第六巻 √ 壊れた操り人形殺人解体編①

 第六話 殺人解体の幕開け


 全ての事の発端は四年前に起きていた。俺と斑鳩の調べが正しければ神隠しの真実は五藤と元木の引き起こした『とある事件』が切っ掛けだったのだ。其れを後生大事に事務室に隠して置いてくれた事は亡くなってしまった元木に感謝しないといけないだろうな。雷雨が酷く成ってきた為、俺は旅館へと戻り、入口に置かれた灰皿の前で一服して壁に寄りかかっていた。

「あの、長澤さん」

 斑鳩が話掛けて来たが、この話し方は真実の方だろうな。俺は灰を叩いて落とす。

「どうした? 斑鳩」

「其の、マリアが長澤さんと話したがっていて……私の事を分かっているの長澤さんだけなので」

 俺は灰皿へと煙草の先端を押し当てて火を消しながら答えた。

「へぇ、驚いたな。自由にって訳にはいかないんだろうけど、ある程度はコントロール―出来るもんなのか?」

 斑鳩は俺の目を見ずに一度頷いた。其れに対して俺は一度項を掻き、返事をする。

「良いよ」

「あ、ありがとう御座います。只、私の病気の事は他の人には……」

「大丈夫、言ってないし言う予定も無い。一人感づいてる奴は居るとは思うけどな」

 未桜の事を示し、俺は着けていたBluetoothを外した。帰りに雨で濡れたおかげで壊れてしまったらしい。未桜やみぃの声も聞こえないし、此方が話し掛けても返事は無かった。未桜様印の特製Bluetoothも防水とまではいかなかった様だ。

「礼を言うべきかしら? 真実とも普通に接してくれている居る事には」

 マリアの人格に入れ替わって居た。新しい煙草を取り出し、一本口に咥えながら俺は喋る。

「別に良いさ。其れよりいい加減教えて貰うぞ。三年前のロンドンでお前と親父はどう言う関係だったんだ」

 其の問い掛けに対して暫く双眸を閉じてから意を決した様に見開く。

「八月のロジックはロンドンに舞い降りた現代のジャックザリッパーだったのよ。従一郎さんは其れを捕まえる為にロンドンに来ていた。不敵な道化の仮面を着けて犯行を行っていた八月のロジックの対象は旅行に来ていた私達のママへと向けられ殺された」

 ジャックザリッパー……現代に訪れた切り裂き魔が八月のロジックだった訳だ。俺は咥えていた煙草に火を灯す。

「ママは生まれつき二重人格者だった私達を愛してくれた、只一人の家族だったわ。直ぐに私が表に出て八月のロジックの正体を暴こうとした、まあ之は露天で話た事だけど八月のロジックはママを殺害した際に目の前に居た私達を殺さず生かし、之からのショータイムを楽しむ様に伝えて消えた。そして八月のロジックについて調べて行く内に知り合ったのが、そう貴方のお父さん、従一郎さんだったわね」

 こいつ、当時は中学生だったろうに、どんな脳みそしてたんだ。普通なら八月のロジックを追って事件を調べ出すなんて発想すら浮かばないだろう。更に斑鳩が口を開く。

「調べは順調だった、私の洞察力を従一郎さんは買ってくれていたわ。只……其のせいで八月のロジックの目に止まった私は狙われ、やはり生かして置くべきでは無いと判断された私は殺されそうになった。其の時、従一郎さんは私を庇って……殺された」

「なっ!?」

 俺はすぐさま斑鳩の胸倉を右手で掴んだ。

「じゃあ、じゃあなにか、お前が親父に手を貸して、挙句狙われたのにも関わらず親父が盾に成って殺されたってのか!」

「そうよ。つまり私達が貴方のお父さんを殺した様なものなの」

 冷静に言う。俺は胸倉から手を放し、行き場の無い怒りを壁へ向けて放つ。

「俺の……母さんや姉さんは、其の事を知ってんのか」

「いいえ。知らされては居ないわ。之だけは信じてほしいのだけど、お葬式へ行った際に私は少なくとも本心で涙を流し後悔したわ…本当の事を言えなかったのは当時の私の弱さよ」

