第8話 偉いさんの話は勝手に進む

 爆音を鳴らして山を爆走する三人乗りライダー。


 途中、とっとこ走っている馬車を抜かした時、乗っている人間の顔をチラッと見ると、物凄く驚いた顔をしていた。


 ついつい笑っちまったよ。


 そりゃバイクなんて知らなかったらそんな顔にもなるわな。


 文明レベルを超えた乗り物で爆走してしまっているが、知らん。悪いのは魔王(笑)だ。あいつが持って来たんだから、あいつの罪が重なるだけってな。


「すごい、すごいー!」


 ほら。こうやって王女様が無邪気に喜んでいるんだ。それだけでも乗って良かったと思える。


「──うっ……。ぷっ……。やばい……です」


 後ろのステラは酔ってしまったようだ。頼むからゲロインにだけはならないでくれよ。


「そういえばラグナ様。あたしの城になにかご用なのですか?」


 運転中、王女がそんな問いをかけてくる。


「ああ。ちょっと魔王倒しに行くから、王様に船を貸して欲しいってお願いするんだよ」


「それは心強いです。ぜひともあたしからもお願いさせてもらいますね」


「助かるよ」


 今度はこちらから質問をしてみる。


「ヴィーナ王女はどうしてこんな山道を走っていたんだ?」


「ええ。アストロ村へ物資を運ぶ途中でした」


「王女自ら?」


「はい。アストロ村からは多くの兵を派遣してもらっていますので」


 なるほどな。強制的に魔王討伐の兵として借り出している分、王女自らフォローに出向いていたところを襲われたか。


 それにしても王女を乗せているにしては守りが薄い気がするが、それも魔王に人を取られているからかもな。


 魔王。やっぱり許せないわ。


「飛ばすぞ」


「え、ちょ、待っ」


「はい☆」


 途中、ステラの声が聞こえた気がしたが、気にせずにかっ飛ばした。


 徒歩三日はかかると言われた道を、たった数時間で城下町にご到着。


 城下町の門の前には、こんな世の中だからか門番が立っていた。


「そこの怪しいの。止まれ」


 多分そんなことを言ったんだろうなと思う。でも、エンジン音が激しいからなにを言っているのかわからなかった。


「ちょ、え、とま、とまれえええ!」


 キィィィとドリフトみたいにブレーキをかけて、門番の前で止まってやった。


「ひゃわっ!」


 門番は可愛らしく尻餅をついてしまった。


「すっごーい☆」


 王女様はご満悦。


「──限界、ですぅ……」


 ステラは逝ってしまわれた。ゲロインたけは死守したみたいで助かったよ。


「……ッ」


 門番はご立腹の様子で立ち上がると、俺を睨みつけてくる。


「怪しい奴め。すぐに牢に入りたいか」


「いやー。すんません。久しぶりの運転だったからテンション上がっちゃって」


 こっちがなにを言っているかわからないと言った様子で、イライラしているみたいだ。


「なにを訳をわからないことを。来いっ。牢にぶち込んでやる」


 先程可愛らしく尻餅をついた門番とは思えない態度だな。


「口を慎みなさい」


 王女がこちらの会話に割って入ると、門番は更にイライラした態度を見せた。


「なに? そんな態度を取って良いのか? 一生牢から出られなくしてやるぞ」


「そちらこそ、あたしにそんな態度を取って良いのかしら?」


「──!? あ、なたは……。ヴィーナ王女。ど、どうして……」


 門番は態度を一八〇°変えて、ひざまづいた。


「この方達はあたしを救ってくれた恩人です。その態度は許されたものではありませんよ」


「も、申し訳ございません。そんなこととはつゆ知らず無礼な態度を取ってしまい」


 すげー。本当に王族なんだな。さっきまで泣きじゃくったり、はしゃいでいたりしていた王女様とは大違いだ。


「良いでしょう。今回は不問とします。次はありませんからね」


「はっ。ありがたき幸せ」


 そんなやり取りを終えると、ヴィーナ王女がベッと舌を出す。


「あまりこういうのは得意ではありませんが、ラグナ様が牢に入られては困りますので」


「ありがと」


 彼女に礼を言ったあと、ステラの方へと視線をやる。


「おーい、ステラ。大丈夫?」


「う……だめかも……」


「なんか、ごめんね」







 城にある謁見の間は圧巻の光景である。


 高い天井。むき出しの支柱。隊列を成す兵士の奥に玉座があり、そこに座るのは威厳のある王様。サンタクロースみたいな立派な髭を携えている。


 ヴィーナ王女が同行していたから簡単にここまで来ることができた。おそらく、王様に謁見するなんて時間がかかることなのだろう。そこは王女と一緒でラッキーだったと言えるな。


「お父様。今、帰りました」


 王女の言葉の後に、すっかり体調が戻ったステラが膝をついて頭を下げる。


 太古の昔の地球もこんな王族に対してはこんな感じだったのだろう。現代でいえば王族は総理大臣か。それにしたって総理大臣に膝をつくなんてことはしないもんな。コンプラてきにアウトだし。


 しかし、郷に入っては郷に従え。ここではこれが礼儀らしいから、ステラを見様見真似で膝をついておく。


「うぬ。して、その者達は?」


「はい。道中、エトワールの兵に襲われているところを助けていただいた恩人です」


「なんと!? ……この大陸までエトワールの手が届いているのか。して、じぃはどうした?」


「じぃは……」


 ヴィーナ王女の反応で察した王様は、無念な顔を見せる。


「惜しい人材を亡くしてしまったな」


 ヴィーナ王女がまた泣きそうになっているところを、王様が切り替えるように俺達に言ってくれる。


「ヴィーナを救いし英雄達よ。顔をあげてくれ」


 王様から許可を得たところで顔をあげ、立ち上がる。


「此度の素晴らしい功績を讃え、褒美を授けよう。──と、言いたいところだが、このご時世だ。大したものはやれないのを許してくれ」


「王様。でしたら、わたし達に船を貸していただけませんか?」


 ステラが自分の胸に手を置いて発言する。


「船?」


「はい。実はこちらにおわすラグナ様は、この世界を救いし勇者様なのです!」


 ドヤッ!


 ちょっとステラさん。謁見の間の緊迫した雰囲気の中で、よくもまぁそんな中二病発言ができますね。まぁ彼女からすれば真剣なんだろうが。


「勇者?」


 王様は疑うようにこちらをまじまじと見てくる。


 やめてくれ。おっさんに見られる趣味はないんだ。


「お父様。ラグナ様の強さは本物です。エトワール兵を簡単に退けたのですから。ラグナ様は魔王討伐を果たしてくれるでしょう」


 宣言通りにヴィーナ王女がフォローしてくれる。


「ふむ……。確かに、異国の服を纏っており、この世界の住民とは違う雰囲気を放ってはおるが……」


 悩みながらぶつぶつと呟いている。


 流石は王国のトップに立つだけあって慎重な性格らしい。


「あい、わかった。ラグナと言ったな。お主の実力を試させてくれんか?」


「実力を試す?」


「うぬ。ヴィーナを救ってくれた恩人を魔王討伐でみすみす亡くしてしまうわけにはいかない。そこで実力を示して欲しい」


 兵士長!


 王の呼びかけで、ひとりの兵士が王の前にやってくる。


「お呼びでしょうか」


「勇者ラグナと手合わせをしてやれ」


「御意」


 おいおい。なんか勝手に話が進んでしまってるぞ。

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背景、異世界俺TUEEE無双をしているあなた様へ。しばき回すから大人しく待っとけや すずと @suzuto777

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