第2985話 ばいばい。


「19兆だろうが、100京だろうが、無量大数だろうが、知ったことか、そんなこと」


「開き直れば、何かがどうにかなるとでも? 頭がバグって単純な計算すら出来なくなったというのであれば、数字の意味を思い出せてやろう」


 そう言いながら、

 アダムは、拳に少量のオーラを込めて、


「これが、存在値1000相当の拳だ」


「ぐぼへぇっ!!」


「すべてを出しつくしてからっぽになった貴様には、かなり効くだろう。卓越したオーラコントロールで防御力を高めることができなければ、貴様など、ただのレベル1だ。さて、次は、存在値2000相当で蹴ってみようか」


 言いながら、センのみぞおちにヤクザキックをぶちこんでいく。


「うぼぉええええっ!」


 噴水みたいに血をはくセンに、

 アダムは、


「数字の怖さを思い出したか? 存在値1は存在値1000に勝てない。つまりは、この世に、『存在値19兆の私に勝てる者』は存在しない」


「ぶへぇ……おへぇ……はぁ、はぁ……確かに難しいな……さて、どうしようか……どうすれば……お前を……黙らせられるかなぁ……」


「まだ、言うのか……いい加減、諦めたらどうだ? 本当に、気持ち悪すぎるぞ、貴様」


「……考えろ……どうすればいい……どうすれば、俺は……アダムを救える……」


 ビリビリと、センの脳波が伝わってくるようだった。

 センの目は完全にイカれてしまっていた。

 人間とは思えない気迫。

 なんと、イカれたことに、

 このごにおよんで、センは、



 ――ほんとうに、まだ、諦めていない。



「……センエース。今、私は貴様に『本物の恐怖』を覚えたよ。貴様の力はゴミみたいなものだが、その精神性は『いびつな狂気のかたまり』と言えよう。もう、一秒たりとも話したくない。今、すぐに、死ね」


 そう言い捨てると、アダムは、右手をセンに向けて、

 もはや、無駄な言葉を一切使わず、


「――異次元砲」


 センを確実に殺しえる異次元砲を放った。


 異次元砲が直撃するギリギリまで、

 センは、必死に考えていた。

 ――オメガバスティオンを使おうか――

 ――使ったところで、どうなるだろうか――

 極限状況下で加速した脳で、色々と考えるが、何も浮かばない。


(ど、どうすれば、アダムを――)


 それでも、諦めずに、どうすればアダムを救えるか。

 その思案に没頭していた――

 その時だった。


 ドンッッ!!


 と、センの体に衝撃が走った。

 タックルされたとすぐに理解できた。

 それをしてきた相手が誰であるかも。


「シューリ……」


 シューリは、


「ばいばい」


 最後にそう言って、

 アダムの異次元砲に貫かれた。


 次元の違うエネルギーは、

 情け容赦なく、シューリの全てを奪っていく。


 ほんの一瞬で、

 跡形もなく、

 あっさり、


 ――完璧に蒸発してしまったシューリ。



 ……死体すら残さない完全な死。

 それを目の当たりにして、センは、


「……」


 ガチリと、頭の中で、何かが外れた気がした。

 最初から、頭おかしいセンだが、

 今、この瞬間に、『ネジ』なのか『歯車』なのか『留め金』なのか分からないが、

 とにかく、センの中で、なにかが外れた。


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