第3話 升起
「ではいくつか教えておこう」
促されるままに机を挟んで小さな椅子に座ったあたしにお爺さんが表情を変えずに言う。
お爺さんが机の上の短冊のような紙をあたしの方に押しやった。
奇妙な文字が書きつけられたて赤い四角い印章らしきものが捺された……月並みだけど、呪符って感じの紙。
「私が君に預けるのは、火水木金土の五元素を使う
他にもいくつもの系統の術がある、それを学んで身に着けるもよし、この技を極めるのもよし。すべては君次第だ」
「はい」
そう言われてもいまだに半信半疑というか実感がわかない。
本当に魔法使いになれるんだろうか。というか、他の術なんてどこで習うんだろう。台湾にはほかに魔法使いがいるんだろうか
「この符は龍脈の力を集めて
「詠唱しないとだめなんですか?」
そういえば、さっきお爺さんも呪文を唱えていた。
「口に出すということは、誓いであり宣言であり命令だ。言葉にするのは大事なことだぞ」
「そうですか」
呪文を唱える自分を想像すると……なんていうか、演劇に駆り出されて下手な演技を爆笑された嫌な思い出がよみがえってしまう。
「符がなくとも
符を常に携帯したまえ」
あたしがそんなことを考えている間もお爺さんの説明は続いていた。
「いいかね、大事なことだぞ」
「分かりました」
あまりにも非現実的なことを言われているけど、口調は真剣だ。
まだ結婚なんてしたことはないけど、今から結婚式とかにでるときってのはこういう感じなんだろうか。現実感がなくて、なんかふわふわした気分だ
「そもそも、どうやって使うんです?具体的に」
この後使い方をレクチャーしてくれるんだろうか。
定番だけど、魔法を暴発させて世間を騒がせるなんてことはしたくない。
「今から君に私の力を受け渡す。今風に言うならアカウントの譲渡、というやつだな」
魔法がどうとか話をしているのに、いきなりやたらと現代的な用語が出てきて噴き出しそうになった。
「私のもつ魔法、
では手を出して」
言われるままに、机に手のひらをつける。そのあたしの手の上に赤い墨でなにか文様を描いていった。かすかなお香のような香りが漂う。
文様は、いわゆるゲームとかで見るような八卦陣っぽい感じだ。手際よくテーブルの上にも円を描いていく。
「この力を譲り受けて60年。私はこの力を何にも役に立てることができなかった」
しみじみした口調でお爺さんがいって、お爺さんがあたしの手の上に手を置いた。骨ばった細い、弱々しい手だ。あたしの手に重ねたままで、赤い液体で文様を描く
「君がこの力を、有意義に使ってくれることを祈っているよ」
お爺さんの手に力がこもる。
同時に手から何か熱いものが流れてきた。やけどをした時のように手の甲が熱くなる。
手を払いのけようとしたけど、細い手に似合わない力で抑えられた手を離すことは出来なかった。
お爺さんが静かな表情であたしを見ている。
熱い塊が手の平から体を突き抜けてきた。悲鳴のような良く分からない声が出た気がしたけど、自分にも聞こえなかった。
体が火をつけられた様に熱くなる。
追いかけてくるように頭を熱い塊で殴られるような感覚があって、意識が暗転した。
◆ 祁 祁 祁 ◆
遠くからなにか変なリズムが聞こえる……ドンドンという不規則に何かをたたく音がかすかに聞こえてきた。
「
強いけど落ち着いた、不思議な声がその音に割り込むように聞こえてきた。聞き覚えの無い声。
そう言えば、いまあたしはどこにいるんだっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます