第18話 天王院龍華12

 ピクニック当日。ジャノヒゲ公園到着後。


「これから気を付ける事を説明するから、しっかり聞いてね!」 


 子供達の前に立ち、注意事項を説明し始める木村先生。

 幾つかの列に並んで座った子供達が、それを聞いている。


 天気は晴れ。雲一つない快晴。実に清々しいピクニック日和だ。

 待ちに待ったピクニックということもあって、いつも元気な子供達はいつも以上にはしゃいでいる。きゃっきゃと俺のいる方にまで笑い声が聞こえてくる。

 楽し気な声を聞いていると、俺まで楽しい気分になってくるな。


 俺は隣でむすっとした表情を浮かべている龍華ちゃんに話し掛けた。


「ピクニック楽しみだな、龍華ちゃん」

「……ふん。口の軽いナンパ者など知らん」


 それだけ言うと、彼女はそっぽを向いてしまった。

 うーん。この前の件で機嫌を損ねちゃったか?


「――それじゃあみんな、怪我に気を付けて楽しく遊ぶように!」


 先生のその号令で、子供達は一斉に公園のあちこちに散っていった。



 ジャノヒゲ公園にある遊具はオーソドックスなものが多い。

 ジャングルジム、ブランコ、滑り台、ローラースライダー等々。


 俺が前世で幼い頃に遊んでいた遊具も普通にあるから、童心に帰るというか、なんだか懐かしい気分になってくる。まるで子供の頃に戻ったみたいで。

 ……いやまあ、子供の頃と言うか子供になっちゃったんだけどな?


 俺としては龍華ちゃんと遊びたかったんだけど、彼女はどうも、この前幼稚園で他の女の子達をハッキリ否定しなかったのが気に喰わなかったみたいだ。

 すっかり機嫌を損ねて、今は俺の方に全然近寄ってもくれない。


 今日は仲の良い女の子達と遊ぶつもりのようだ。


「龍華ちゃーん……」

「ふんっ」


 うん。辛辣。これは一緒に遊ぶのは無理そうだ。

 せっかくのピクニック。一緒にいたかったんだけどな。


 まあそれなら仕方ない。俺も偶には他の男子達と遊ぶ事にする。

 実はいつも結構な頻度で彼らに遊びに誘われたりはしていたんだけど、龍華ちゃんと一緒に居る為に、そのほとんどは断っているんだよな。

 彼らが気のいい連中じゃなければ、俺は絶対に嫌われてたな。


 スペースのある広場へと移動して、一緒に遊ぶ。


「いくぞアシキ! パス!」

「よっしゃ! それを俺が――シュート!」


 GOAL! ボールは見事に線を越えてゴールした!!


 彼らと一緒にやっているのはサッカーだ。

 両陣営の奥まったところに線を引いて、そこを目掛けてボールを蹴り合うというだけの超簡易的なルールだけど、これがやってみればなかなか面白い。


 なにより何度もゴールを入れられるのが気分爽快だ!


 子供相手に無双するなんて大人げない? はっは――知るか!

 今は俺も子供だから問題ないんだよ、バーカ!


「もいっちょシュートだ!」


 ほら、また入った!


「うわー! またやられた!」

「あいつつよすぎじゃね?」

「こんなのかてなくね? むりじゃね?」


「キャー! アシキくんそのちょうしそのちょうしー!」

「すっごくかっこいいよアシキくん-!」

「いいぞー! そのちょうしでだんしぼこってやれー!」


 はははははっ! 女の子達の声援がまったく気持ちいいな!!

 ……なにやら一部男子への敵意が溢れてるみたいだけど。


 龍華ちゃんは――よかった、ちゃんと見てくれている。

 他の女の子達とは違って一人だけこっそりと分かり辛い所にいるけど、俺の目は誤魔化せない。つまらなそうにこっちを見ているのが確認できた。


 そんな彼女に手を振ると……あらら。ぷいっと顔を逸らされちゃった。

 どうやら機嫌はまだ戻っていないみたいだ。とほほ。


「くっ、あいつめ……!」

「りゅうかさまのきをひきやがって……!!」

「じょしににんきなのもうらやましいのに……!!!」


「「「ぜったいにゆるせない……っ!!!」」」


「ここはおれたちもしゅだんをえらんでるばあいじゃないのでは?」

「たしかに。やつをたおすためには、せいこうほうはすてなければ」

「やつにかつためなら、じゃどうでもなんでもかまわない!!!」


「「「そうだ! いっそぜんいんでかかろう!!!」」」


 ――そして、あまりにも俺が勝ちすぎた結果。

 男子達のそんな相談により、チーム比が俺対他全員になった。


 なんていうかもう……笑っちゃうよな! この状況!


