拾った妖異が美少女に!? 二人で始めるスローライフな村づくり! まだ子づくりするのは早いってば!

帝国妖異対策局

第1話 プロローグ ~ マサヒト ~

 ドラン大平原。


 この地で皇帝セイジューが率いる魔族軍と人類軍との大決戦がはじまった。


 見渡す限りの平地が広がるこの広大な平原が、今や数十万の兵士たちによって埋めつくされていた。


 両軍が接する最前線では、血で血を洗う激しい戦闘が繰り広げられている。


 ラーナリア大陸史上最大の戦いが行われているなかで、一人の青年が人類軍の義勇軍部隊として修羅のごとく戦っていた。


 彼の名はマサヒト・サガミ。 


 祖父が異世界からの転移者であった彼は、祖父から受け継いだ魔法と剣技を駆使して、魔族や魔物、さらに恐ろしい妖異たちをもつぎつぎとほふっていく。


 その手に握られているのは、奇妙な形をした短槍のような武器。祖父は自らの手で作ったこの武器を「三八さんぱち」と呼んでいた。


 祖父は元いた世界で愛用していた「三八式歩兵銃」を模して、この三八を作ったのだと言っていた。マサヒトは幼少のころから、この三八の扱いを徹底的に叩き込まれた結果、いまでは体の一部のように感じている。


「ぐがぁああ!」


 巨躯の狼獣人が、巨大な斬馬刀を振りかぶって襲いかかって来たところを、懐に飛び込んだマサヒトは、下から三八に装着されたブレード銃剣で突き上げる。


 狼獣人は頭を刃で貫かれてもなお動きを止めず、そのままマサヒトにつかみかかろうとしてきた。


 狼獣人の腕が自分の身体に届く前にマサヒトは三八の引き金を引いた。


 シュバッ! 


 という音がして、それと同時に狼獣人の頭部が破裂した。


 崩れ落ちる狼獣人の身体を避けるように抜け出したマサヒトは、ちょうど目の前に現れたゴブリンに三八の銃床ストックを叩き込んで転倒させる。銃剣でゴブリンの胸を突き刺すと、そのまま三八のボルトを引いた。


 ガチャッ! シューッ!


 薬室やくしつに新たな金属矢が装填されると同時に、三八の内部に空気が流れ込む音が聞こえた。


 三八は、原型となった祖父の世界の銃とは異なり、火の精霊と水の精霊の力によって、金属の矢を射出する。


 マサヒトが契約している水の精霊も風の精霊も、それほど強い力を持っているわけではない。


 だがこの三八は、効率よく精霊の力を引き出す仕組みを持っているため、精霊武器スチームガンとしては一流の性能を発揮することができていた。


「マサヒト! 生きてる!? 返事して!」


 赤髪の少女がクレイモアを両手で振り回しながら叫んでいる。彼女は襲ってくるゴブリンたちを次々と切り伏せていた。


 ショートボブの赤い髪と、闘志に燃えるエメラルドの瞳を持つ少女の名前はサーシャ。マサヒトと同じ村の出身で、マサヒトにとっては年下の幼馴染みでもあった。


 女性らしい細い身体と手足であるにも関わらず、彼女は両手剣クレイモアを少しの疲れを感じさせることなく振り続けている。


 まるで戦場で舞っているかのように、次々と敵を屠るサーシャの鮮烈な美しさに、マサヒトは思わず目を奪われてしまった。だがマサヒトはすぐに気を取りなおすと、あわててサーシャに返事する。


「まだ生きてる!」


 サーシャがマサヒトの声に気づいて振りかえると、その隙を狙ったホブゴブリンが彼女の頭に斧を振り下ろそうとした。


 しかしそのときには、すでにホブゴブリンに狙いを定めてマサヒトが三八の引き金を引いていた。


 シュバッ! 


 という音がした次の瞬間には、ホブゴブリンの頭に大きな穴があいていた。


 崩れ落ちる敵の姿を確認したサーシャが、マサヒトに向かって手をふる。


「ありがと!」


 マサヒトが再び三八のボルトを引き上げているあいだに、サーシャが走り寄ってきた。そのままマサヒトの背後に回り込むと、サーシャは彼の背中にピタリと身体をよせる。


「どうやら義勇軍部隊アタシたち、囮にされたみたい。正規軍に見捨てられちゃったね」


 少女の言葉を受けてマサヒトがうなずく。


「どちらかというと生贄にされたんじゃないか?」


 マサヒトが顎で示した方向にサーシャが目を向けると、巨大な妖異が一列に並んでこちらに向ってくるのが見えた。


「あれが、セイジューの本隊だ」


「アタシ、あんな大きな妖異を見るのは初めてよ。できれば一生見なくて済ませたかったわ」

  

