他星の王子さま

千織

謎の飛行物体があらわれた

朝、5時。

あまりにポチが吠えるので、太郎は目を覚ました。

パジャマにサンダルで裏庭に出る。

外はようやく明るくなってきたところだ。



ポチのそばに行き、よしよしとなでると、ポチは少し落ち着いて、吠えるのをやめ、きゅうん……と鳴いた。

太郎はポチが見ている方向を見た。



太郎の家は隣家が遠くて、田畑の中にポツンとある。

裏庭からは見渡す限り田畑があって、さらにその向こうに青々とした山がある。

その山の上に、楕円形の黒い点があった。



鳥?にしてはでかいし、丸い。

飛行機?にしては、動かずずっとそこにいる。



気にはなる。

しばらく見ていると空が明るくなってきて、より鮮明に黒い点が見えた。

でも、何の変化もなかった。

このままずっと見ているわけにいかないので、家に戻り、そのまま中学校に行く準備を始めた。

そうしてる間に、黒い点はなくなっていた。




翌日の朝、またポチが吠えた。

急いで起きて、裏庭に出た。

紐で繋がれたポチは、不安そうにグルグルしている。

頭をなでると、また、きゅうんと鳴いた。



田畑の間に一本だけ木が残っているのだが、その上に昨日の黒い点であろう飛行物体が近づいて来ていた。

勇気を出して自転車で近づくことにした。



飛行物体の真下に入った。

黒い点の形は、河原の石ころのようになめらかで角がなく、底は平らで、上は緩やかなドーム状だった。

大きさは、昔乗った遊覧船くらい。

なんとなく、ショッピングモールの3階くらいの高さに漂っていた。

均等に真っ黒で、まるで暗い空にぽっかり穴が空いているように見える。



太郎はしばらく眺めていたが、どうしたらいいか分からなかった。

警察……に通報?

して、どうするんだろうか。

説明して、来てくれるんだろうか。

来たとして、何をするんだろうか。

来るまでにいなくなってたら、俺は頭がおかしい奴だと思われてしまう。 



色々考えたが、とりあえず親に見てもらおうと家に引き返した。

両親を起こしたが、その時にはもう飛行物体はいなくなっていた。



登校する前に新聞やニュースを見たが、あの飛行物体についての記事はなかった。

そりゃそうだ、現場には俺しかいないのだから。


学校に着いてから友達に話しても、寝ぼけてるんじゃない?と言われた。

あんなリアルなことが夢で、現実と区別がつかないなら、俺はもう病気ってことになる。




さらに次の日、ポチの吠える声で目を覚ました。

今までと比べものにならない吠え方で、両親もすぐに裏庭に駆けつけた。



ついにあの飛行物体は裏庭に来ていた。



両親は驚いた様子で飛行物体を見上げていた。


底に小さな切れ目が入り、光が漏れた。

切れ目は徐々に正方形になり、そこから人間(?)の、長靴をはいたような足が出てきた。

一人の、銀色のマントに身を包んだ男がスーッと降りてくる。

見た目は本当に人間と同じで、髪はオールバックだった。



『おはようございます。私は地球から遥か彼方の別の星から来た……あなた方からしたら宇宙人です。突然の訪問の無礼をお許しください』


彼は流暢に話した。



「な、何のご用ですか?」


父が戸惑いながら言った。



『私たちの星で酷い戦争が起こりました。そこで王族の血を引く者を、地球に避難させることにしました。ようやく戦争が終わりましたので、王子を迎えに来たのです。誠に勝手ながら、今日、連れて帰りたいと思います』



母は、え!っと声をあげ、父と母は顔を見合わせた。

そして二人はこちらを見た。



「ま、まさか、父さんと母さんは本当の親じゃないの……?」


太郎は恐る恐る訊いた。



「……ごめんね……大人になったら言おうと思っていたんだけど……。十三年前、この裏庭にあなたは突然現れたの。私たちには子どもがいなかったから、そのまま引き取ることにしたのよ……」


母が言った。



「もちろん、血が繋がっていないとはいえ、太郎は間違いなく俺たちの可愛い子だよ」


父がはそう言って、宇宙人に向き直った。



「あんたらの事情もわからんではないが、太郎をここまで育てたのは俺たちだ。大切な家族なんだ。どうか連れていかないでくれ」


『そう言われてもこちらも困ります。他の王子は死んでしまい、もう王子は彼しかいません。あなた方を痛い目に遭わせてでも連れていきます』


宇宙人はマントの下から、銃のようなものを取り出して、両親に向けた。



「ま、待ってください! わかりました! 行きます!」


太郎は叫んだ。

両親は困惑の目で太郎を見た。



「相手は宇宙人なんだ。もう、諦めよう。俺は、父さんと母さんにケガをしてほしくないよ……。今まで大切に育ててくれて、ありがとう。急な別れで辛いけど……。どうか、いつまでも……お元気で……」



母は、うっ……と言って泣き始めた。

父は、太郎……と小さく呟いてこちらに手を伸ばしたが、別れが長引いたら決心が揺らぎそうだったので、太郎はすぐに宇宙人に向かって歩き出した。



太郎は宇宙人の目の前に立った。

種族が同じせいか、どことなく自分と似ているような気がする。



「大人しくついていくので、父さんと、母さんには手を出さないでください」


『はい、ご協力ありがとうございます。私たちも、恩のある地球人に手荒な真似はしたくないので』



そう言って、宇宙人は銃をしまった。

そして、ポチに近づいて紐を切り、抱きかかえた。



『今まで王子の面倒をみてくださり、本当にありがとうございました。王子の地球での名前は、タローと言うのですね? 素敵な名前です。星に帰ってからも、タロー様と呼ばせていただきます』


そう言って、宇宙人とタローは宇宙船に乗り込み、去って行った。

タローは最後、きゅうん、と鳴いた。




俺は、はからずも出生の秘密を知ってしまったが、傷ついたりはしなかった。

両親の愛情は本物だと思うからだ。

母の日と父の日には今まで以上に親孝行した。


タローはちゃんと王子をやれているだろうか。

可愛がってたつもりだったが、もっと遊んでやればよかった。



そう思っていたとき、裏庭に子犬が捨てられていた。

こいつも他の星の王子なんだろうか。

色々考えてしまったが、俺が世話をすることにした。



血は繋がっていなくても、種族が違っても家族は家族だ。

また急に宇宙船が来てもいいように、毎日仲良くしようと思った。

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他星の王子さま 千織 @katokaikou

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