第2話 遺產
目を開けると、赤い火柱が渦を巻くように部屋の真ん中に立っていた。
わずかに遅れて熱風が吹き付けてくる。赤い炎が部屋を明るく照らし出した。
慌てて一歩後ずさって、周りを見回す。
火事になるんじゃないか。でも火の粉が飛び散る様子もない。CGのように現実感の無い炎。
どのくらい火が燃えていたのか。
多分実際は10秒もないんだろうけど、お爺さんが手をパンと叩くと、火柱が電気を消すように消えて、部屋はまた薄暗くなった。
「これが魔法だ……正確には
どうだね、と言われても。
トリックか、ビール飲みすぎて酔っているのんだろうか。でもそんなにはのんでないと思うし、そんなに酒に弱い方でもない。
火は消えたけど、部屋の空気は燃やされた様に熱気がこもっていて、肌から汗が噴き出してくる。
「信じられないか……なら、
お爺さんがまた紙を一枚取り上げて言う。同時に、耳元で風が鳴った。
着ていたジャケットが風をはらんで膨らむ。
強く吹いた風が汗を拭き飛ばして体が一気に冷える。
ショートボブにした髪が逆立ってまるで見えない手で持ちあげられるかのように体が浮いた。
バランスを崩して後ろの壁にぶつかる。
壁に下げらえた掛け軸みたいなのについた鈴がすずやかな音を立てた。
わずかな間があって、風が収まる。
室内がまた静かになった。
「……本物?」
さっきの炎もそうだけど、この部屋の中でいきなりあたしの体を動かすほどの風が起きるとは思えない。
トリックとかじゃない?
「本物さ」
お爺さんが落ち着いた顔に少し満足げな笑みを浮かべて言う。
どんな映像や話を聞かされても信じられないだろうけど、目の前で起きてしまったものは何よりも説得力がある。まさに百聞は一見に如かずだ。
動画サイトで世界中の映像が見れるようになった。
SNSで地球の裏側にいる見知らぬ人ともリアルタイムでつながれる。
科学の粋を集めて作られたロケットで人間が宇宙に行って活動する時代。
もしかしたらクローンとかだってできるかもしれない。
SFの空想の物語がリアルになる日も遠くないって時代に、まさか魔法の存在を知るなんて思わなかった。
「すごいです!本当に魔法なんてあるんですね!ラノベとかゲームの中にしかないと思ってました!」
思わず声が上ずる。でもお爺さんがまた無表情に戻った。かすかに首を振る。
「すごい……そうかね?」
「いや、すごいじゃないですか」
「では、何に使うんだね、この魔法を」
「何って……」
「火をつけたければライターを使えばいい。水を出したければ水道を捻ればいい。風を起こしたければエアコンのリモコンの方が便利だろう」
「……まあ……確かに」
「それに、この科学万能時代に魔法なんてね。頭がおかしいと思われるのが関の山さ。
よしんば、本物だとしれたら、どうなると思う?」
確かに言われてみると……テレビで超能力者役をやってるくらいならともかく。本物と分かればそれこそ国家機密と称して研究施設に永久監禁されかねない。
現実的に考えれば……格好良く魔法を使う、なんて映画の中だけのものなんだろうか。
「魔法使いはいつでもつまはじき者になる。それでも君は魔法使いになりたいかね」
お爺さんが問いかけてくる。たしかに現実的に考えて、魔法なんてどこで使うんだ、と言われると。現代退魔ものの小説みたいに使う場面があるとは思えない。
「君が望むなら私の力を君に譲ってあげよう」
でも。本物を見てしまった以上。なりたくない、なんて言うことは出来なかった。
お爺さんの言葉にうなづいた。
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