「ちょっとー! ひきょうよだんしー!」

「にんずうちゃんとかんがえたらどうなのー!?」

「ふぇあぷれいせいしんはないのー!?」


「うるせー! しかたないだろうがー!」

「こうでもしないとかてないんだよー!」

「ぶがいしゃはだまってろー!」


 しかも男子と女子と口論まで始めてしまった。

 どっちの言い分も分かるだけに、当人の俺はなんとも言えないが。


 ……しかし、このままじゃ埒が明かないな。


「はいはい。俺は構わないから、さっさと始めよう」


「さすがアシキくん! かんだいー!」

「そんなふところのふかいところもすきー!」

「だんしなんてぶっとばしちゃえー!」


「ぐぬぬぬ……! かっこつけやがって……!」

「おもいしらせてやるぜぇ……!」

「ひもてだんしのひがみ、うけるがいい!」


 ――そして、試合開始。


「おっらぁー! シュート!」


「「「ぐわぁーーーーー!?!?!?」」」


 まあ負けるわけないよねって感じです、はい。


 当然だ。今の俺の身体能力は、素で大人に競り勝てるレベルなんだから。

 魔法を使っていない状態でもほとんど全ての大人に勝てる身体能力を持つ俺が全力で戦ったら、そりゃ子供相手に負けるわけないんだよ、うん。


「キャー! アシキくーん!」

「かっこいいよー!」

「Ashiki-kun! Kill the boys!」


 はっはっはっ。女の子達からの声援が気持ちいい――

 ――今、英語で喋った子がいなかったか? しかもめっちゃ物騒な事。


 とはいえ、楽しい時間は永遠には続かない。

 木村先生から休憩のオーダーが入った。


「みんなー! そろそろ一旦休憩にしましょー!」

『はーい!』


 流石に先生の指示に従わない訳にはいかない。

 俺達もサッカーを中断して先生の下へ集まった。


「こらこらみんな。まだまだ遊び足りないのは分かるけど、今は体を休める為の時間だよ? たーっぷり休憩して、また元気よく遊ぶためのパワーを蓄えるの!」


 先生はやんちゃ盛りの子供達相手に忙しそうにしている。

 一ヶ所に留めるのにだってすごく難儀している様子。

 手を煩わせるのはアレなので、俺は大人しく男子と雑談をしていた。


「なあみたか!? きのうのライスかめん!」

「みたみた。すごかったよな」

「クァラーギェちゃんかわいかったよな」


 彼らが話しているのは『ライス仮面』という特撮アニメの事。

 今子供達の間で話題沸騰中の人気作、らしい。

 俺は見た事がないけれど、かなり面白いみたいだな。

 話しているのを聞いているだけでも、中々興味がそそられる


 ……俺も今度見てみようかな?


 さて。そんな感じで休憩していると、男子が一人駆け込んできた。


「たいへんだみんな! すごいのみつけた!!」


「すごいのってなんだ?」

「おたから?」

「クァラーギェちゃんがいたとか?」


「どうくつがあったんだ!!!」


 話を聞いてみると、どうも公園の近くで洞窟を見つけたらしい。

 すごく面白そうな場所だからみんなで見に行きたい、との事。


 ちら、と見ると話を聞いていた面々はうずうずしている。


 ……うーん。これは俺が止めても勝手に行きそうだな。

 止めるくらいなら一緒に行ってコントロールした方がマシ、か?

 それに俺の中にも行ってみたいって気持ちがあるし、な。


 木村先生の方を見てみる。相変わらず忙しそうだ。


 ――ごめんなさい、先生!

 でも止められそうにないんです!


 よし! 心の中で言い訳成功!

 俺はみんなの前で宣言した!


「気になるし、その洞窟に行ってみるか!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

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最強魔法使いの現代無双 雨丸令 @amemal01

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