 之で親父と斑鳩の接点は良く理解出来た。そして死の真実も。之だから探偵ってのは嫌いなんだよ。直ぐに殺害のターゲットにされる、生かして置くべきでは無いと犯罪を犯して居る者達からしたら思われる訳で……。

「親父の事は尊敬して居た。mother・brainに入って活躍してる親父は俺から見たら正義のヒーローだったんだ。国家機密機関なんてかっこいいしな、だけど死んじまったら……全部終わりだ。悪い、感傷に浸る柄じゃ無いんだが、ちょっと困惑した」

 そんな俺の肩へと片手を置く斑鳩。

「分かって。憎むべきは八月のロジックと其の背後にある殺人カルト教団なのよ」

 そんな事は言われるまでも無く理解している。只思考が一瞬だけ停止した気がする。俺も未だガキって事か。そんな話をしていると階段の方からみぃと未桜の話声が聞こえてきて、俺は煙草の火を消した。

「この話は一旦預けとく。今は其の八月のロジックの操り人形を暴くのが先決だ」

「……ありがとう。分かったわ」

 少し間を置いてみぃと未桜の姿が見えると二人は此方へと走ってやって来た。斑鳩は若干距離を開けて立ち、俺は未桜へと壊れたBluetoothを返す。

「あちゃ~やっぱり防水加工も必要だったみたいだね~……其れで事件の事を訊きたいんだけど?」

 未桜は斑鳩へと視線を投げ、関係の無い人には席を外してもらいたいと言う意志を見せるが俺は其れを「こいつにも聴いてもらいたい事だ」っと促し、未桜を納得させた。誰も居ない事務室へと四人で訪れ、俺は未桜に形式的な事情聴取した話をもう一度訊きたいと伝える。

「ダニィッ!? そんな形式的に取った聴取に録音なんて……してあるんだな~之が。後ね伝えたい事があったんだよね、五藤エンターテイメントなんて聞いた事無いな~っと思って片村さんにちょっと探り入れたんだけど、元々は『五藤医療財団』ってのが本体だったって話してくれたよ」

 やっぱりか。そうじゃないと俺の推理が崩れるかも知れなかったから安心した。


     ―――    ヒ ン ト タ イ ム    ―――


「先ずは岩井さんだよ~」

「ヒヒヒっ!俺に事情聴取とはね、しかもこんな子供相手に」

「子供だからって甘くみない方が良いよ~鍛えてるからね♪」

「ヒヒ、で何を聴かれるんだ?」

「ア・リ・バ・イ・でしょ~♪ 正直に答えないと粛清しちゃうからね?」

「ヒヒヒ、何でも答えてやるぜ、ヒヒ」

「じゃあ、職業、アリバイ、短所と長所、其れと自慢出来る事、五藤さんとの接点。これ等について教えてもらっちゃおうかな~」

「ヒヒヒっ、職業はハンターだ、生活保護受給者として生活するのも苦労するからな、ヒヒ。其れにアリバイは無いぞ。順番は変わるけどな、五藤のボンボンとの接点は無いぞ。っと言っても知ってるとは言えるなヒヒヒ。あいつは今じゃ五藤エンターテイメントなんて言ってるが、五藤は他にも医療関係にも関わってる筈だ、ヒヒ。生活保護者は無料で掛かれる病院が多くは無いんだヒヒ、五藤はそんな生活保護受給者でも掛かれる病院も建ててたと記憶はしてんだがな、ヒヒヒ。短所は気が長い所だ、長所は狙ったイノシシは必ず仕留めるこのエイム力だ。此処まで話せば分かると思うが、俺の自慢できる所は猟銃の扱いだ、ヒヒッ!」

「ふむふむ~ナルヘソ~ありがとうおじさん♪」


「次は川北さんだよ~」


「え、事情聴取? はあ。私の職業は内科医師です。元々は麻酔専門医だったのですが、内科医師まで……アリバイと言われても、私は部屋にずっと居たので何とも言えないです。短所はテーブルマナーに五月蠅い所ですね。長所は逆にテーブルマナーには詳しいです。自慢出来る事はアーチェリーの腕です、最長で七十メートル先の的を正確に射れます。五藤さんとの接点に置いては今回初めてお会いしましたし、名前も聞きませんね」


