第16話 日常
「
地響きを立てて土と草が空中に飛んで、草原に石の壁が立ち上がった。
周りからどよめきが起きる。
おおむねイメージ通りの石の壁が出来た。高さを控えめにして横に広く、と言う感じにしてみたけど、高さは2メートルほど、横幅は15メートルほど。
ちょっとしたフェンスみたいになった
鍾離さん曰く、五行の道術は強い意思をもち、その意思を言葉に乗せて世界の五行の理に変化を命ずるもの、らしい。
弱弱しい口調の命令を聞く人がいない様に、意志の弱い道術は弱く不確かな効果しかあらわさないのだそうだ。
符の数は限られている。
ということで、術の練習の時から、どんなふうに効果を表すかというのを強くイメージしながらやっている。
「スゲェな、
「いや、大したもんですね、柳原道士」
太婀さんが口笛を吹いて拍手するかのように手を叩いてくれた。
村はずれの草原の一角は鬼蘭と太婀さん、時には羚羊の武術の稽古場らしい。土が踏み固められたスペースがあって、そこであたしも道術の練習をしている。
もう一人訓練をみているのは
30歳くらいのひょろりとした長身の人で西洋風、というか西夷の眼鏡をかけている。目が悪いらしく、こんな風に戦争になる前に手に入れたんだそうだ。
使い込まれた眼鏡とぼさぼさの長髪でなんというか学者さんというイメージがあるけど、実際のところ、この村に来るまでは私塾で講師をしていたらしい。
城隍道術という結界を貼っているのがこの人だ。毎日、日が昇るときと日が落ちるときに結界を貼る仕事らしい。
地味なポジションだけど、城隍道術で村の姿を隠し結界に内に入ったものを惑わせて外に出している。
村が見つからずにいるのはこの人のおかげだ。
ここにはいないけど、ほかにも二人の道士がいて、一人は
もう一人は
「スゴイね!こんなのみたことない!」
明るい声で褒めてくれたのは鍾離さんの孫娘の劉小花ちゃんだ。
年は15歳にもなってないだろう。綺麗な黒髪をお団子のように左右で結い上げて、草色のチャイナ服っぽい感じの衣装。なんというか人形みたいでとても可愛らしい。
まだ未熟らしいけど一応治癒術をつかえるんだそうで、万が一の怪我に備えてという感じでここで訓練を見ている。
「ありがとう」
そういうと、褒められるとちょっと調子に乗りかけてしまうけど。
手の中の符を見ながら思う。こんなことしてていいんだろうか。
確かにあのお爺さんが言う通り魔法使いにはなれた。
でもこの力をどう使うんだろう。どう使うのが有益なんだろう。
◆
「あの、老士、よろしいでしょうか?」
ぼんやりしているうちに村の人が何人か集まってきていた。
もうそろそろ日も落ちつつある。この世界には電気なんてものはないから日が沈むころには仕事は終わって、早い時間に寝てしまい、早起きする。
夜更かしするタイプだったけど、ここに来たおかげで生活サイクルは健康的になった。
しっかり睡眠をとるとなんか体の調子もいい。
「ああ、ごめんなさい。さわがせちゃったですか?」
「いえ……そうではなくてですね、失礼ながら」
そう言ってその人が口ごもった。言いにくそうに村の人たちが目くばせしあっている。
「何でも言ってください。お世話になりっぱなしですし」
「はあ、では……この石の壁を頂いていいでしょうか?」
「へ?」
村の人が真剣な顔で言うけど、意図がよくわからない。
「この辺は大きめの石は貴重なのです」
「お許しいただければ……切り出して水路の補強や石畳に使いたいのですが」
「道術でつくられたものをそんな風に使っていいものか……もし失礼でなのなら、ですが」
村の人たちが口々に言う
「ええ、そんなことでいいなら。どれだけでも壊して、持って行ってください」
正直言って世話になりっぱなしだし。こんなことで役に立てるならむしろ大歓迎だ。
村人たちが嬉しそうに顔を見合わせると、一礼してしばらくすると金属の楔とかをもってきて作業を始めた。
なんか、こっちの世界に来ていきなり襲われて、道術で戦ったけど。よく考えれば、水道やガスがない世界で火が起こせる、水が出せるってのは、結構実用的な気がする。
太婀さんが苦笑いをしているところをみると、こういうのが道術の使い方と言う意味ではいいかは分からないけど。
どうせならこんな平和的に使えればいいんだけど、とは思う。
そして、その日から鬼蘭は夜ごとに部屋にやってきては、一緒に戦ってほしい、力を貸してほしい、とあらためてしつこく言うようになった
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