何と俺が異世界転移!? いえいえ異星界転移です

武 頼庵(藤谷 K介)

これも一つの世界なわけで



 俺は今、隣の席に座る美少女にジッと見つめられながら質問を受けている。


「ねぇ?」

「ん?」

「まだ……気が付かないの?」

「は? 何のことだ?」

 はぁっとため息をつきながら、その美少女は額を抑えながら目を閉じる。


 俺の隣の席は外野宇宙ほかのそらという、学校一の美少女だ。染めているのかどうかわからないけど、少し紫かかった長い髪を持ち、色白で卵型の顔。そして瞳の色も黒というよりも黒紫色をしているので、見つめられると吸い込まれそうな感覚に陥る。


 声を掛けられている俺と言えば、一般高校生と言っていい程、学校の成績も運動神経も平凡な域を出ない、連佐怜太つれされいたという名の男子だ。


「連佐君って割と……鈍いのね……」

「そうでもないと思うけど……」

 外野さんが言っている意味は何となく分かる。


このクラス――高校2年生になった時にクラス替えに有ったのだけど――にいる人達は、なんというか割と人たちが多い。


 それが勉強の事にしても、クラス人数が30人前後しかいないというのに、半分くらいが学年でベスト30に入っているし、運動の面にしても全国大会へと進む様なスポーツマンが数人いる。


 他の人達もモデルみたいな美人さんやイケメンさん、演技が上手い俳優の卵産など、自分以外の人達は何というか……並外れた能力の持ち主が多い。


 そんな中で俺という存在は影が薄いかと言われると、なんとそういうわけではなく、今も外野さんから声を掛けられているし、外野さんだけではなく明らかに陽キャと分類されるような人たちからも、普通に声を掛けられるし、何なら一緒に遊びに行ったりもしている。


――え? 俺って陰でいじめられてるの?

「え? 俺って陰でいじめられてるの?」


「はぁ……なんでそうなるのよ。誰も連佐君をいじめたりしてないでしょう?」

「あれ? 何で考えてる事が分るの!? もしかしてエスパー!?」

「っ!? い、いやね、ななな何を言っているのよ。声に出てるのよ声に!!」

「しまった!! 声に出てたのか!?」

 はぁっと大きなため息をつき呆れた顔を俺に向け、そのまま俺の顔をジッと見つめる。


「でも……そろそろ――なのよねぇ……」

「え? なに? どうしたの外野さん」

「ううん……何でもないよ」

 もう一度はぁっと大きなため息をついて、俺から顔を背け正面を向いてしまった。


――? なんだろう?

 外野さんが何を言いたいのか分からないまま、その話はそこで終わってしまった。

 


 何が言いたいのか聞き返すこともできないままその日が終わり、俺は自分の住んでいる学校の寮へと帰る。


 家から通う学校が遠すぎる為と、一人暮らしにも慣れる為に寮へと入ったのだけど、学校生活も2年目になれば慣れてくるもので、食事に関しては休日だけは自炊しなければならないけど、掃除洗濯はもちろんできる限りの事は大概自分でできるようになった。


「ふぅ……今日も終わったな……」

 食事の時間になる前に復習をすませ、休憩がてら椅子に背を預けて天井を見つめる。


――それにしても、俺ってどうしてこの学校を選んだんだっけ……? あれ? そういえば父さんや母さんに勧められて……? あれ?

 

 俺の記憶では、父さんや母さんに勧められて、自分に合っている学校へと進学することにしたのだけど、考えれば考えるほど、どうしてその意見のままこの学校を選択したのかが分からなくなってきた。


――俺って……この学校受験したっけ……? ……っ!? 痛った!! 頭が……いた……い……。




「――ちょっと!! ――てる?」

「だい――か? 係の人呼ぶか?」

「ううん。それよりも――管さんを連れて――」


――なんだ? 俺の周りから声が……。

 体を起こそうとすると、何かの力でその体を押し戻される。仕方が無いので押さえつけられているものの正体を掴もうと、出来る限り手を伸ばいして辺りを探った。


 むにゅ

 もむもむ


「きゃぁ!!」

「え?」

 柔らかい感触が手に伝わり、その瞬間に悲鳴が聞こえた。まだぼやけている目をシパシパと瞬き、声の下方へと視線を向けると、そこには俺の顔を真っ赤な顔をしながら覗き込む外野さんの顔が有った。


「起きてるの!? もしかしてわざと?」

「はぇ? わざ……ととは?」

「手……」

「手?」

「連佐君の手よ!! 今もんだでしょ!?」

「もんだ? 俺の手が? 何……を?」

 ハッとして俺の手がどこに伸びているのかを確認する。俺の目の前には外野さんの顔があって、俺の頭は何か柔らかいモノに載せられている。そして俺の手は外野さんの後ろに回される形になっていて――。


