第2984話 まだ終わっていない。なぜなら、ここには、まだ、俺がいる。


「……存在値19兆で、戦闘力もバリクソ高くて、かつ、殺しても無限に蘇生し続ける化け物か……はは……エグいね……」


 目の前の『重すぎる絶望』に対し、

 センが、つい、クラクラしていると、


 ――背後から声が聞こえた。




「だから、オイちゃんを殺しておけと、あれほど言ったのに……バカでちゅねぇ、ほんと」




 それまで黙って静観していたシューリが、

 セーフティエリアを抜け出して、センの近くまで寄ってきていた。


「まあ、いまさら言っても仕方がないでちゅけどね……こうなったら、いさぎよく、一緒に死にまちょう。ここまで頑張ってくれたお礼に、一回くらいは、あの世で、間接キスぐらい、してあげまちゅよ。光栄に思ってくだちゃい」


 などと、『達観した顔』で『諦観のジョーク』を口にした。

 生きることを完全に諦めてしまっている彼女の横顔を睨んで、

 センは、


「まだだ……」


「はぁ? なにがでちゅか?」


「まだ終わっていない……」


「いや、終わりまちたよ、完全に。相手は無限蘇生持ちの存在値19兆。対するこっちは『死にかけのブサイクなガキ』と『世界一美しいだけの美少女』の二人。完全に終わっていまちゅ」


「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」


「言葉遊びを使いまわしたところで、現状は何も変わりまちぇんよ。それとも、何か起死回生の奇策でもあるんでちゅか?」


「ある」


「へぇ、どんな?」




「俺がここにいる」




「……はい?」


「俺が、まだ死んでいない……」


「だからなんなんでちゅか?」


「確かに、アダムは強い。それは事実だ。だがなぁ……」


 そこで、センは、まっすぐに、アダムをにらみつけて、






「俺より強いという程度の雑魚に、俺は負けねぇ。俺がいる限り、何一つとして、終わりはしねぇんだよ」






「え、あの……もしかして、ソレ、本気で言ってまちゅ?」


「当たり前だ、ボケが。俺は『ファニーなシャレ』を愛する小粋な男だが、その手の嘘だけは絶対につかねぇ」


「……」


「シューリ、セーフティエリアに戻れ。そして、俺がアダムを助け出すまで、二度と出てくるんじゃねぇ」


「……」



「ヒーロー見参……」



 ギリっと、奥歯をかみしめる。

 喉を振るわせて、

 魂の限り、






「ヒィイイロォオオ見参っっっ!!!」






 覚悟を叫んでから、

 センは飛び出した。


 まずは、アダムの武を知ろうとした。

 決して、ヤケクソで飛び出したわけではない。


 ――相手は、存在値19兆で、無限蘇生というチートスペシャルをもっている。

 全ての情報を、正確に理解した上で、センは、

 『どうすれば、アダムを救えるか』という思考に没頭する。


 常軌を逸した『不屈』っぷりに、

 アダムは、辟易した顔で、


「貴様、マジか?」


 呆れながら、センの攻撃を、あえて紙一重のところで回避する。

 ヒラヒラと、柳のように、センの猛打をもろともせず、


「信じられない……センエース、貴様、本当に、まだ、私をどうにかしようとしているのか?」


「当たり前すぎて返事する気にもならねぇ」


「異常だ……貴様、おかしいぞ。彼我(ひが)の戦力差を少しは考えろ……勝てるワケないだろう? 私の存在値は19兆だぞ」


「うっせぇよ。……さっきから、ずいぶんと気にしているが、数字がどうかしたのか?」

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