第2702話 キチ〇イじみた精神的潔癖。


「センエースを信じない自由。別に好きにすればいいが、しかし、これが、現実だ、カンツ・ソーヨーシ。センエースの大きさを知っている私と、何も知らない貴様の差。この事実を正しく理解しろ。そして、死ね」


 カンツは、


「……貴様は……センエースの……何を知っているという……」


 血をかみしめながら、

 ウムルに問いかけた。


 カンツからの問いに対して、

 ウムルは、間髪(かんぱつ)入れず、

 けれど丁寧に、


「一つだけ言えることがあるとすれば、『ゼノで最初に戦った時のセンエースと私』の間には、『今の貴様と私』以上の差があった。それでも、センエースは私に勝って見せたぞ」


「……」


 ウムルの言っていることの『詳細』は分からない。

 ゼノがどうとか言われても分かるわけがないのだ。


 ただ、『相手が伝えようとしている内容を読み取る力』が欠けているワケではないので、


「センエースは……実在……するのか……?」


 頑張って咀嚼した上で、

 大事な疑問を投げかけてみた。

 その質問に対し、

 ウムルは、


「もしセンエースがいなければ、すべての世界は、数千年前に終わっていたさ」


 結論を言われたカンツは、

 コンマ数秒の間をとってから、


「……ならば……なぜ……」


「あん? なんだ? 声が小さいぞ。声のデカさだけが取り柄の類人猿なんだから、ちゃんと聞こえるように声を張れよ、カンツ・ソーヨーシ」


「……なぜ、世界には……まだ……問題が、山ほどあったのだ……ゼノリカを持つ第二~第九アルファは……原初やココと比べれば……だいぶ整っていた方だったが……インフラ面でも、政治面でも、まだまだ不備はある……ワシが満足するレベルではない……裏社会に蔓延(はぶこ)る闇は、まだまだ拭いきれていない……命は、まったく、倫理的完成に届いていない……」


「ああ、そうだな。で、それがどうした?」


「センエースが実在するのであれば……なぜ、センエースは、それらの問題から目を背ける!」


 結局のところ、カンツは、異常なほど潔癖なのである。

 ドナとは方向性が違う正義の化身。


 『世界が完全ではない』ということが許せない精神的潔癖症。

 もはや、大病と言っても過言ではないド級の精神疾患。

 そんなカンツにとって、第二~第九アルファは、

 まだまだ不十分だった。


 相対的に見れば『善人にとっては理想郷』のような世界だが、

 カンツの理想からはまだほど遠い。


 だから、カンツは前線に立ち続けた。

 実力と実績だけでいえば、彼は、十席にとどまる器ではない。

 下手したら、三至にまで食い込めるのではないかと思えるほどの、

 圧倒的なスペックを持ちながらも、

 ずっと、現場の最前線、楽連の総帥『超・長強』という立場に立ち続けた。


 理想とする世界を実現するために、

 カンツは、超越者が享受(きょうじゅ)できる権利も自由もすべて捨てて、

 『世界のためだけに奔走する正義の化身』で在り続けた。


 もし『聖典に刻まれたセンエース』が実在するのであれば、

 自分ごときが、ここまで必死になって駆けずり回る必要はなかったはずだ。

 ――と、カンツは心底から思う。

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