「きゃぁぁぁぁ!!」

 できる限り何も触らない様にがばっと跳ね起きた。先ほどの感触が何だったのかを手をにぎにぎとして確かめる。


「きゃぁって……。それは私のセリフじゃない?」

「え? あ、ご、ごめん!!」

「もう!! でもいいわよ。許してあげる」

「ご、ごめんね。で、でもどうして外野さんが俺の部屋に?」

 俺はようやく自分の置かれている状況を認識した。いつの間にか俺は部屋の中で倒れていたようで、何故か俺の部屋に来た外野さんによって介抱され膝枕してもらっていたらしい。そして外野さんが呼んでくれたのであろう寮の人達が俺の部屋に何人かいた。


「連佐君に話があって訪ねてきたのよ。何回かノックしたんだけど返事がないし、どうしようかなと思ってドアノブを回したら開いていたの。それで本当はダメなんだけど、部屋の中を覗いていない様ならすぐに出ていこうと思ったんだけど、椅子が倒れてて連佐君もそのそばに倒れていたから、周囲の人を呼んであなたを解放しようとして……」

「そ、そうか。本当にありがとう」

「大丈夫なの?」

「うん。ちょっと考え事してたら頭が痛くなって……」

「考え事?」

「あぁ、大したことじゃないんだけど昔の事をね。でも今は痛くないから平気」

「昔の……事……」

 その後、管理人さんも来て一緒に救護室へと向かい、一応簡易な検査をされたけど、倒れたときにぶつけた所にコブが出来ているくらいで、特に異常があったわけでは無いのですぐに部屋へと戻る事が出来た。


 その検査をしている間、ずっと外野さんが一緒に居てくれた。俺に話があるので検査が終わるのを待っていてくれたらしい。


 外野さんと一緒に部屋へと戻り、小さな冷蔵庫から飲み物を二人分取り出して、)片方を外野さんへ渡し、外野さんをベッドへと座ってもらうと、俺は床の上に腰を下ろした。


「で、話ってなに?」

「え? ちょ、直球で聞くのね!?」

「まぁ、気になるし。待っててもらったから悪いなと思ってさ」

「……」

 外野さんは飲み物に視線を向けたまま黙り込んだ。


 

「連佐君は……」

 暫く経った後にぼそりと外野さんが話を切り出す。


「ん?」

「連佐君は……学校を卒業したらどうしたい?」

「え? そりゃぁ今はまだあまり考えて無いけど……進学するんじゃないかな?」

「そう……。お家に……帰りたいとか思ったりする?」

 俺の顔をじっと見つめる外野さん。


「うぅ~ん……。どうだろう? でも進学する前には一度帰りたいなとは思ってるよ。父さんと母さんにも会いたしい」

「そっか……そうよね。でも……」

「でも?」

「たぶんもう会えないと思わよ?」

「は? それってどういう意味?」

 外野さんは少しだけ顔を俯かせ、小さな震える声で俺の問いかけに答えた。



「だって……あなたの生まれた星はここじゃないもの」

「は? え? 星?」

 突拍子もない単語が外野さんから発せられて混乱するとともに、からかわれていると思いが湧いてきて少しムッとする。


「何を言ってるんだよ。星って……。いくら何でもそれは無いでしょ。ここって実家からもそんなに離れて――」

「ううん。本当の事よ。貴方はこの星の人じゃ無い。その証拠にあなたの家ってどこにあるか覚えてる?」

「もちろん覚えて――」

 外野さんから聞かされて、もちろん覚えていると言いかけた俺だったけど、記憶の中にある俺の実家を思い出そうとすると、何故か靄がかかったように思い出せない。


「お家だけじゃないわ。連佐君のご両親のお顔ちゃんと思い出せる?」

「思い出せるって……離れて2年も経ってないんだから、忘れるわけないじゃないか。もちろん覚えてる……あれ? どうして……?」

 父さんと母さんの顔、そして二人との思い出も記憶にあるはずなのに思い出す事が出来ない。


 頭を抱えた俺を何も言わずジッと見つめる外野さん。

 するとガチャリと部屋の入り口のドアが開く音がした。入ってきたのは眼鏡をかけた40代くらいの男性で、この寮の管理人さん。



「言ってしまったんだね宇宙」

「すみません……お父さん。でも……」

「はぁ仕方ないだなぁ……。そんなに連佐君の事が……」

 

