第5話 行使
何が起きたか分からなかったけど、一瞬の間を置いてアイコンのようなものが周りに浮かんだ。
薄く幕がかかったようなわずかに暗い視界に、かすかに明滅する光を纏ってアイコンが飛ぶ。
それぞれ、漢字の火、水、木、金、土、がアイコンにモチーフの様に描かれていた。
それが蝶がまとわりつくようにあたしのまわりを飛んでいる。
「8!」
こんな状況でこう思うのものんきなもんだけど、昔やったゲームのリングコマンドみたいだ、なんてことを思った。
使えるようになればわかる、というのはこういう意味ってことなんだ、と分かった。
本当に魔法を使えるの、すごい、なんてじっくり感慨に浸りたいんだけど、今はそれどころじゃない。
どうせならもっと落ち着いた状況の方がよかった。
「6!」
カウントダウンが進んで、部屋の中の緊張感が高まる。
殺気ってのは実際に肌に突き刺さってくるのが分かった。
改めて男を観察する。
銃はいわゆる火縄銃みたいなのように見える。さっき撃った奴も銃口から弾を込めていた。あの形式なら水に弱いはず。
……こんな状況で妙に落ち着いて周りを観察している自分は我ながらちょっとおかしい。
そういえば、あたしは昔から怒鳴られると逆に頭が冷えるタイプだった気がする。
「4!」
かちゃりと不吉な金属音がした。映画でよくある、銃を撃つ前の動作音みたいな音。
水のアイコンをイメージすると、あたしの周りを丸く囲むように浮くアイコンの一つの水のアイコンがあたしの前に来た。
アイコンに触れて、頭の中で雨をイメージする。室内に降り注ぐ雨。
符をもって、イメージし、思う効果を言葉にせよ。あのお爺さんが言っていたことを思い出す。
「2!」
「
不思議と唱えるべき言葉が分かっていた。それが昔から知っているように自然に口から声が出た。
符の文字が光ったような気がした。何かの力が熱の波のように自分の中に流れ込むのが分かる。
不思議な感覚。声とともに自分の言葉が波紋のように世界に広がる感覚。
符が溶けるように消える。一瞬の後に、天井で水滴が弾けて水が部屋中に降り注いだ。
◆ 祁 祁 祁 ◆
盥の水をぶちまけたような音がして盛大に水しぶきが飛び散った。
「なんだ?」
「撃て!撃ち殺せ!」
男たちが引き金を引く。でも硬い金属音が響いただけで弾は出なかった。
水にぬれて火薬が湿気るとああいう銃は発砲できなくなる。どこかの戦国時代の小説でそんな場面があったのを覚えていたのが幸いした。狙い通りだったけど良かった。
「逃がすな」
混乱から立ち直った男たちが、銃を槍のように構え直す。
撃ち殺されはしなかったけど、状況は改善してない。
「
女の人があいかわらず感情を感じさせない口調で叫んだ
「逃げよう!」
「
あたしの命令?を聞いた女の人が身をひるがえした。赤いチャイナドレスの裾が翻る。黒い短めの髪に縁どられた白いクールビュティな感じの顔が一瞬見えた。
観察する間もなく、その人があたしを横抱きにする。
「
細身の女の人とは思えない強い力でひっぱられて足が浮いた。とっさにテーブルの上の符を取る。
何かとぶつかる音がして、視界が白く明るくなった。目に飛びこんできたのは青空と白い雲、そっこに木の破片が舞うのが見える。
女の人がそのまま鎧戸をぶち破って外に飛び出した、あたしを抱いたまま。
……ちょっと、ここって五階
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます