第2980話 準備は完璧に整った。


「あれだけの地獄を見れば、どんな無能でも、さすがに開く」


 そう言いながら、センは、胸の前で両手を合わせた。

 祈っているのではない。

 ただ、心を統一させているだけ。






「……神化……」






 その瞬間、

 センの全身が深い光に包まれた。


 半神の時とは比べ物にならない深み。


 それを見て、アダムは、


「ははは。よく頑張ったじゃないか。存在値が『700億』近くまで上がっているぞ。たいしたものだ。貴様が積んだのは、確か、全部で4億年か? くく……すごい、すごい。よくも、まあ、それだけバカみたいに長い時間を積めたものだ。貴様は間違いなく異常だよ、ほんと、すごい、すごい」


 かるく、言葉と拍手を送ってから、


「で? おかわりの1億年で得たものは、それで終わりか? だったら貴様は死ぬしかないが?」


 その言葉に応えるわけではないが、

 センは、


「虹を集めた虚空。玲瓏(れいろう)な蒼穹(そうきゅう)。幻想の戒光(かいこう)。貫くような銀河を見上げ、煌(きら)めく明日を奪い取る。さあ、詠(うた)おう。詠おうじゃないか。たゆたう銀河を彩(いろど)りし、オボロゲな杯(はい)を献(けん)じながら。――俺は、センエース。神威(かむい)の桜華(おうか)を背負い舞う閃光!」


 神化よりも『上位のギア』をいれる。

 自由かつ局所的に『性能』を強化させる事ができる便利なバフ『鉄心コール』。


 『おそろしくダサい』代わりに『上昇値・極大化』というアリア・ギアスがかかっている覚醒技の一つ。


 それを見たアダムは、


「ははは。強化コールか。OK、OK。好きに積んでくれ。なんだったら、まだ待とうか?」


 お言葉に甘えて、

 センは、毘沙門天の剣翼を再展開し、

 エグゾギアを再起動して、

 カースソルジャーを再配置する。


 そこで、一度深呼吸をはさんでから、



「レディ・パーフェクトリー。準備は完璧に整った」



「私の視点だと、まったく完璧だとは思えないが……まあ、貴様がどう思うかは貴様の自由さ」


 そう言いながら、アダムは、しなやかに武を構える。

 そんな彼女に、センは、


「ただのテンプレに、素で返すんじゃねぇよ。粋じゃねぇなぁ。そういうとこだぞ」


 などと、ファントムトークでお茶をにごしていく。

 空気を掌握していく。


「それじゃあ、行くけど……まだまだお前の方が、遥かに数値は上なんだから、ちゃんと俺のことをナメくさって、しっかりと手を抜いてくれよ。頼んだぜ」


 ――最初に動いたのはセン。

 アダムは一貫して、上位者のスタンスを崩さない。

 あえて、すべてを受け止めて、センの全てを弾き飛ばす。


 今回もそのつもりだった。

 アダムがそのつもりであることを、

 ――センも理解していた。

 だから、


(……初手に全部をこめる……)


 オメガルームで、指南役のオメガに殺されかけている間、

 ずっと、センは、『アダムに一発かます方法』を模索していた。


 数値の上では圧倒的上位者であるアダムと、ぐだぐだ殴り合いしても無意味。

 やるなら、ド頭不意打ちの一撃必殺しかない。


(――『俺の方が圧倒的に弱い』という『この状況』だからこそ出来ることがある。圧倒的上位者であるお前は、『赤子に等しい俺』と『正面から殴り合うこと』はできない。いなして、あやして、小ばかにして、全部やってから、アクビ交じりに踏みつぶす――それ以外の手はとれない)


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