「え? 外野さんの……お父さん? 管理人さんじゃ……」

 二人の会話を聞いて驚いて二人の顔を見回す。


「説明するよ」

 そういうと管理人さん――外野さんのお父さん――は俺の前に静かに座り、大きく深呼吸をして話を切り出した。





 2年と少し前、俺はこの星に連れてこられたらしい。

 正確に言うと、連れてこられたのではなく、いつの間にか宇宙船の中に存在していた様だ。外野さんのお父さんは惑星外の存在との共存が出来るかどうかの探索の為に、数年かかって星々を巡っていた時、突然宇宙船が大きく揺れた。と同時に宇宙船の中に居ないはずの部外者である俺が姿を現した。


 それに気が付いた乗組員同士で慌てたが、どこの星の生物なのか話はできるのか全く分からず、仕方なくそのまま連れてくるしかなかった。


 戻ってきたはいいが、俺の存在をどうしたらいいのか関係各所に相談。俺のDNAを解析しておおよその住んでいたであろう星を特定、俺の記憶を知るために色々な検査をして、ようやくわかった事を基に、今俺が見ている世界を作り出した。少しずつこの星に慣れてもらうために、記憶の一部を書き換えたのも、いきなり思い出して精神的なショックを和らげるための措置。仕方がなかったと外野さんのお父さんが頭を下げる。


 しかし、俺の存在によって外来の生物との共存が出来るか実験が出来ると判断され、一緒に生活する試験運用が開始される運びとなり、その管理責任者となったのが外野さんのお父さんだった。


 俺こそが、この星では宇宙人であり、俺的には俺以外の人たち皆が宇宙人なのだ。


「どうして俺の為にそこまで……」


「宇宙がね……。いやそれは本人に聞いてくれ」

 そう言い残すと、外野さんのお父さんは部屋から出ていった。部屋には俺と外野さんの二人だけが残される。


「あのね……」

「うん?」

 大きく深呼吸した外野さんが意を決した表情で俺を見つめる。


「連佐君は記憶に無いかもしれないけど、連佐君がこの星に来たばかりの頃、私と会った事があるの」

「そうなんだ……」

「その……ごめんなさい……」

「どうして謝るの?」

「エスパーって言ってたでしょ?」

「?」

 またも唐突な話題の切り替えに疑問符が湧く。


「連佐君言ったじゃない私に」

「なんて言ったっけ?」

「エスパーか? って」

「あぁ……言ったような気がする……」

「それ正解……なの」

「はい?」

「連佐君が過ごしやすいようにこの環境を提案したのは私。私があなたの記憶を見たのよ。だからごめんなさい」

「…………」

 外野さんは頭を下げた。


「そっか……。だから家に帰りたいのかって聞いて来たんだね?」

「うん……」

「家に帰りたいか……か。外野さん」

「なに?」

「俺って帰れるのかな?」

「……正直に言うと……難しいかもしれないわ」

「そっか……うん。そうだよね……」

「だ、大丈夫よ!!」

「大丈夫って?」

「わわわわっわ、私がずっと一緒にいるから!!」

「それってプロポーズみたいだね」

 クスッと笑うと、外野さんは顔を真っ赤にして俯いた。



「そっか……。うん。ずっと一緒にか……。じゃぁさ」

「なに?」

「外野さんの本当の名前教えてよ」

「え? い、良いけど……。私は#$&@**##よ」

「なんだって?」

「だからぁ……#$&@**##!!」

「うぅ~ん……ごめんやっぱり外野さんでいいかな?」

「もう!! なら名前で呼んで!!」


「うん。じゃぁ宇宙さん」

「宇宙でいいわよ」

「そう? そら……」

「なに?」

「まずはお友達からでいいかな?」

「え!? ちょっと!! 流れでそこはずっと一緒にっていうところでしょ!?」

「そのうちに……ね?」

 俺はそらを見つめてにこりと笑う。


「きっとよ!! ずっと待ってるからね!!」

「はいはい。きっといつか……ね」


 


 自分が生まれて育った星にいつか帰れる日が来るのかは分からない。


 帰れたとしても帰れなかったとしても、これから先、そらが俺と一緒に居てくれると思うとそれでもいいかな――なんて思ってしまう俺がいる。


 そんな風に思えるのも、今現在が楽しいからかもしれないけど。




※あとがき※

お読み頂いた皆様に感謝を!!


 個人自主企画用に急遽書いた新作短編ですがいかがだったでしょうか?

 えぇ……最初を読めば普通にジャンル違いかなと思われたかと思いますけど、異星人でてきたでしょう?(笑) この企画の『テーマ』が異星人なんですよ。(;^ω^)


 

 まぁ地球人も他の星の方にしてみれば宇宙人なわけで、これもテーマに沿っているかな……? とドキドキな部分ではありますけどね。(^▽^;)

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