第2698話 ゼノリカとウムルの距離。


「あのウムルとかいうカス、想像を超えて強い! これ、死ぬぅううう! 殺されるぅうう!」


「うるさいわね。というか、カンツの回復はまだ?」


「中心がぶっ壊されているので、なかなか難しいんですよ!」


 ヒッキは、バフ魔法だけではなく、

 回復系の魔法もえげつないスペシャリスト。

 単純に『死にかけているだけの状態』ならば、秒で回復できるのだが、

 今のカンツのような極限状態だと、そうもいかない。


 外側の回復は得意でも、中心の回復に関しては得意と言い切れるほどでもなく、外側の回復が必要ないカンツの回復には普通に手間取っている。


「ていうか、カンツが戦線に復帰しても、これ、勝てないでしょ! え、どうするんですか?! やばいですよ! すげぇジリ貧ですけどぉ!」


 ――と、ヒッキが絶望を叫んだ、その時だった。



「遅れて悪かったわね」



 と、丁寧に謝罪しながら、

 カンツの回復に手をかしてくれる美女が一人。


「カンツがここまでやられるほどの相手……想像していた以上にヤバそうじゃない……」


 九華十傑の第十席序列4位。

 高身長で、筋肉質で、しかし、威圧感は感じないママ味のある芯の強そうな女性。

 ジャクリナ・ジストメナ。


 メイン職業は『監督』。

 ゴリゴリのアタッカータイプでありながら、

 『メンタル系の支援能力が高い』という変わったタイプの超人。


「ソリューション4」


 特別な回復魔法を使うことで、

 カンツは、


「ゴフッ……」


 血の塊みたいなものを吐き出して、

 ガッっと目を見開くと、


「……が……がははははは! 普通に負けたぁあ! 情けない! がはははははは!」


 己の無様さを全力で笑い飛ばしていくカンツ。

 どんな時でも豪快に笑ってみせる。

 それが、カンツの意地であり誇り。


 ――すぐさま立ち上がって、

 オーラと魔力を充満させていく。


「ヒッキ! 全力でワシを強化しろ! 今一度、ワシがメインアタッカーを務める! アクバート! お前も、中距離からのダンテレイ連打に切り替えろ! ウムルに対する盾と剣の役目はワシがやるぅうう!!」


 こうなった時のカンツは絶対に引かないし、

 『カンツの選択こそが最善である』と理解もできているので、

 アクバートは、変にプライドを優先させることなく、

 カンツに、最前線を譲った。


 そこから先は、カンツを中心とした連携攻撃。


 その途中で、他の十席も加わった。

 十席十三位のクマートゥ、

 十席八位のズシオー・マルトキン・G・オーレム、

 十席六位のゴーストライト・ソメイリマン。


 この三名は、ゴリゴリのアタッカーだが、

 ゼノリカの天上に属する者は、前衛職であっても、

 支援系や中遠距離系の技を会得しているのが当たり前。


 『カンツをメインにする軸』は変わらず、

 天下のサポートも受けながら、

 全員で一丸となって、ウムルに対して突貫攻撃をしかけていく。


 ――だが、届かない。

 ウムルは涼しい顔をして、

 すべての猛攻をあざやかにさばいていく。


 この状況を受けて、

 ゼノリカの面々は、ただただ奥歯をかみしめる。

 ウムルと自分たちの『距離』を肌で感じてくじけそうになる。


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