付けながら。


「だーいじょうぶよ。晒したりしないから、友達の娘さんが恋愛の悩みとか猫のこととか母親との喧嘩とか……、なんか、自分の息子が書いてたらそれはそれで、……イヤネ、内容による……」


「さらしたり、って何?」


「晒し行為っ、しらないの?!」


同僚が仰天した。


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娘のカクヨムを見つけた母 明鏡止水 @miuraharuma30

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