「次に二条さんね~」


「はっ! そんな事を訊くのか刑事っつーのは。俺の職業はオカルト雑誌の記者だ、主にカルト集団の噂だの都市伝説だの調べてるぜ、アリバイはねぇよ。短所ねえ、俺にはねえだろ。長所は細かい所にも気づく点だ。自慢出来る事っつたらカメラ以外に有り得えんだろうが。五藤との接点はねえよ、あいつはオカルトとは無関係なんだろうよ、待てよ……五藤ねえ、なんかちょっとした噂だが神隠しに関わていたって噂は耳にした事はあるがな、はっ、どうせ眉唾もんだろ」


「次は片村さん~」


「子供なのに立派ですね……私の職業は秘書です、五藤様には無職で路頭に迷っていた所を拾って頂き御側にまで置かせて頂いて。アリバイはどうなんでしょう、ずっと五藤様を探し回っては色々な方の部屋を訪れたので、覚えていてもらえたら其れがアリバイになるのかも知れません。短所はドジな所ですね、長所は物覚えの良さです。自慢出来るとしたらチェスの腕前ですが……五藤様との接点はお話しなくても分かりますよね」

「うんうん~でもさ、いつ五藤さんに拾われたのか教えて貰っても~?」

「ええ。五年前です」


「次に参りますは~元木さん~」


「はい、そうですか、聴取ですね。職業は見ての通りこの旅館の亭主を務めております」

「でもさ~なんで今回は一人で皆の世話しようとしてんの~? 人手がいるでしょ~」

「ああ、いえ。この旅館は私一人で切り盛りしていますので。アリバイはこの事務室に籠っていたのでなんとも。短所となりますと些か意外と思われると思いますが、沸点が低い所で御座います。長所とはまた……特に御座いません。自慢出来る事は時間管理に御座います。五藤様との接点ですか……いえ、今回初めてお会いした方かと存じますが」


     ―――    ヒ ン ト タ イ ム 終 了   ―――


 俺は煙草を吸って、訊いて居た。斑鳩の聴取はこの際無くても構わない、だけどやはり『二人』嘘をついて居た事が明確になった。一人は元木だ、五藤との接点はしっかりと在ったんだ。俺は煙草を吸いながら立ち上がり、雨が叩く音と一緒に首の骨も鳴らす。

「俺達は元から神隠しなんて信じてはいなかった。だけど……元木さんのこの告白文を読んで、そう言う事だったのかと把握は出来た。確かに一見すると神隠しだもんな」

 みぃは頭に両手の人差し指を当てて首を傾げる。

「その告白文ってなにが書かれてんのさ? 皆で納得しててなんかズルいぞ!」

「すぐに明らかに成るわ。どうするの、之から全員集めるのかしら?」

 俺は考えを纏め、斑鳩、未桜、みぃへと視線を流して言う。

「始めよう、八月のロジックの描いた殺人劇に幕を下ろすんだ」


 こうして雷鳴轟く隔離島を舞台にした殺人劇に幕を下ろす為、岩井、川北、二条、片村、未桜、伯、斑鳩、みぃ、そして俺達は大広間へと揃った。薄暗い室内に明かりは無い、分厚い黒雲が空を覆う中、先ず二条が声を出す。

「おいおい、犯人が分かったって聴いたぜ? 誰が犯人を割り出したんだよ、やっぱ刑事さんかよ」

 未桜を不敵な笑みを浮かべて答えてやる。

「残念~うちじゃないんだな~♪」

 俺と斑鳩が席を立ち、全員の顔色が伺える位置へと移動をすると一同が騒めいた。一つ、落雷が起きてみぃが悲鳴を挙げると斑鳩はマリアで居られる内に勝負を着けたいと言った面持ちで俺を横目で見やる。

「犯人がこの中に居るって事は変わらない。今、白日にしてやるよ……」

 俺は片手を甚平のポケットへと仕舞、言葉を紡いだ。


「 ―― 之 よ り 殺 人 解 体 を 開 始 す る !」


第六巻 完 第七巻へ続く。

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