 妖異は、魔族や魔物とは違う異形であり、セイジュー皇帝が好んで用いる化け物である。人類軍の兵士たちのあいだでは、セイジュー皇帝が悪魔勇者召喚儀式で呼び出した異世界の怪物であるとも噂されていた。


 その種類や大きさはさまざまで、小さな虫のようなものから、今マサヒトたちが目にしているような巨大な妖異もいる。


 妖異が進軍し始めるのを見た人類軍の正規部隊は、マサヒト達にここで魔族軍の足止めを命じると、そのまま後方へ撤退してしまった。


 自分たち義勇軍部隊に「何としてもここを死守せよ!」と命じたモリトール子爵の顔を思い出して、マサヒトは苦々しい表情をうかべる。


「あの高慢なハゲ野郎も、モリトール隊の連中も誰もかれもがクソ野郎だったな」


「確かにね! もしまた生きてアイツらに会うことがあったら、このクレイモア両手剣をケツにぶっ刺してやるわ!」


「俺はごめんだね! 三八をあんな連中の汚い血で汚すのは嫌だ。だから全員の額を撃ち抜いてやるさ!」


「アハハ!」

「ハハハッ!」


 戦場で背中をあわせて笑い合う二人。


 彼らと一緒に義勇軍部隊に参加した同郷の仲間たちは、すべて屍となってこの戦場のどこかに転がっていた。


 それどころか義勇軍部隊の生存者は、今ではマサヒトとサーシャの二人だけになっていた。


 だが奇妙なことに、先ほどから魔族兵たちがマサヒトとサーシャを襲おうとしなくなった。まるで彼らの姿が目に入っていないかのように、魔族兵たちは二人の目の前を走り抜けていく。


 魔族兵たちの表情を観察したマサヒトは、彼らが何かを恐れて慌てふためいているように見えた。何かから必死に逃げようとしているかのように。


「マサヒト! ボーっとしないで!」

 

 サーシャの警告で我に返ったマサヒトは、城壁のようにも見える巨大妖異の隊列が、かなり近くまで迫ってきていることに気がつき焦る。


 どうやらあの妖異の壁は、マサヒトが思っていたよりもずっと早いスピードでこちらへ移動しているようだった。


(もしかして魔族兵は、あの巨大な妖異を畏れているのではないか)


 そう考えたマサヒトの推測が正しかったことはすぐに証明された。


 巨大な妖異の群れは、味方であるはずの魔族兵たちを次々と踏み潰しながら、あるいは触手で捉えて捕食しながら、前進を続けていたのだ。


 また巨大な妖異たちが近づくにつれ、マサヒトは胸に重い石が乗せられているような重圧を感じはじめていた。


 その時、ふとマサヒトは祖父の言葉を思い出す。


「妖異というのは、たとえ小さいものでも、近づく人間の精神を狂わせてしまう。魔法耐性のある者や、ワシのように異世界から来た者はそれに耐える力を持っておるが、普通の人間はそうではない。妖異に近づき過ぎると狂ってしまうんじゃ。お前はワシの血を引いているから、少しは耐えられるかもしれんが、それでも気をつけるのじゃぞ」


 今は亡き祖父の記憶を辿っていたマサヒトは、突然自分の背中が軽くなるのを感じた。マサヒトにもたれ掛かっていたサーシャが身体を離して、そのまま走り出したからだ。


「アハハハハハハッ!」

 

 乾いた笑い声をあげながら、サーシャはクレイモアを水平に振り回し、魔族軍も人類軍も、そして仲間たちもいなくなった戦場を舞っていた。


「サーシャ! 何をしている!?」


 サーシャの奇妙な行動に違和感を感じたマサヒトは、そこから時間の進みが緩慢になっていくのを感じた。


「ごめんマサヒト! わたし、先にパパとママのところへ帰るね!」


 そう言って、サーシャはマサヒトに向かって笑顔を見せると、クレイモアを自分の首に当て―


 ザシュッ!


 刃を引いたサーシャは自らの命を絶った。


「サーシャァアアアアア!」


 マサヒトの、喉が張り裂けんばかりの、肺を破裂させんばかりの絶叫が響く。


 その瞬間、戦場を巨大な光が包み込んだ


 遠くで叫ぶ誰かの声を聞いたような気がした。


 「アルティメットエターナル幼女ぉぉぉぉ!」


 そんな言葉が聞こえたような気がした。


「何が幼女だ、ふざけんな! サーシャが死んだんだぞ!」


 そう毒づきながら、マサヒトは意識を失った。




――――――――――――――――――――――――――

※ 資料

【惑星ドラヴィルダ映像館】

・物語の舞台や登場人物の画像をこちらでご覧いただけます。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861519102524/episodes/16818093076393910874


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