第7話 馬車がないならバイクで行けば良いじゃない

 いきなり甲冑野郎三人に襲われてしまったが、弱すぎて話にならん。


 身の丈に合っていない武器は逆効果ってことを目の当たりにした。


 そもそも、自動翻訳機能付通信機があるんだから俺とコミュニケーションが取れるんだ。いきなり戦闘を仕掛けなくても良いだろうに。


 あいつらは人を殺すのをどう思っているか知らんが、俺は人殺しなんて趣味じゃねぇんだよ。


「……一瞬だったみたいだな。安らかに眠ってくれ」


 甲冑野郎共にやられてしまった男性へ手を合わせる。馬にも手を合わせておく。


「なぁステラ。あの甲冑を着た奴等ってエトワール城の奴等か?」


「おそらく、エトワール城の騎士だと思われます」


 やはりか。


「エトワール城の騎士がなんの用ってのは聞く前に殺してしまったからな。ま、大方、この馬車の荷台が目的なんだろうが」


 残された馬車の中を開けてみる。


「あ、あ……」


 そこには美少女がいた。長いキャラメルブロンドの髪をした美少女は、俺とステラを見て怯えた様子でこちらを見ている。


「大丈夫だ。もう悪い奴はいない」


「じ、じ、じ……」


 襲われていた時に声を殺していたのだろう。彼女の瞳からは涙が流れそうで流れない。


「よしよし。大丈夫だ。大丈夫。安心しろ。もう助かったからな」


 優しく声をかけてやり、美少女の頭を撫でてやる。これで少しは落ち着いてくれれば良いが。


「王女様?」


 ステラも馬車の荷台にやってくると、美少女を見て声を上げた。


「王女?」


「はい。ユニバス城の王女様である、ヴィーナ王女です」


 なるほど。奴等の狙いは王女様ってわけか。


「あた、あたしの、あたしのせいで、じぃ、が……。じぃが……」


 うあああ! と俺の胸で子供みたいに無邪気に泣き出してしまう。


 俺は、よしよしと頭を撫でながら彼女が落ち着くまで胸を貸してやった。




 ♢




「──ひっく、えっぐ、お、騒がし、ました……」


 手で涙を拭きながらも王女としての威厳を放とうとする。その心意気は王族そのものだ。


 彼女の意思を尊重し、嗚咽を吐きながらの説明を聞くことにする。


「と、つぜん、襲われて、王女を出せと言われ、じぃが……。あたしの執事が殺されて……」


 なるほど。あいつらの目的は王女だったか。


 しかし、どうして王女が目的だったのか。甲冑野郎共の独断か、それとも魔王より命を受けたか。今となっては死人に口なし。


「もう大丈夫ですよ」


 ステラが王女を優しく包み込む。


 俺が頭を撫でてやった時よりも安心している顔をしているのは、ステラの方が包容力があるからだろうか。


「俺達はユニバス城に向かうところだったんだ。王女さんも城に帰ろう」


 どこかに向かう途中か、帰る途中か。それはわからんが、この状況なら彼女と一緒に城へ送った方が良いだろう。


「そうですね。そうすべきです」


「い、良いのですか?」


「もちろんですよ。王女様をこんなところで置いて行くなんてできるはずもありません。ましてや、わたし達はユニバス城に行くのですから。三人仲良く歩いて行きましょう」


「ありがとう、ございます」


 そんな会話に割って入る。


「ステラ。歩いて行くのはやめよう」


「馬車を使うのですか? しかし、馬は……」


「ちげーよ」


 俺は甲冑野郎共が乗って来たであろうオフロードバイクのエンジンをかけた。


 ブロオオオと元気良く魂が唸るようにエンジン音が森の中に響き渡る。


「こいつで行くんだ」


「ラグナ様。それはなんなのですか?」


「バイクって言う……まぁ馬みたいなもんだ」


「これが馬……?」


 キョトンとされちゃった。そりゃどう見ても馬じゃねぇからそんな顔にもなるわな。


「ま、細かいこたぁ良いじゃねぇか。これに乗れば城まであっという間だぜ」


 そう言いながらステラとヴィーナ王女をバイクに乗せる。


 ヴィーナ王女が前。真ん中に俺。後ろにステラの乗り方。


 バイクの二人乗りは普通自動二輪免許取得後、一年を過ぎないとしてはいけません。ましてや、三人乗りなんてダメ。絶対にこんな乗り方しちゃいけません。本当に。まじで。危ないので。


「よぉし、しっかり捕まってろよー」


「こ、こうですか?」


 後ろからステラの温もりを感じつつ、前から王女の良い香りに包まれながら、テンションが上がってアクセル全開!


 ボフッ!


 ボンボンボン──。


「「「……」」」


 エンストしちゃった。


「待て待て待て。ふたりとも。仕切り直し。ミッションバイク乗るの久しぶりだから。久しぶりだとこうなるから」


「はぁ」


「そうですか」


 呆れている。初めての乗り物のはずなのに、この女子ふたりは本能でエンストがだせぇことを知ってやがる。


「今度こそ、行くぞ」


 次は慎重に半クラッチで進んだ後、アクセル全開!


「ひゃっふぅぅ!!」


「きゃああ! すごーい!」


「ひゃああ! はやいですー!」


 はしゃいだ三人の声が森に響き渡った。

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