天王院龍華Ⅱ
第17話 天王院龍華11
「アシキくん、一緒にあそぼ?」
「ダメっ、アシキくんはあたしと一緒にあそぶの!」
「やーだー! わたしが一緒にあそぶー!」
「あ、あははは。順番。順番になー?」
まさかのギャング襲来から数日。
『流雲幼稚園』はすっかり平和を取り戻していた。
……ただ。俺はあの日以来なぜか幼稚園に通う女の子達から異様にモテモテになってしまい、毎日のようにこうして取り合われる羽目になっているけれど。
というか痛い痛い! ちょっとは手加減してくれ子供たちよ!?
「むーっ」
ところで、龍華ちゃんは一体なにをしているんだろうか?
物陰に隠れてこっそりこちらの様子を伺っているようだけど。
彼女があんな行動をするようになったのはつい最近……というか、ハッキリと言ってしまえば女の子達が俺に話し掛けてくるようになってからだ。それまでは多少恥ずかしがる様子こそ見せていたけれど、普通に話をしてくれていたのに。
分からない。龍華ちゃんはどうしてあんな行動をするようになったんだろうか?
俺は女の子達に断って、龍華ちゃんの下までやってきた。
「あー、龍華ちゃん? そんな所に隠れていないで話をしないか?」
……これで反応してくれなければどうしようか。
俺は前世で、特別女の子の扱いに長けてた訳じゃない。むしろ異性関係は苦手分野だったと断言できる。彼女が反応してくれなければ何も出来ないぞ? 罵倒でも悪口でもなんでもいいから、何かしらの反応を見せてくれればいいんだけど……。
そんな俺の心配は杞憂だったようで、龍華ちゃんは顔を見せてくれた。
「……こなたなどに構わずとも、他の女の所に行けばいいだろう」
「えっ、と? 何を言ってるんだ? 龍華ちゃん」
「……分かっている。こなたはまるで愛想のない女だ。他の女達と比べると可愛げに欠ける。貴様が他の者にころりといく気持ちも理解してやれるつもりだ。けど、貴様には……貴様にだけは、ずっとこなたの傍にいて欲しかった」
こなたに惚れたと言ってくれただろうが――。
ぽつりと。龍華ちゃんは悲し気にそう呟いた。
「もしかして……」
そんな反応をされれば、流石に女心に疎い俺でも分かる。
「嫉妬してくれてるのか? 龍華ちゃん」
「は、はぁ!? そんなわけなかろう!! 一体なにをどう間違えばそんなとんちきな勘違いが出来るのだ!? 貴様、自意識過剰すぎるわっ。この、たわけ!」
お、おおう!? これはなんて分かりやすい反応!
顔を真っ赤にしちゃってめちゃくちゃ可愛い!
しかしそうか。龍華ちゃんは嫉妬してくれていたのか。
確かに自分に告白までしてきた男が、他の女の子達にデレデレしている姿を見せられたりすれば、気に喰わないと感じるのは当然の帰結だった。
いや、これは俺の配慮が欠けていたな。
彼女が嫉妬するのも当然だ!
「ごめん龍華ちゃん! あまりにもキミへの配慮が欠けていたな。他の女の子達には悪いけれど、これからは出来る限りキミの傍にいる事にするよ。だからそんな泣きそうな顔をしていないで、笑顔を見せてくれ。その方がとても素敵だからさ」
「な……っ! ななななななな、なぁあああっ!?!?!?」
龍華ちゃんの表情はもはや沸騰寸前、といった様相。
そんなに血が上って大丈夫なんだろうか?
「貴様! またか!? またなのかッ!? 一体どれだけこなたにナンパな言葉を投げ掛ければ気が済むのだ貴様は!? 発情期のサルだとてもう少し場の雰囲気というものを考えてメスザルに粉を掛けるだろうッ!! 貴様はサル以下か!?」
「サル以下ってのはちょっと酷いなー。俺はこんなにもキミを想ってるのに」
というか発情期のサルって……罵倒としては中々キツくない?
5歳の時点でこれだけ威力のある口撃ができるんだから、もっと大きくなったら一体どうなってしまうんだろうか? 罵倒だけで人の心を折ってそうだ。
もしかしたら俺も将来的には泣かされてしまうのかもしれない。
「うるさい! 言われたくなければその軽い口をちゃんと躾けておけ!」
「動物じゃないんだけどな……。分かったよ、あんまり言わないようにする」
うーん、となると今後はどうやって彼女を照れさせるか。
褒めずに龍華ちゃんを照れさせるのは難題だけど……ふっ。彼女相手なら俺はプレイポーイになれると分かったんだ。その程度の難題、やってみせるさ!
「……犬童貴様、何かよからぬ事を考えていないか?」
「ははは、そんなことはないさ。ちょっと未来に想いを馳せてただけだよ」
「本当か……? 貴様は存外調子に乗りやすいタイプのようだからな……」
龍華ちゃんのジトっとした目が俺を射抜く。
どうやら彼女に疑われてしまったようだ。悲しい。
……まあ俺の自業自得なんですけどね、はい。
「アシキくん、まだー?」
「もういいでしょー!」
「こっちで一緒におままごとしよ?」
「なっ、貴様ら……!?」
おっと。そんな話をしている間に、女の子が焦れてしまったようだ。
龍華ちゃんとの間に割って入って来て、俺を腕を引っ張ってくる。
そんな可愛らしい侵略者に、龍華ちゃんは愕然としている。
「てんのういんさんはもう沢山おはなししたでしょ!」
「こんどはあたしたちが一緒にあそぶ番だから!」
「あっちでおままごとするの! てんのういんさんも一緒にやろ?」
「ええいどけ貴様ら! このバカはこなたのものだぞ!?」
あはは。まさか俺が同年代の女の子達に取り合われる事になるなんて、転生する前は夢にも思っていなかったなー。生まれ変わる前は女の子と接点無かったし。それが今じゃ女の子達から大人気になるとは、人生分からないもんだ。
それにしても……世のハーレム実践者って凄いよな。尊敬するよ。
仲違いさせる事なく、何人もの女の子達と良好な関係を築いているんだから。
俺は今でさえ女の子達の争いで腕が外れそうになっているというのに。
あぁ……それにしても腕が痛い。
「「「アシキくんはわたしたちと一緒にあそぶのー!」」」
「犬童は私の傍に居なければならないのだー!」
「先生からみんなにお知らせがあります! 今度の日曜日、そら組のみんなでジャノヒゲ公園にピクニックに行く事になりました! 当日に体調を崩さないように気を付けて。公園でお弁当も食べるから、お父さんやお母さんに準備してもらってね!」
なるほど公園にピクニックか。これは楽しい行事になりそうだな。
……ちなみに、バナナはおやつに入るんだろうか?
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